第17話

『今日はごめんな、わざわざ誘ってもらったのに』


 シャワー浴びてホカホカした頭でそう、メッセージを送るとすぐに返ってくる。


『気にしないで!てか、災難だったね、傘がなくなってるなんて』


『まぁな…でも、本当にごめん』


 そして既読がついてから数分が経って、『本当に気にしないで! 実はあの後、用事が入って、カフェすぐに出ちゃった』と、おちゃらけたウサギのスタンプと一緒に返信されてきた。


『まぁ、なんて言うか、私的にもちょうど良かった…のかな?』


 そんな文面を見て思わずふふっと鼻をならす。コト姉がどんな表情でメッセージを打っているのか、なんとなく想像できたから。


『そっか、それじゃまた時間がある時にでも声かけてよ、俺も時間作るから』


『了解!ありがと』


 と言うメッセージで締め括られて、ふぅ、と息を吐き出す。


 ゴロリと仰向けになって天井を見上げると、白い灯りに少し目を細めた。


 なんとなく虚無な時間。窓の外の雨音と、枕に吹っかけたファブリーズ。


 少しでも濡れまいと走ってきたせいか、なんか眠くなってきたな…。


「少し寝るか…」


 と、目を瞑るとすぐに、「お兄ちゃーん、ご飯できたよー」と、麻耶がドアを叩く。


 腹は減った。だけどそれに反して体が起きてくれない。その後何となく「後で向かう…」って言ったような気がしたけど、あまり覚えていなかった。





「お兄ちゃーん、ご飯できたよー」


 2階から麻耶ちゃんの声が聞こえる。


 傘を忘れたのかな?お兄さんも凄くびしょびしょだったから、風邪引かなければいいけど…。


「…もしも、帰る時にお兄さんいたら、3人で相合傘できたかもね」


 実は私も傘を忘れた。だけど運良く麻耶ちゃんが傘を持ってきてたから、2人で傘に入って帰ってきた。


 だから、もしあの場所にお兄さんもいたら、なんとなくお兄さんが傘を持ってて、その横で「お兄ちゃんもっと右!」って言ってる麻耶ちゃんがいて、それを見ながら「仲良いね」って笑っている私を想像して、思わず笑った。


「でも、3人はちょっと狭いかな」


 —服着ないと、風邪引くぞ。


「…」 


「もぉー、絶対に来ないじゃん」


 と悪態をつきながら階段を降りてくる麻耶ちゃん。その後、二階に向かって「葵ちゃんの手料理、全部食べちゃうからーっ!!」って叫んでるのを見て、くすりと笑った。


「ん? どしたの葵ちゃん?」


「ううん、なんかあれみたいだなーって」


「ん? あ、あれね」


「そう、あれ」


 …。


「「明日からお前の席ねぇーから!!」」


 二人でハモって、お互いに笑った。


「あはは!なんでハモるし!でも分かりみだわー」

 

「ふふふ、やっぱり麻耶ちゃんサイコーだね♪」


 その後は二人で晩御飯を食べた。


 本当は3人分のオムライスを作るつもりだったのだけど、お兄さんが起きて来なそうだから、麻耶ちゃんの方に全部足しちゃった。


 そしたら、「なんかマヤが食いしん坊みたいじゃん!ウケる」なんて笑っていたけど、美味しいって言ってくれて素直に嬉しかった。


「あぁ〜食った食った〜、ご馳走様葵ちゃん」


「うん、お粗末さまでした♪」


 ソファーに座る麻耶ちゃんが「ん〜!」と背伸びをすると、顔だけをこっちに向けてにへらと微笑む。


「こんな美味しい料理が食べられるの、まじ幸せだわ」


「そう?」


「うん、だからさもう、うちらで結婚しちゃおーよ」


 あ、苗字は恋瀬川がいいなぁー、って白い歯を見せる。


「えー、嬉しいけど…麻耶ちゃんキッチン火事にするからお断りしまーす♪」


「うわ、素でショック…死の」


「あはは!でも…」


 エプロンを外して、麻耶ちゃんに近づく。


 本当に麻耶ちゃんは良い友達だ。面白くて、学校で一人ハブられてた私にも、周りの人目じゃなくて、本当の私を見てくれて、接してくれる。


 麻耶ちゃんがいるから私、前に進めた。


「ん、葵ちゃん?」


 顔を近づける。


 そして、もっちりとした肌と、柔らかい唇の感覚。


 そのまま体重をかけると、んっ。と驚いたような声を出して、体から力が抜けていくのが分かった。二人分の体重がふかふかのソファーに沈む。


 なんかそう言うところはお兄さんと似てて、かわいい。


 唇を離して、ふふって鼻を鳴らす。


 驚いたような、だけど、どこかうっとりしたような表情の麻耶ちゃんに、「キスならいいよ」そう微笑む。

 

 すると。


「なんか、めっちゃドキッてした」そう呟いて、視線を逸らす。


「キスのしかた…エロかった」


「ふふっ、麻耶ちゃんかわいい♪」


 そう麻耶ちゃんの頭を撫でると、体を起こしてキッチンへ戻る。


「とりあえず、洗い物済ませちゃうね」


「…うん、ありがと」


 そんな恥ずかしそうな麻耶ちゃんはテレビへと目を向ける。


 だけど、そんな麻耶ちゃんの耳が真っ赤になっているのを見て、思わずくすりと笑う。



 だって、そう言うところまでお兄さんそっくりなんだもん。



 でも、最近お兄さん冷たいなぁ。


 …。


 時刻は午後9時。


 外はまだ、カエルが心地よく泣いているのでした。



 


 第17話  フレンドリー・キス


 


 


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