第133話 未来ARの体験型FPSゲーム④-三連敗ダイジェスト-

 まさかの三連敗。

 肉薄するシーンはあった。

 一方的な蹂躙劇ではなかった。


 だけどそんなことは慰めにはならない!

 否。させないとばかりにリズ姉はメスガキムーブで煽りまくる。

 本日初お披露目。リズ姉がずっと練習していた黄楓ヴァニラ直伝のロリータボイスだ。大人っぽいと言われる声音から一変したリズ姉の新技公開。この用途でいいのかは誰にもわからない。


リズ姉:「やーい負けてやんの! しかも三連敗とかありえなぁ~い! ざぁーこ! ざぁ~こ! 三連敗だからもう一回ざぁ~~~~~こ!」


紅カレン:「むっきぃ〜〜〜〜っ! 運動音痴の癖に! 戦力外の癖に!」


翠仙キツネ:「実際に情けない戦歴やからな。しかし……戦ってもいない奴に好き放題言われるのは屈辱以外何物でもない」


黄楓ヴァニラ:「イラッ……むかつく。リズ姉は教えた通りメスガキムーブを習得したのね。先生として嬉しいわ。本当にむかつく」


碧衣リン:「リズ姉あとでしめる」


リズ姉:「二期生の先輩方が辛辣!? ただのお約束じゃないですか!? そんなに怒らないでくださいよ! リン先輩とか目がマジなんで……本当に許してください」


白詰ミワ:「あなたたち本当に仲いいわね……。リズ姉はあとで吊るし上げるとして」


リズ姉:「ミワ先輩まで!?」


白詰ミワ:「冗談よ。それにしてもまさか三連敗するとはね」


リズ姉:「スタッフの間でも驚愕の三連敗です。これだけナーフしてハンデも設けているのに、と」


白詰ミワ:「返す言葉がないわね。正直言って攻撃に転じた本気のアリスちゃんを甘く見ていたわ。あの子……未来予知でもできるの?」


リズ姉:「ははは……まあ新ゲームですし、皆さんも慣れてませんからね。特に二戦目は浮足立ってましたし。トレジャーボックスに気を取られているうちに、中央の広場をアリスちゃんに抜かれて東エリアで各個撃破。対応できたのはシールド持ちのミサキさんのみ。せっかくのアイテムも無駄に消費してしまう」


竜胆スズカ:「耳が痛い。せっかくガトリングを手に入れても、無駄撃ちにしちゃったからね。発動してもすぐにアリスちゃんに逃げられて」


胡蝶ユイ:「フレンドリーファイア無効を利用したグレネードバリアは役に立ったけど、数に限りあったし」


花薄雪レナ:「えっ? 私の活躍は!? 心眼射撃を編み出したよ!」


白詰ミワ:「アリスちゃんは視線に敏感だから避けられる。だから見なければいい。相手を確認せずに本能のみで当てにいく。……そんな射撃は常人には不可能だからね。レナとカレンちゃんはどうやって狙いをつけてるのよ?」


花薄雪レナ:「勘でいそうなところに適当に撃つ!」


紅カレン:「呑み屋の気配を辿ったらできた!」


白詰ミワ:「……まったく参考にならない」


 第二戦はせっかくの新機能トレジャーボックスを活かせず敗北した。

 見所がなかったわけではない。紅カレンと花薄雪レナの心眼射撃は真宵アリスを困惑させた。グレネードバリア相手に真宵アリスは距離を取るしかない。シールドを持った七海ミサキとの対決はまともな攻防になっていた。

 しかし、上空から舞い降り回転斬りの一振りで三人屠るなど。一回戦の蹂躙戦とは違った意味で、二回戦は真宵アリスの完全勝利の印象が強い。


:リズ姉www

:ざぁーこざぁーこ!

:普段大人っぽいのに……うんアリだな!

:殴りたいあの笑顔を

:本当にイラっとする口調でワロタwww

:なにかに目覚めそう……殺意かな?

:二期生w

:ここぞとばかりに悪口を言うカレンw

:ヴァニラ直伝か

:師匠公認のムカつく発言キタ

:碧衣リンwww

:お前はあかんwww

:リズ姉がすぐに謝ったwww

:碧衣リンにガチで怯えるリズ姉

:二期生で一番怒らせたらヤバいのがあの残念枠だからな

:有言実行の人

:残念過ぎてどんな怒られ方するのかわからないという未知の恐怖

:恐い理由まで残念なのが好き

:本当に仲いいな

:二戦目はトレジャーボックスに気を取られて自滅したからな

:自滅というかアリスに速攻かけられて姿を捉えることさえできず狩られたような

:まともに戦えたのは七海ミサキだけ

:やっぱり基礎ができているミサキチが一番強いんだよな……アリスが規格外なだけで

:画面に映る当たるはずのないガトリングの光が空しかった

:グレネードバリアは本来の用途じゃないけど強い

:エリア攻撃とフレンドリーファイア無効って反則だよな

:単発だと一回防げても

:アリスも困惑の心眼射撃w

:見えない相手に本能で狙い撃つとか草

:割と精度が高いのがヤバい

:でも狙いが甘いから避けられるんだよな

:入り組んだエリア内のアリスが強すぎた

:アリスの自分の力に酔う厨二セレブレーションがよかった

:途中までノリノリだったのに最後の照れがよい


リズ姉:「第二戦の反省を踏まえて、第三戦は更なるハンデとナーフが組み込まれました。アリスちゃんのペンライトサーベルがペンライトダガーに名前を改められて格下げ。刀身が一メートルから五十センチに短縮です。連合軍は東側エリアならば初期配置自由。そのうえエネルギー残量や数の制限を撤廃。グレネードは三秒クールタイム。ガトリングは五秒のクールタイムで使い放題。これは勝てる! ……はずだったんですけど」


