第132話 未来ARの体験型FPSゲーム③-ナーフされる真宵アリスと新機能実装-
地面にへたり込み項垂れる一期生二期生連合軍。
ゲーム終了の音楽が流れて、薄暗かった配信画面が明るくなる。
ついさっき最後まで生き残っていた花薄雪レナが狩られたところだ。
光線銃を放り投げて「うにゃあぁぁぁーーーーーー!」と叫びながら全力で逃走を図ったが、コンテナ迷路に追い詰められて万事休す。
真宵アリスに斬られた花薄雪レナは「あ~れ~」と言いながら、クルクル回って死んだ。
結果は惨敗。
予想されていた以上の蹂躙劇だった。
桜色セツナ:「アリスさん! コンテナに昇って勝利の舞です! もうロールプレイはいいので、あの決めポーズで可愛く笑顔でぶい!」
真宵アリス:「ん……了解」
桜色セツナの指示に従い、トントントンと軽やかに三段積みのコンテナの上に立つ。
高さ三メートルの狭い足場。けれど真宵アリスに恐怖を感じる様子はない。
コンテナの上でクルリと回転ジャンプ切り。
着地した足は止まらずもう一回転しながら、ペンライトサーベルを新体操のバトンのように上空に放り投げた。剣の軌跡が光のベールとなって空間を彩る。
真宵アリスが天を仰ぎ、被っていた黒猫フードがふわりと落ちる。場所は室内。天井しか見えないはずだ。けれど遠くを見つめる瞳は空を焦がれていた。独りぼっちでコンテナの上に立つ姿は儚くて、涙を流しているようさえ見える。
落ちてくるペンライトサーベルを左手で背面キャッチし、右手をVの字を突き出す。
真宵アリス:「ぶい!」
カメラにアップで映し出されるのは真宵アリスの満面の笑み。
先ほどの泣きそうな表情を見間違えだと。一瞬のカットの存在をなかったことにする天真爛漫な笑みだった。
:うにゃあぁぁぁーーーーーー!
:レナ様逃走劇
:銃を放棄したけどもうこれが正解だろ
:打ち返されるだけだし勝負になってない
:本当に蹂躙劇で草
:銃弾に確定カウンター食らわしてくるボスキャラってなに?
:これがリアルARのFPSか
:リアルでの実力差が如実に出るからリアルチート相手は無理だな
:もっと和気あいあいとしたゲームになると思ってた
:ある意味現実を教えてくれたな
:エイム補正とかゲームの仕様ってやっぱり大切だな
:セツにゃんから指示出た
:凄惨すぎたから塗り替えようとしているw
:アリスは本当に軽やかにコンテナを昇るよな
:コンテナの上でブイ!
:ぶい!
:くるりと回ってキャッチしてぶい!
:文句なしのブイ!
:勝利のセレブレーション!
:永久保存版
:可愛い
:表情の演技が細かい
:こんなところにドラマ性を盛り込むなw
:かわええ
:はい! かわいい!
:明らかにセツにゃんが事前に教え込んでて草
:あああぁぁぁーーー! やっぱり高性能なディスプレイ用意しておくんだったぁーー!
:犯人はセツにゃん
:いい仕事したなセツにゃん
:これはいいアリス劇場
:信じられるか? さっきまで殺戮兵器だったんだぜ
:許した
:アリス視点映像こえぇwww
:この足場と高さでよくやるなアリス
:惨劇の主とは思えない素直さと健気さとせつなさ
:清涼剤
:可愛いは正義
桜色セツナ:「きゃあぁぁぁぁーーー! アリスさん可愛い! 可愛いですよね! 一瞬見せる泣きそうな表情がポイントです! そこからなにもなかったかのように天真爛漫な笑み! やっぱり最後は笑顔です! 可愛い! 可愛いですアリスさん!」
リズ姉:「うん……そうね。可愛い。最後は可愛かったね。いつの間にアリスちゃんに仕込んだのやら」
七海ミサキ:「予想通り……いや予想以上の蹂躙劇」
リズ姉:「では一期生を代表して白詰ミワ先輩にインタビューしてみますね。ミワ先輩? 聞こえていますか?」
白詰ミワ:「…………聞こえてる。よくわからないうちに殺されていたんだけど。光弾って打ち返すことができるの?」
七海ミサキ:「仕様上はできます。ただスタッフも慌てていました」
白詰ミワ:「詳しく」
七海ミサキ:「意図して狙った場所に打ち返せるとは想定してなかったみたいです。近接武器で光弾を防ぐためだけの弾き返し仕様。感覚としてはテニスラケットのグリップ部分で卓球のピンポン玉を打っているようなモノらしくて。正確に打ち返すような曲芸を想定していないと。私も何度も挑戦すれば当てることは可能ですが、打ち返しはできないですね」
白詰ミワ:「なるほど。たまたまテニスラケットのグリップ部分で卓球のピンポン玉を正確に打ち返せるアリスちゃんが相手だったわけか。……ちょっと理解する時間をくれる?」
七海ミサキ:「わかりました」
フィールド内で白詰ミワが頭を抱えた。
:セツにゃんテンション爆上げw
:今日もセツにゃんはセツにゃんしているな
:狂喜乱舞していて大変よろしい
:ミワちゃん落ち込んでる
:テニスラケットのグリップ部分で卓球のピンポン玉を正確に打ち返す?
:スタッフ困惑のガチ曲芸でワロタ
:射線に光剣を添えるだけとは一体?
:直線で飛んでくる光弾だから射線さえ読めればピンポン玉より楽だろうけど
:普通はその射線がわからないのよ
:ちょっと理解する時間をくれる?
:常識人のミワちゃんには理解しがたかったw
:頭を抱えてるwww
気を取り直してリズ姉が二期生の翠仙キツネに繋ぐ。
リズ姉:「えーと……二期生を代表して翠仙キツネ先輩! どうぞ!」
翠仙キツネ:「勝てるわけないやろっ! 避ける! 斬る! 打ち返す! 回避も防御も反撃も完璧で動きも早い! 索敵性能も隠密性能もアリスちゃんの方が上! これがゲームやったらバランス崩壊しすぎてて炎上しとるわ! ナーフせいナーフ!」
リズ姉:「率直な意見ありがとうございます。……あっ! 今連絡が入りました。対戦が早く終わり過ぎたので二回戦突入らしいです」
翠仙キツネ:「はぁ!? 勝負にならへん言うとるのに!」
リズ姉:「安心してください。アリスちゃんにはナーフが入ります。光剣で斬ると光弾が消失する仕様に変更するみたいです。もう打ち返しはできません。しかもアリスちゃん討伐連合軍には三期生の桜色セツナと七海ミサキも加入……え……あたしは? うん……戦力外ね。知ってた」
翠仙キツネ:「打ち返しなしに新メンバー加入か。リズ姉が戦力外はええとして」
リズ姉:「おい」
翠仙キツネ:「それでも勝てるとは思えんねやけど」
リズ姉:「そこでなんとトレジャーボックス機能の実装です」
翠仙キツネ:「トレジャーボックス? なんやフィールド上に宝箱でも出るんか?」
リズ姉:「さすがゲーマー。説明するまでもないんですね。試しにキツネ先輩の前に出現させてみたのでAR映像を確認してください」
翠仙キツネ:「おっ! コンテナの側面に魔法陣が出よった」
翠仙キツネの近くにあるコンテナの一面が光り輝き、六芒星の魔法陣が浮かび上がっていた。
魔法陣に触れると【ガトリング】の文字のARの視界に浮かび上がり、光線銃に吸収される。
リアルでは光線銃のフォルムに変化はない。けれどARデバイスを通してみると幾つモノ円筒が並ぶ、ガトリング砲に姿を変えているのがわかる。
翠仙キツネ:「パワーアップ機能か」
リズ姉:「ガトリングは三十秒間無補給で大量の光弾を放つ機能ですね。撃ち始めてから三十秒経つとエネルギー切れの状態で元の光線銃に戻ります。一人で弾幕が張れる。近接戦でも数の猛威で圧倒できる。ある意味最強のアイテムですね」
翠仙キツネ:「これさえあればアリスちゃんも倒せるいうことか。あ……戻ってもうた」
リズ姉:「今はお試しなので使用は本番でお願いします。本番ではトレジャーボックスをフィールド内のコンテナにランダムで配置します。ガトリングの他にも球型の破壊エリアを形成するグレネード。敵から身を守るシールド。遠距離射撃用のスナイパーライフル。敵を補足するためのレーダーやエネルギー回復薬など様々なアイテムがあります。もちろんアリスちゃんは宝箱を取れません。しかも今ならフレンドリーファイアもなくします。ここまでハンデ貰っても勝ち目はありませんか!?」
翠仙キツネ:「煽るなぁ。一期生の先輩方はどうや?」
竜胆スズカ:「さすがに二度も瞬殺されたらリベンジしたい」
胡蝶ユイ:「だね。いいところなしだったし」
花薄雪レナ:「楽しかったからもう一回!」
白詰ミワ:「一期生は再戦希望でいいみたい」
翠仙キツネ:「で、うちの連中は?」
黄楓ヴァニラ:「私もこのままでは終われない」
碧衣リン:「暴走型の師匠として意地を見せる」
紅カレン:「もち! 次はなに酒がいいかな?」
翠仙キツネ:「二期生も再戦希望。……ってちょっと待てバカレン! 今から倒されたときの叫び声を考えんな!」
桜色セツナ:「こちらも運動の準備万端です! 打倒アリスさん! 正直言ってハンデ追加されても勝てる気がしませんが、アリスさんの胸をお借りします!」
七海ミサキ:「ははは……今回も足止めぐらいしかできそうにないけど、運を味方につければ勝機はあるかな」
翠仙キツネ:「専門家がそんな弱気やと士気下がんねんけど」
桜色セツナ:「だってアリスさんですよ? さっきは正面から来てくれましたけど、基本は隠密行動なアリスさんです。早期にどれだけいいアイテム引けるか。運次第なところがありますし」
:ツネちゃんブチ切れで草
:確かにゲームだと炎上案件
:えっ? 二回目!?
:短期決着過ぎたw
:スタッフも想定外だったか
:本当にナーフ入るとかw
:まさかの曲芸禁止
:しかもセツにゃんとミサキチ加入
:喋らないと思ったら
:リズ姉は戦力外通知か順当だな
:司会は必要だから一人残すとしたらリズ姉だな
:おいwww
:アリスちゃん討伐連合軍だけ強化アイテムあり
:いつの間にかチーム名も変わってる
:トレジャーボックスか
:本物のゲームっぽくなってきたな
:ガトリング強そう
:他も強力
:強化アイテムがあれば真宵アリスも
:フレンドリーファイアもなくなった
:一期生二期生ともやる気満々だな
:カレンやっぱりわざとかw
:セツにゃんが弱気だ
:みさきちまで運次第とか言っているし
:この条件で負けるの?
:ここまでやればさすがに勝てるだろ
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そして連合軍は真宵アリスに三連敗した。
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