第131話 未来ARの体験型FPSゲーム②-惨劇のアリス劇場-
真宵アリスを除く三期生メンバーによる解説と予想。
ハンデが足りない。勝てるわけがない。
そんなことを言われれば一期生二期生連合軍もいい気はしない。
これだけ露骨にハンデをもらっているのだ。まともな戦いになるのか。そんな不安がよぎるほどの有利な条件。それなのに勝敗予想でただの敗北ですらなく、蹂躙戦とまで言われる始末。
一期生二期生連合軍は奮起した。その作戦会議の様子が配信に流される。
【三期生の真宵アリスは配信を見ていません。現在やる気充電中】
上部にこんなテロップが出ていた。
配信の小窓では目を瞑った真宵アリスが椅子に座っている姿が確認できる。
人形のように身動ぎ一つしない。
紅カレン:「全く私達も舐められたモノだね。相手はたった一人。銃も持っていない。こんなの楽勝だよ!」
碧衣リン:「ソウダネ。楽勝ダヨネ」
黄楓ヴァニラ:「リンちゃん演技が硬い。ついさっき作った即席台本に無理して合わせなくてもいいでしょ」
碧衣リン:「わかった」
紅カレン:「えっ!? 私が自信満々に死亡フラグを乱立させる流れは?」
白詰ミワ:「……本番直前に即興コントを始める余裕は成長の証なのかしら?」
花薄雪レナ:「それでマイシスターアリスちゃんに勝てる? 私の姉としての威厳は守れる? 黒猫メイド伝説の映像は何度も見た。やっぱり近づかれたらおしまい?」
解説の言っていたことは本当なのか。
実際に対峙経験のある一期生の竜胆スズカと胡蝶ユイが答える。
浮かべたのは情けない笑顔だ。
竜胆スズカ:「不用意に近づいて瞬殺された私に聞く? 一対一なら絶対に勝てない。それは断言できる。ランランはどう思う? あのときランランの方が生き残っていたよね?」
胡蝶ユイ:「障害物あるエリアでは勝負にならないと思う。あと近づかれたらおしまいは本当。アリスちゃんは本当に視界から消えるから」
白詰ミワ:「映像を見る限り、跳躍力と細やかな動きは凄い。でもそこまで早さはなかったと思うけど、そんなに消えるの?」
胡蝶ユイ:「視線の誘導とかフェイントとか、かなり得意だと思う。あと単純に他人の視界に入らないように動くことが沁みついている」
白詰ミワ:「さすが小動物を極めし娘。……消えるのか。さてチームの司令塔にして参謀のキツネちゃん。なにか作戦は?」
翠仙キツネ:「正攻法しかないやろな。初めてのゲームやし。この手のゲームの定石は索敵。敵の発見と味方の死角をなくすことやな。味方の陣形の裏を抜かれて、背後から好き勝手やられたら終わりやから」
黄楓ヴァニラ:「キツネってただのツッコミ職人じゃなかったんだ。まるでゲーマーみたい」
翠仙キツネ:「ツッコミ職人言うな! ゲーマーの方が本職や! ヴァニラも知っとるやろ」
黄楓ヴァニラ:「最近キツネが二期生のツッコミの人と呼ばれているのを見てつい」
白詰ミワ:「よし二期生はお笑い欲を少し抑えて茶化さないでね。作戦会議にあまり時間はかけられないから」
翠仙キツネ:「せやな……なんでウチまで怒られなあかんねんやろ? まあええけど。えーと人数差あるし、基本ユニットはツーマンセル。二人一組や。四つの組で互いの死角を潰しながら陣形を取る。こうすれば強襲を食らって一人やられても全体に連絡するぐらい時間はあるやろ」
白詰ミワ:「なるほど。組み分けはリンリンとランラン。ヴァニラちゃんとリンちゃん。キツネちゃんとカレンちゃん。私とレナ。でいいわよね?」
翠仙キツネ:「妥当やろな。まあ……対アリスちゃんとなると意味がないんやけど」
