第2話 


 …。


 結論から言おう。俺は盛大に遅刻した。


 家を飛び出してすぐに靴紐が切れて、バスに乗り遅れ。電車にも間に合わない。


 それだけならまだしも、よりにもよって、いつも通っている道が10分差で工事のために閉鎖され、挙げ句の果てに駅に止めておいた自転車も無くなっていた。


 …。


 え、なにこれ。


 俺そこまでギャグ漫画補正付いているつもりないんだけど。


 とまぁ、そんなこんなで麻耶の入学式には間に合いませんでしたよと…。めでたしめでたし。

 

 …。


 今日のなにが悪かったのだろうか、やっぱり星座占いを見なかったからか?


 …でも結果はわかる。


 たぶん最下位だ。


「はぁー…とことんツイてないなぁ…」


「たぶんそれは、日頃の行いが悪いんじゃない?」


 午前10時25分。


 あと5分で次の授業が始まる教室で、そう俺に声をかけたのは、隣の席の美咲だ。


 机に突っ伏してへにゃってる俺に、ポニーテールをるんと踊らせながら言葉を続ける。


「だから日頃から徳を積みなさいって言ってるのに」


「日頃の徳云々でどうにかなるレベルじゃねぇっての」


 盗まれたチャリ6万だぞ6万。とため息を混じりに答えると、へぇ〜っとあまりに興味が無さそうに返事を返す。

 

 そんな美咲は今日も香水の香りがほんのりと香っていた。


 雨貝美咲あまがいみさき。こいつとは中学の時に出会ってから、今の今までずっと同じクラスメイトであり続ける、腐れ縁を通り越して、一種の呪いみたいな関係の同級生だ。


 気が強そうなぱっちりとした目と、スポーティなポニーテール。身長はそこまで高くはないが、何を隠そう、一年生の頃からバスケ部のエースとして活躍する、スーパーJKなのだ。


 そんなキラキラした奴が中学生の頃からずっと、視界の端っこに居続けるわけだ。


 扱いにも、目も疲れる。


 はぁ…とため息を吐くと、そのタイミングで担任の先生が入ってきた。


 隣の席で、いそいそと教科書を机に出すと、スマホをしまう。


 そして何かを思い出したように、あ。と声を出すと美咲が早口に。


「新しく入ってきた先生さ、美人で、めっちゃおっぱい大きかった」


「…なんで俺に言うし」


「いや、翔そう言うの好きかなって」


「どう言う偏見だよ…まぁ、好きだが」


「はい、これで良いこと一つあったね」


 ふふっと鼻を鳴らすと人差し指を俺向ける。


「本当のポジティブは、小さな幸せをきっかけに、明るい思考に転がすのがうまい人の事らしいよ」


 そう言ってにこりと笑う。


 まぁ、詰まるところ元気出せと言っているらしい。


 本当こいつらしいな…と思いつつ、はいはい、デカパイな先生やった〜とふざけたら、何それキモッ。と、心地よく鼻をならす。


 …まぁ、美人でデカパイ先生が新しく来た事と、その良いことが、どう繋がるのかは不明だが、ちょっとだけこいつのおかげで気が紛れたような気がした。


「でも、イケメンな先生は来なかったなぁ〜」


「安心しろ、俺がいる」


「…ん。」


「おい待て、なんで鏡を向ける?」


「え、言わなくちゃ分かんない?」


 …。


 なんか傷つくわ…こう言うの。




『第2話 スーパーポジティブシンキング』


 

 




 



 


 

 


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る