第123話 オープニングライブ②-全力エンターテインメント-

【三期生真宵アリスによるソロダンスパフォーマンスをお楽しみください】


 画面上部に表示されたテロップ。

 ソロと記載されている通りステージに真宵アリスしかいない。

 ステージは薄暗い。暗闇というほどではない。けれど先ほどの煌びやかなライブステージとは対照的だ。

 明るさの足りないステージでも真宵アリスの姿はハッキリと見えた。

 暗闇の中で光を放つ存在として立っている。

 わざわざスポットライトを当てる演出はない。ただリアルさを追求するだけなら意味はない。わざわざ周りの明度に合わせて、見えにくくする必要はない。

 現実とは異なるかもしれない。けれどあえて影を落とさない。そうすることで存在を光り輝かせることができるのもコンピューターグラフィックスの良さだ。

 真宵アリスの手には身長ほどある白い棒が握られていた。


 構えは基本となる中段。

 そこから上段打ち。回し打ち。中段突き。払い。下段回し払い。最後にもう一度中段突き。

 一切の淀みなく流れるように振るわれる棒術の動作。

 音楽はない。無音だ。けれど見ている者を引き付ける工夫があった。

 棒の軌跡を追うように流れる虹色のグラデーション。

 棒自体が魔力を、もしくは気を宿している。そんなファンタジーを感じさせた。


 特に最後の中段突きは圧巻だった。

 収束した虹色の奔流が棒の先端で爆発する演出。

 まるで格闘ゲームのフィニッシュに用いる必殺技を想起させる。


:すでに一曲目で満足なんだが

:次は真宵アリスのソロダンスパフォーマンス?

:さっきアクロバティックに踊っただろ

:歌じゃないの?

:棒?

:明かされていく真宵アリスの身体能力

:さっきのダンスでわかったけどネタじゃなくてマジなんだよなこいつ

:槍じゃないのか

:基本動作は同じだし

:構え様になっとる

:あの棒光るのか

:おおぉ~~

:綺麗

:流れるように動く

:やべえやりてえ

:完全に必殺技じゃねーかw

:波動を使えそうw

:身体能力の次は武術か

:こいつだけ違う世界から来たように見える

:真宵アリスは格ゲーの世界から転生したのか


 ここまではデモンストレーション。

 これから始まるのはただのダンスパフォーマンスではない。

 ダンスと武術と光のアートが始まる。

 そう伝えるための演舞に過ぎなった。

 音楽のイントロが流れ始める。

 真宵アリスも真剣な表情で構えに戻った。中段の構えに近いが、腰か浅くフットワークが軽い。日本の武術ではなくどちらかと言えばボクシングの足回りに近いだろうか。

 ダンスの準備も万端だ。

 再びテロップ流れる。

 それとともに床のパネルが光り始めた。


【ルール説明。音楽に合わせて光るパネルをステップしましょう。空中から襲いかかってくる赤いブロックは避けてください。青いブロックは棒で壊しましょう。目指せパーフェクト! 真宵アリスに応援をよろしくお願いします!】


:ちょっと待て!

:これってゲーセンw

:ゲーセンでも長物は振り回さねーよ

:虹色の軌跡を描く棒が綺麗だけど難易度が

:いきなり既存のダンスをレボリューションさせんなw

:大量に迫りくる赤ブロックを避けながらなぜステップ踏めるんだよ

:既視感ある……これゲーセンで人だかりできるレベルに極めている奴の動きだ

:真宵アリスやべえ

:ダンス凄いけどダンスが頭に入らない

:ダンスじゃなくてもうこれアクションゲームだろ

:今のところ青ブロックも全部壊してる

:あっ

:詰んだ

:全方位から赤ブロックは鬼畜過ぎる

:マジで逃げ場所ない

:赤に紛れた青ブロックとかは?

:えっ?

:はぁっ!?

:いやなにその動き……

:地面突き立てた棒上で逆立ちしたあと軸にしてグルグル回って降りるなw

:これが本当のポールダンス

:攻撃的すぎひん? 色気あってもいいんよ?

:被弾なし

:イージーモード、ノーマルモード、ハードモード、ナイトメアモード、真宵アリスモード

:ゲーセンに実装された際の難易度を書くなw

:超絶棒術アクション前提は草

:コンボ途切れずパーフェクト

:音楽がもう終わる

:俯瞰図

:え?

:はるか上空に青ブロックが

:アリスと棒の長さを合わせても届くのか

:いや……まさか

:跳んだ!

:棒高跳びの要領で跳ぶのかと思ったら突き立てた棒の先端を踏み台に二段ジャンプw

:その技はちょっと待てwww

:真空飛び膝蹴り

:真空飛び膝蹴りか

:真空飛び膝蹴りだな

:真空飛び膝蹴りってあんなに光り輝く波動出たっけ?

:棒が光るんだから膝も光り輝くだろ

:三メートル越えの真空飛び膝蹴りはなに想定?