竜胆スズカ:「意味がないの? 割と本格的で感心していたんだけど」
翠仙キツネ:「情報を集める限り、アリスちゃんに勝つための戦術が一つしかないんや」
白詰ミワ:「むしろ一つあるのが朗報ね。聞かせて」
翠仙キツネ:「このフィールドは大きく東西に分かれてる。アリスちゃんの出発点は西側。ウチらは東側。東西エリアは入り組んだアスレチックとコンテナ迷路。中央の障害物のない広場を通らな東西の行き来はできひん」
花薄雪レナ:「西軍東軍関ケ原の戦い」
翠仙キツネ:「例えが合っとるかわからんけど、関ヶ原の戦いみたいに短期決戦になるやろな。アリスちゃんを迎え撃つんやったら中央の広場しかないねん。そこで一斉掃射する。入り組んだアスレチックエリアで戦うんは無謀や。数的優位を活かすことができへん。だから開始直後に一気に前線を押し上げて、アリスちゃんが東側に来る前に陣を敷く。抜かれたら西側エリアに渡り、中央広場に対して陣を敷く。この繰り返しや。単調でつまらん作戦やけど、勝つにはこれしかない」
白詰ミワ:「こっちには銃がある。数的優位。有利なフィールドで距離を取って戦う。近接武器しか持たないアリスちゃん相手なら合理的よね。よし採用。本気で勝ちを取りに行きましょう!」
一期生・二期生:『おうっ!』
:やる気充電中
:身動ぎ一つしないアリス
:静止画像じゃないのか
:作戦会議が始まった
:イキるカレン
:棒演技で即ネタバレされた
:わざと死亡フラグ乱立させようとするなw
:二期生余裕あるな
:レナ様のアリスを妹にしたい作戦継続されていたのか
:実際仲がいいみたいだからな
:餌付けしようとして餌付けされるレナ様
:おい一期生w
:アリスが事務所によく差し入れしているから
:ようやくちゃんとした作戦会議に
:消えるのか……
:接近不可
:やっぱりアリスは忍者
:小動物を極めし娘w
:索敵は重要だよな
:キツネが真面目なことを言っている
:ツッコミ職人ってヴァニラおいwww
:ツーマンセルで挑んでもアスレチックエリアでは戦うの無理か
:広い場所で一斉掃射しかない
:こいつら本気で勝ち狙いに行くのな
:ゲームは真面目にやらないと面白くない
リズ姉:「いよいよ決戦の火蓋が切られます。つい先ほどスタッフから無茶振りがありました」
七海ミサキ:「それっぽい対戦のストーリーのナレーションをアドリブでお願い。ただ対戦するよりも面白いとは思うけど急に言われても……と思いましたが案外できるものですね」
桜色セツナ:「うぅ……アリスさんが悪者ヴィランに。設定上とはいえ心が痛みます。けれど人類と敵対したのはアリスさんの意思ではありません。先輩方どうかアリスさんを救ってください。ではリズ姉お願いします」
リズ姉:『アンドロイドが普及した未来。シンギュラリティを名乗るAIにより、アンドロイドを殺戮兵器に変えるコンピュータウイルスがばら撒かれた。ウイルスにより人類に叛逆をさせられた暴走型殺戮メイドロボ真宵アリスを止められるのか。それとも人類は蹂躙されてしまうのか』
三人:「「「AR技術を用いたリアル対戦型FPSゲームのスタートです!」」」
大量のコンテナが立ち並ぶ貿易港。
銃を構えた八人のアバターが駆け出した。作戦通りの開幕スタートダッシュ。
二人一組で合計四組。鶴翼の陣で中央の広場を取り囲み、コンテナの陰に身を隠す。
翠仙キツネ:「ここまでは上手くいったな。アリスちゃんのことやからアクロバティック軌道でウチらよりも早く中央抜かれることを警戒してたけど。カレン様子はどうや?」
紅カレン:「こちらは異常な……えっ!?」
翠仙キツネ:「どうした!?」
