第二章 ーIt takes all the running you can doー 迷走コラボレーション
第二章 序章 虹色ボイス事務所の裏事情
2023/5/5 に追加した序章です。
読まなくても本編には影響ありません。
虹色ボイス事務所の裏事情が書かれています。
本来は書く予定がなかったのですが、物語の展開上マネージャーにヘイトが溜まりがちだったので、少し踏み込んだ内容を明かしてます。
なお主人公は出ません。
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虹色ボイス事務所の会議室。
真宵アリスの専属マネージャーの相田愛は上司に呼び出されていた。
相手は現場トップの統括マネージャーの肩書を持っている島村専務。
ロリコーン事件対応のトラブルシューターとして抜擢されて、虹色ボイス事務所を取り巻く環境を改革した切れ者であり、現在の虹色ボイス事務所の中核を担っている重鎮である。
「まずは真宵アリス君の収益化おめでとう。それとも宿願達成を祝うべきかな?」
「は……はい! ありがとうございます!」
「そんなにかしこまらなくていい。キミと真宵アリス君……いや三期生全員だな。収益化まで自主性に任せる。そう言えば聞こえがいいが、事務所として十分なバックアップができなかっただけだからね。本当に悪いと思っている。済まなかった」
「いえ島村専務! 頭をお上げください!」
真宵アリスの配信に関して糾弾される。
そのための呼び出し。そう思い込んでいたので予想外の謝罪に慌ててしまう。
真宵アリスの活動は結果だけを見れば、収益化できて人気も話題性もある。
十分すぎる成功だろう。
讃えられるべきだ。
ただし事務所の方針に反した独断専行の結果でなければと注釈がつく。
真宵アリスは虹色ボイスのVTuberとして本採用されたわけではなかった。
生配信などの活動を軸にするのではなく、歌ってみたなどの動画投稿を中心に行う研修生枠での採用だ。
同期三期生の七海ミサキと同じ扱いだった。
だが歌手活動だけではネット冤罪を晴らすという目的が達成できない。
ネット冤罪を晴らすためには、歌ではなく話を真剣に聞きに来てくれるリスナーが重要になる。
そのために生配信での活動が必要だった。
三期生デビューと重なる形で起きたロリコーン事件。
虹色ボイス事務所は三期生のバックアップが満足にできない状況に追われた。
事務所からの干渉が少ない。転じて現場の裁量が大きい状況だった。
真宵アリスも独断専行できたのはそのおかげと言える。
身バレの危険性が高いネット冤罪被害者の暴露も独断だ。
事務所に事前の報告していなかった。マネージャーとしての報告義務を怠った形となる。
全ては真宵アリスがネット冤罪を晴らせるようにするため。
マネージャーとして一人の演者に肩入れしすぎだ。虹色ボイス事務所の看板を私物化している判断されてもおかしくない。
最悪クビになる事案だった。
命令違反と独断専行は許されない。
社会人の常識だ。
失敗したときはどう責任を取るつもりだったのか?