:なにと戦うつもりなんだ

:やべえ意味わからんが凄いw

:ブイ

:ブイじゃないんよ

:可愛い

:パーフェクトおめでとう!

:うんパーフェクトだな

:動きが凄すぎてわからん

:アレだな……初めて見た落ちゲーの連鎖で二十コンボぐらい喰らってなにやってんのか理解できない感覚

:やってみたいと思ったすぐあとに挑戦する心が叩き折る超絶パフォーマンス

:だ……大丈夫だろハードモードまではたぶん人間業だから

:真宵アリスは人間じゃないのか

:メイドロボだろ

:これから歌うのか

:息上がってるのに

:棒がマイクに早変わり

:この流れでデビュー曲の『For Dear Life』

:確かに死ぬ気の全力パフォーマンスだけど

:普通の歌も振り付けも上手い


 ・

 ・

 ・


【二期生の出番です。碧衣リンと黄楓ヴァニラのデュエットソングをお楽しみください。演出参加、紅カレンと翠仙キツネ、ゲストの三期生の真宵アリス】


 真宵アリスの圧巻のソロパフォーマンスが終わり。

 今度は二期生のステージが始まる。


 背景に大量の酒瓶が並べられた棚をバックにグラスを洗う翠仙キツネ。

 その前にはバーカウンターで突っ伏しカクテルを呑む紅カレン。

 なぜか引き続き登場した真宵アリスは長方形の箱を抱えてステージ床に正座する。目は死んでいた。

 ステージ奥から颯爽と登場するのは着物姿の碧衣リン。

 そして最後に登場するのはぎこちない動きのロリータアバター黄楓ヴァニラだ。


 黄楓ヴァニラが幼い姿には大きすぎるマイクを両手で抱えて話し出す。


黄楓ヴァニラ:「皆様はすでにこのライブがどのように行われているかお気づきかと思います。全身にモーションキャプチャーをつけて、様々な観測機器が設置された特殊スタジオで生中継しております」


碧衣リン:「あとで公開する予定だけど全てがグリーンシートで覆われていて、私達はARグラスをつけて配信と同じ映像を見ながらライブしています」


黄楓ヴァニラ:「ただこの装置には欠点があります。アバターと実際の姿の乖離が大きすぎると対応できません。私の動きが他の皆よりもぎこちないのはそのためです」


碧衣リン:「仮想空間とリアルでは見え方が違うからね」


黄楓ヴァニラ:「この一年色々ありました。皆様もご存知の通り本当に色々あったんです。今更掘り返しません。私はリアルの背の高さと声の高さにコンプレックスがありました。一時は引退を決意するほどに。けれどそれを乗り越えて今がある。今日もまた一つ乗り越えようと思います。マジカルパティシエール黄楓ヴァニラ! メイクアップ!」


 黄楓ヴァニラはそう宣言すると光に包まれた。

 光り輝くシルエットはゆっくりと大きくなりロリータアバターから少女へ。そして大人の女性へと成長していく。

 眩い光が収まるとそこに黄色い差し色の入ったパティシエ姿の女性がいた。背の高さは碧衣リンよりも頭一つ分高い長身の美人だ。

 もちろんロリータアバターだった頃の面影もある。大人びた風貌だが背中に生えたデフォルメされた天使の翼などはそのままだ。

 手を前にゆっくりと伸ばして、動作を確かめるようにクルリと回る。

 動きがとても滑らかになっていた。


黄楓ヴァニラ:「うん動きやすい。そんなわけでマジカルパティシエール黄楓ヴァニラ! 大人になる魔法を覚えて新アバターでライブに参戦です!」


碧衣リン:「おぉー。ヴァニラ美人。リアルに近づいた」


黄楓ヴァニラ:「ありがとうねリンちゃん。さて今回の新曲はこの一年で最も驚愕した出来事を歌にしてみました。あのとき私は引退を決意していた」


碧衣リン:「自分の行いが予期せぬ不幸を巻き起こす。そのせいで親友を失うところだった」


黄楓ヴァニラ:「失意の底にいた私の前に現れた親友。手渡されたのは一枚の紙。人生を左右する大事な大事な紙です」


碧衣リン:「あのときはそうするしかないと思った。全ての責任を取るために」


黄楓ヴァニラ:「あの驚愕と混沌は失意さえも吹き飛ばした。聞いてください。途方に暮れる女と覚悟決まりきった女の友情歌謡。混乱のあまり私は事務所に泣きついた。もう引退どころじゃない。そんな混沌に満ちたあのときを歌います。曲名は『婚姻届はシュレッダー』」


 流れる昭和歌謡のメロディ。

 無駄に哀愁を漂わせるバーのマスターに扮した翠仙キツネ。

 本当に呑んでいるとしか思えない今にも吐きそうな末期状態の紅カレン。

 ただただ無言で婚姻届と書かれた書類を確認し、遠い目をする真宵アリス。

 正しく今の二期生を体現する光景だった。


:翠仙キツネと紅カレンに……真宵アリス?

:紅狐は歌出してたっけ?

