深緑琴音のエピローグ
バスを乗り継ぎ、山だらけの景色を見て大きく息を吸い込む。
ここが私の新しい場所。
スゥーっと息を吸い込み、頬をパチンと叩く。
「頑張らなくちゃ」
そう呟いて、一歩踏み出した。
全校集会が終わっても私はまだ会議室で取り調べを受けていた。翔くんが不幸になる事を除いて、全て吐き出した。
もう私は教職にはつけない。それでも、こんな私を愛してくれた翔くんだけはせめて、人生を終わりにして欲しくなかったのだ。
そして、取り調べを終えた後、教頭先生が口を開いた。
「……深緑先生、お気持ちはわかりますよ」
その言葉に私は顔を上げる。
「教頭先生?」
「えぇ、私も学生の頃、教師の方に恋をしたことがありますから」
そして、その後昔を懐かしむように、淡々と気持ちを語る教頭先生。それを聞いている途中で、私は涙が止まらなくなった。
だって、その話があまりにも、私と翔くんに似ていたから。
全てを話し終えた教頭先生は私の肩に手を置き、ゆっくりと口を開く。
「この事案に関しては、教職という立場上、水に流すわけにはいきません。しかし、人が人を好きになることは仕方がないことです。それにあなたはまだ若い。だから、深緑先生には異動命令を出します」
私は、その言葉に目を見開く。そして、再び大粒の涙が目からこぼれると、
「ありがとうございます」
そう頭を下げた。
近くのファストフード店でコーヒーを啜る。
大きな窓に聳え立つ大きな山の頂ををただ眺めた。
本当はこんなことあってはならないし、普通は免職になる。でも、教頭先生のおかげで、私は教師を続けられてる。
条件は、翔くんが高校を卒業するまでは一切彼にコンタクトをしないこと。ただこれだけだった。
だからそれまでは、精一杯『深緑先生』を続けようと思う。
そしていつかどこかで、社会人になった翔くんに『コト姉』として会えたらいいな。
スマホの写真フォルダを開いて、彼と撮った写真を眺める。
「……でも、あの手紙は少しカッコつけ過ぎちゃったかな」
転居する前、翔くんに宛てた手紙。
『うまく、幸せになってね』
そんなワンフレーズがまだ頭の中に残っていた。
深緑琴音のエピローグ またいつか。君と
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