成功の功績などはこの質問で打ち消される。
結果を出したからいいだろうでは済まされないのだ。
それが組織というものだ。
幸いなことに島村専務の言葉に険はない。
先にバックアップ体制の不備を謝った。
これで真宵アリスの独断専行の件は帳消しにするということだろう。
過去のことはもう蒸し返さないという甘い裁定。
だからこそ続けられた命令に拒否権はなかった。
「それでは本題に入ろうか。真宵アリス君だが、一度事務所に顔を出させるべきだ」
「それは……」
「真宵アリス君にも諸々の事情があることは把握している。だが虹色ボイス事務所の看板を背負うのだ。本来は配信する前にやっておかなければいけないことだった。信頼関係を築くためにね」
「……そうですね」
「収益化はなされた。真宵アリスの人気の高さから多額のお金が動くことも予想される。事務所に顔出せない。満足にレッスンも受けられない。バックアップしてくれるスタッフとの信頼関係も構築できない。これではいけないのは相田君もわかっているだろう?」
「……はい」
「それでは真宵アリス君のことは相田君に一任する。専属マネージャーも交代させない。キミに対する処分などもない」
「え!? よろしいのですか?」
「これでも反省しているのだよ。以前の虹色ボイス事務所のあり方を……ね。事務所と演者の間に距離ができていた。そのせいで黄楓ヴァニラ君の誹謗中傷の件で対応が遅れた。虹色ボイス事務所は変化を求められているんだ」
「変化ですか?」
「演者との信頼関係を築く。本当にやりたいことをバックアップする。失敗が許される。失敗さえも笑い話にできる。失敗を恐れず、次々に新たなチャレンジができる組織。これからの虹色ボイス事務所はそうあるべきだと私は思っている。それなのに体現した相田君を責めることはできないだろ。信頼関係が厚いキミ以外に真宵アリス君は任せられない。真宵アリス君の活躍を見ていると、これからも大変だろう。彼女には人を惹き付ける力があるからね。それら諸々を今後も相田君に一任する。頑張ってほしい」
「はい!」
♢ ♢ ♢
「……ということがあったのよ。ねこ」
『ふーん。アイアイお咎めなしでよかったね』
「それだけなの?」
『外注の絵師になにを言えと。それにしても島村専務か。虹色ボイス事務所はずいぶんと風通しのいいところになりそうだね』
「そうね。一期生を矢面に立たせて、裏でなにやっているのかと思っていたら、かなりのやり手だったみたいな? 一期生に発言力を持たせて、スタッフからの支持を集めていたみたいなのよね」
非常階段近く。虹色ボイス事務所内でも人通りの少ないエリアで電話をしている。
相手は真宵アリスの同居家族で従姉のねこグローブだ。
二人は学生時代からの親友だ。
世間話にも聞こえるが一応仕事の電話でもある。
「それでねこにも手伝ってほしいんだけど」
『ヤダ』
「なんでよ! というか内容もまだ言ってないんだけど!」
『どうせうたちゃんを外に出すの手伝えとか言うんでしょ?』
「そうよ。ねこだって詠……じゃなくてアリスがずっと引きこもったままでいいとは思ってないでしょ。一番気がかりだったネット冤罪も晴れた。今が外に出るための転機なのよ。今を逃したらズルズルと外に出ない生活が続くわよ」
『それでもヤダ』
「なんで!?」
『私はうたちゃんの居場所になるって決めたから』
「居場所?」
『そう居場所。うたちゃんを実家から連れ出した時にそう決めたの。だからうたちゃんの意志を尊重する』
「優しさや甘やかすだけではなにも解決しないわよ?」
『わかっている。でも一度でも「外に出た方がいい」「こうした方がいい」と言ってしまうと、うたちゃんが失敗したときに責任を感じちゃうでしょ。期待に応えられなかったと落ち込む。すると「もうねこ姉のお世話になれない」と思ってしまう』
「……それは」
真宵アリスの真面目な性格を把握しているから言える言葉だ。
優しいだけの存在では決してない。
親身になるからこそ、心からの助言をしてしまうことがある。
しかしその優しささえ重荷なることが往々にしてあるのだ。
ただ一緒にいるだけ。
それだけの存在になることがどれだけ難しいか。
『私はうたちゃんが失敗しても帰ってこれる居場所になると決めている。だから「外に出た方がいいんじゃないの?」とかは絶対に言わない』
「はぁ……了解。なら私は憎まれ役をやるわよ」
『ん、任せた』
「……ねこって時々凄いわよね」
『そう?』
「ねこの言葉と島村専務の言葉がなんか被った。失敗が許される場所か。大切なことなのかもね」
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作者からの連絡。
ダメな人はスルーしてください。読み飛ばし推奨です。
重要なことは書いていないですし、私も読専の頃は飛ばしていました。
前書きにも書きましたが、本来ならば書かない部分の話。
マネージャーに悪感情が溜まりやすい第二章の構成なので挿入してみました。
全ては私の描写不足、実力不足です。不快に思われていた方は申し訳ありません。
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