桜色セツナ:「逆にアリスさんを本気にさせてしまいましたね。私がアリスさんの気配を見失うとは思いもしませんでした。かなりショックです。アサシンアリスさん強いです。どんなに強い武器が持っても姿が見えなければ意味がない。刃を短くしても暗殺は防げない」


七海ミサキ:「索敵の重要性を痛感させられたね。まさか相手の位置を把握するレーダーアイテムが必須だったなんて。私もコンテナ迷路に誘いこまれたらガトリングを持っていようと無駄だったし」


 ただ遊んでいたわけではない。

 全員が自分のスタイルを模索し、成長し、死力を尽くしている。

 運動神経のいいセツにゃん、碧衣リン、胡蝶ユイは銃と剣の二刀流でけん制する。本能で動く紅カレンと花薄雪レナは心眼射撃で真宵アリスを驚かせる。一人で対抗できる七海ミサキは遊軍として動き回る。視野の広い翠仙キツネと白詰ミワは司令塔。黄楓ヴァニラと竜胆スズカは全体のフォローやトレジャーボックスの把握など大忙し。

 自然と全員の役割分担もできていた。

 それでも勝てないのは真宵アリスも学習しているからだ。人間にはどうしても癖がある。呼吸がある。リズムがある。視線の動きに法則性がある。

 対戦中に蓄積されたデータ群。真宵アリスの隠密性は極まり、言葉通り消えることを可能としていた。


リズ姉:「スタッフも真剣に考えました。どうやればアリスちゃんを倒せるのか。そして決断します。なんとトレジャーボックスを廃止! 試合前にアイテムを配布します!」


翠仙キツネ:「とうとう禁じ手を使った。古来よりゲーマーから神のように崇められ、悪魔のように憎悪されるランダム性を廃止か。せっかく実装した機能を捨てて」


リズ姉:「はい。スタッフも苦渋の決断です。事前に配布されるアイテムはスナイパーライフルが一。レーダーとグレネードとガトリングが二。シールドが三の計十個。もちろん一人一個です。試合前に自由に割り振ってください。これはもうスタッフから『必ず勝ってください。お願いしますよ本当に』というメッセージだと受け取ってください。……というかこれ資料の付箋に書いてあるんだけど、読み上げてよかったのかな? もしかして外し忘れ?」


:第三戦はハンデもナーフもえぐかったな

:事実上弾撃ち放題

:これでどうやって負けろと

:戦闘前はむしろアリスはどうやって勝つんだと応援していた……それなのにw

:アサシンアリスさんwww

:セツにゃんさえ認めるアサシン

:索敵重要だよな

:本物のアサシン相手には武器ではなく感知できるレーダーは必須

:第三戦は俯瞰視点映像よりも個別のFPS映像の方が面白かったな

:ただ通路を進んでいただけのに急にキルされて終わる奴

:もうただのホラー映像

:一人戦場に立つ勝利は空しいと涙を流すアリスのセレブレーション

:よくこれだけバリエーション用意したよな

:次のナーフなんだ? 隠れることが不可能な光り輝く金ぴかアリスさんか?

:金ぴかアリスさんならアサシンではなくアーチャーに転職しないと

:アリスがガトリングを装備して圧倒的火力でフィールドを駆け巡るのか

:それ絶対に勝てない奴

:アリスに慢心はなさそうだからな

:アイテムの事前配布www

:せっかくのトレジャーボックス機能を廃止して運要素をなくしやがったw

:これは酷い

:ちゃんとアイテムは一人一個で数に限りあるんだな

:さすがに全員でガトリングはできないか

:それでも十分すぎるだろ

:スタッフのガチ度が凄い

:付箋www

:リズ姉それ読み上げちゃいけない奴w

:ここまでしてアリスを倒したいのか

:集団で挑んでアリス一人に負け続けましただと企画的にまずいんだろ

:せっかくのリアルFPSゲームだからな

:ん? そう言えばこれアリスを倒すためのゲームじゃなかったのか

:おいw ちゃんと冒頭でターゲットを撃つスコアアタックをやっただろ

:マジで忘れてた……アリスというプレデターをどうやって倒すのかというジャイアントキリングゲームだとばかり

:俺も

:はい(挙手)

:お前らw

:常識的に考えれば近接武器のみの一対銃持ちの集団の戦いとか成り立たないのに

:すでに事務所の企画の意図から大きくズレていそう


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