白詰ミワ:「こちら白詰ミワ。アリスちゃんが悠然と歩きながら、中央広場に現れようとしているんだけど。……どうしたらいいかしら?」
翠仙キツネも慌ててコンテナから顔を出す。まだ広場にはついていない。けれど両腕をだらんとさせて俯きながら歩く黒猫フードの少女が見えた。
ターゲットの真宵アリスだ。索敵するまでもなかった。まだ距離があるので銃弾を当てる自信はない。だから無駄玉を撃たない。
全員が真宵アリスの姿を確認し、戸惑っていた。
得意の隠密行動で攻めてくる。
そう思っていた。しかし堂々と歩いている。隠れる気が一切ない。真宵アリスの意図がわからない。一期生二期生連合軍の困惑が広がる。
誰も動けないうちに、真宵アリスが広場の一歩手前で止まり、顔を上げた。
フードが捲れて露わになる顔。コテンと傾げられた首。完全な無表情。だらりとした手にぶら下がっているペンライトサーベル。
大きく見開かれた黄金色に輝く瞳が人類への殺意を強烈に突き付けてきた。
放たれるプレッシャー。
あまりに非現実的な姿に呑まれかける。
急いで翠仙キツネが指示を出した。
翠仙キツネ:「ぜ……全員一斉掃射や! アリスちゃんになんの作戦もない! あの娘は殺戮メイドロボになりきっとる! ただ単に対戦ストーリーに従ってロールプレイしとるだけや!」
竜胆スズカ:「このハンデ戦でロールプレイ!? さすがに余裕過ぎじゃないかな!?」
全員が声を上げ。無理やり士気を上げ。光弾を解き放つ。
これはゲーム。しかし相手が真に迫れば、ただのお遊びではなくなる。
ゲームフィールドが戦場に。意識が切り替わった。
殺戮メイドロボと化した真宵アリスが選んだのはまさかの直進。光弾の雨に身を投げ出し、自身当たる軌道を描く光弾だけを的確にペンライトサーベルで斬り飛ばす。
翠仙キツネ:「はあっ!? 光弾って斬れるん? いやいやいやいやなしやろ! 全く当たる気配ないやん! とにかく連射や! エネルギー残量気にしている場合やない! 火力集中させて! このままやと正面から食い破られるで!」
配信に雄たけびと怒号と必死の連射音が流れる。
さすがの真宵アリスも火力に圧された。直進は断念し、斜めに逸れていく。
このまま火力で押し切れれば、倒せなくてもこの場は切り抜けられる。
翠仙キツネがそう安心したとき悲鳴が響いた。
そして弾幕も弱まる。
胡蝶ユイ:「えっ!? リンリン!?」
花薄雪レナ:「報告! ミワちゃん死亡!」
【竜胆スズカ死亡】
【白詰ミワ死亡】
翠仙キツネ:「なんでや!? アリスちゃんは目の前にいるで! あの娘は遠距離武器持ってないはずやろ!?」
あり得ないはずの事態に広がる困惑。
その疑問に答えるように真宵アリスの静かな声がオープン回線で配信に流れた。
真宵アリス:「射線に……光剣を……添えるだけっと」
黄楓ヴァニラ:「え……?」
碧衣リン:「ヴァニラァーーーー!」
【黄楓ヴァニラ死亡】
翠仙キツネ:「………………はあっ!?」
信じられない光景だった。
角度から胡蝶ユイの光弾だろう。真宵アリスには当たらない軌道だった。ペンライトサーベルを振るう意味はない。
だが真宵アリスは降り注ぐ他の光弾を避けながら、胡蝶ユイの光弾をペンライトサーベルで切り払った。角度を計算し、飛んできた光弾を利用した狙撃。
反撃されるはずがなかった。コンテナ上部から光弾を撃っていた黄楓ヴァニラはなにが起きたのか理解できず倒れていた。
翠仙キツネ:「一斉掃射ストップ! 跳弾! 跳弾言うんかこれ!? アリスちゃんがなんかよくわからん体勢から、こっちを光弾で狙い打ちしてきとる! あと台詞がなんでバスケット漫画のパロディやねん!? せめて野球ちゃうんかい!?」