:真宵アリス本日三ステージ目だからか目が死んでる

:演出って書いてあるからアリスは歌わないと思うが

:碧衣リンが着物!?

:まさかの演歌

:これは虹色ボイスのイベントだから版権問題で雨女ゲリラは出れない

:ヴァニラ出てきた

:一人だけ動きぎこちない?

:まさかトラブルか

:今日のライブについて説明か

:VRにAR

:時代だな

:なるほど

:リアルのモーションの再現性高めればその問題あるよな

:ヴァニラはアバターロリでリアル長身だから

:コンプレックスか

:本当に色々あったからな

:大人になった!

:美ロリから美女に

:新アバターになんか涙出てきたんだけど

:大人の姿で配信に出るってことは本当にコンプレックスを乗り越えたんだな

:引退まで決意か

:ん?

:おいw

:ちょっと待てお前ら

:これだから二期生はwww

:曲名最高w

:ここに来ての昭和歌謡w

:もう完全にコントじゃねーか

:この二人息が合い過ぎて無駄に上手い


 ・

 ・

 ・


:婚姻届はぁ~シュレェェッ~~ダ~~

:ジィィィィィーーーーーーー

:淡々と婚姻届をシュレッダーにかける真宵アリスの死んだ目よ

:まさかライブパフォーマンスで婚姻届をシュレッダーにかけさせられるとは思ってなかったんだろうな

:業界初じゃね

:初じゃないと怖い

:キツネとカレンの二人は本当になにもしなかったな

:雰囲気作りの演出してただろ

:むしろずっと吞んだくれていたのがいい

:もうなにがしたいんだ二期生w

:腹痛い

:冒頭から三人の代表者によるアイドルライブ。真宵アリスの圧巻のソロパフォーマンスに続いての二期生ヤバいwww


 全てを混沌で包み込んだ二期生のステージが終わった。

 ステージには誰もいない。

 けれどリスナーの熱は冷めることはない。

 むしろ笑い疲れたから落ち着かせてくれ。クールダウンを求めている。

 次でオープニングライブの最後だ。

 誰が来るのかわかっている。

 この流れで一期生が登場しないはずがない。


【オープニングライブも次でラスト。最後の一組は虹色ボイスの始まり。一期生四人組ユニット『アルコイリス』です】


 テロップが流れて颯爽と登場する一期生達。

 その顔を笑っていた。

 作られた笑みではない。感極まった心からの笑みでもない。ステージ裏で二期生のステージを見て笑っていたのだろう。

 もうどうしようもない。少し笑い疲れもしている。それでも笑顔が込み上げてくる。

 そんな笑みだ。

 リスナー達と同じ表情をしていた。


 全員が白を基調とした同じデザインの衣装を着ているがイメージカラーが違う。

 黄色のワンポイントが輝く花薄雪レナ。

 緑色の四つ葉のクローバーの飾りつけた白詰ミワ。

 濃い青色のスカートが特徴的な竜胆スズカ。

 赤みがかった花弁が連なる飾りをつけた胡蝶ユイ。


白詰ミワ:「あーもうあの子達は。あのあとにどう歌えばいいのよ」


竜胆スズカ:「お腹痛い。すでにお腹痛い。歌詞吹き飛びそう」


胡蝶ユイ:「婚姻届はぁ~」


竜胆スズカ:「ランランやめい!」


花薄雪レナ:「楽しい! めちゃくちゃ楽しい! 皆も楽しんでくれてる?」


白詰ミワ:「そうね。楽しいのが一番。私達がもっと盛り上げればいいだけだね」


花薄雪レナ:「私はまたこうやって四人で! ううん……四人だけじゃない。後輩達や事務所の皆とステージを創り上げられたのが本当に嬉しい!」


竜胆スズカ:「後輩達には負けてられない」


胡蝶ユイ:「もっともっと盛り上げていくよ!」


白詰ミワ:「ではアルコイリスで。虹色ボイス発足の記念曲『リンカネーション』」


:やっぱ一期生よ

:こいつら安定性あるよな

:二期生の作った空気をそのまま自分たちの色に変えていく

:レナ様本当に嬉しそう

:ライブ好きだからな

:普段変人枠なのに歌ガチ勢だし

:『リンカネーション』懐かしい

:転生したんだよな

:声優として売れていたのに生まれ変わって新天地に挑戦の曲

:三期生入りで一期生にあまり興味なかったけど上手いというか凄いな

:一期生はステージもイベントも場数が違うからな

:ダンスを含めたパフォーマンスなら真宵アリスも凄いし二期生も笑えたが総合力ならやっぱり一期生

:四人の息の合い方とかハモりとかフォーメーションとか

:テンション上がるけど同時に安心できるのいいな

:予想できないアリスと二期生には振り回されっぱなしだったし

:ずっと続けばいいのに

:いやまだオープニングライブだからな

:配信はこのあとも続く


 ・

 ・

 ・


 一期生圧巻のライブパフォーマンス。

 オープニングライブは大好評のうちに終わりを告げた。

 アニバーサリー祭は次のプログラムに進む。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る