紅カレン:「広場を抜かれた! ツネちゃんツッコミを入れてる場合じゃないよ! アリスちゃん的確に司令塔を狙ってきているから!」
カレンの言葉通り薄れた弾幕を突っ切り、真宵アリスが迫っている。
状況の打開に思考を割いていた翠仙キツネには銃を構え直す時間もない。
目の前にコンテナに跳び乗り、更に跳ぶ。後方宙返りで頭上を超えての背面切り。いつの間にか翠仙キツネの背後に着地している。そんなアクロバティック極まる真宵アリスの動きに、なにも反応できず斬り殺されていた。
【翠仙キツネ死亡】
紅カレン:「ぬおーーー! ツネちゃんの仇!」
真宵アリス:「キル……サーチアンドデストロイ……」
淡々とロールプレイを続ける真宵アリスに向かって、怒号を上げた紅カレンが光弾を撃つ。
しかし紅カレンの光弾は真宵アリスに打ち返された。真正面から逆再生かのようにそのままの軌道を描いて。
紅カレン:「はぶしゅっ!」
【紅カレン死亡】
翠仙キツネから乾いた笑いが漏れる。
ゾンビプレイになるので黙っていなければいけない。本来ならば配信に乗ってはいけない発言だ。けれど思わず口に出た。配信スタッフも拾ってしまった。
翠仙キツネ「……こんなん勝てるかい。民間人の喧嘩にプレデター級の殺戮メイドロボを参戦させたらアカンやろ。世界観からして違うやん」
ゲーム開始からわずか三分未満。
一人対八人。剣のみ対銃ありのハンデ戦は一方的な蹂躙により幕を閉じる。
:スタッフの無茶振りw
:それっぽいストーリー……というか真宵アリスの設定に被せたw
:完全に悪役だけどウイルスのせいという救済
:世界に叛逆を目論む暴走型駄メイドロボだからな
:スタートです!
:スタートダッシュと初期配置ともに完璧
:普通に考えれば負けないよな
:ん?
:真宵アリスの様子がおかしい
:余裕で歩いて来ているんだけど
:こえぇーーーーーー!
:ゾクッとなった
:声に限らず素の演技力が高い
:完全にホラーやサスペンスやスプラッターだろこれ
:ストーリーに合わせてロールプレイw
:作戦なしのロールプレイで突撃とか余裕過ぎる
:一斉掃射!
:はぁ?
:いやいや……光弾斬るなよ
:これって星の戦争で見たような
:あっちの映画よりもアクションがヤバい
:ペンライトサーベルの本物か
:集中砲火だとさすがのアリスも中央突破は無理……え?
:一期生二期生連合軍がキルされているんだけど
:なぜ?
:アリスwww
:ボケなのか天然なのか
:射線に光剣を添えるだけ
:いや斬り払ってるから添えてねーよ
:それよりもなぜ当たり前のように射線が見えている
:ヴァニラァーーーー!
:さすがにキツネもツッコミを入れた
:ツッコミ職人の性だな
:ツネもやられたか
:初めて斬られたのはキツネだったか
:武器が剣のみなのに被害者四人目で初めて斬られたとか意味わからん
:知らないのかよ光剣は遠距離武器だぞ……俺も今初めて知ったが
:カレン!
:カレンwww
:はぶしゅっ
:ハブ酒ってなんだw
:お前は死に際までwww
:プレデター級
:死亡したキツネからのダイイングメッセージだな
:マナー違反だけどこれは仕方がない
:スタッフも思わず拾ったんだろうな
:フィールド選びも作戦も火力集中の一斉掃射もなにも間違ってないのに全部正面から食い破られたからな
:人類よこれが真宵アリスだ
:……どう勝てと?
:惨劇の黒猫メイドロボ伝説
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます