第124話 セツにゃん未来への決意表明①-ARライブの舞台裏-
オープニングライブは名前の通りのオープニング。
予定されているプログラムの一つ目だ。
虹色ボイス三周年アニバーサリー祭公式配信は幕を開けたばかり。
けれどコメント欄の熱気は冷めやらない。
ライブの感想が勢いよく流れ続けていた。
:技術的にかなり挑戦的だったな
:テストもしているんだろうけど
:色々な試みをしているから内容が充実しすぎてヤバい
:期生を代表する三人の歌姫によるアイドルライブだけでも十分だったのに
:そのあとの真宵アリスの圧巻のソロパフォーマンス
:動きをどこまで再現できるか見せつけられたな
:選曲からして歌の臨場感をどこまで伝えられるのテストも兼ねてる
:新人にそこまで任すなよ
:あの動きはリアルチートな真宵アリスしかできんじゃろ
:せやな
:ついに明かされた数々の伝説も納得の身体能力
:一期生のフォーメンションダンスやスイッチや歌とかも本当によかったな
:本当に正統派ユニットって感じ
:これぞ王道のアイドルライブを見せつけてきたな
:ステージ上の全員の表情が本当にイキイキしてた
:お前ら二期生飛ばしてね?
:……二期生はまあ
:ずっと追ってたからヴァニラの大人化でウルッと来たところに……あの曲よ
:全部凄かったのに一番の衝撃が二期生のカオス
:婚姻届を後輩に託してシュレッダーにかける混沌を感情込めて昭和歌謡風に歌うなw
:完全にコントだからな
:デュエット曲を息ピッタリで熱唱していたから相当練習したのはわかる
:なんであんな風に成長したかな……好きだけど
:相変わらず努力の方向が間違ってる……愛してるが
:ん?
:みどりい
:リアル映像か
:おっ……三期生の二人来た
配信画面に映し出されるのは全面緑一色のライブステージ。
同色で輪郭がわかりにくいが、つい先ほどまで行われていたライブ用のスタジオだ。
バーチャルではなく現実の映像。
その映像の中で二人のアバターがゆっくりと歩いて登場する。
三期生のリズベット・アインホルンと七海ミサキだ。
なにもない空間から突然アバターが現れたのではない。
現実のように自然な動作でスタジオに登場してきた。
リズ姉:「みんなぁー! 虹色ボイス三周年アニバーサリー祭オープニングライブ! 楽しんでくれたかな?」
七海ミサキ:「つい先ほどまで熱いライブが行われていたステージから中継しています」
リズ姉:「なんとなんと! 虹色ボイス三周年アニバーサリー祭の総合司会を三期生のリズ姉と」
七海ミサキ:「三期生の七海ミサキの二人が務めさせていただきます」
リズ姉:「皆様は暖かい声援と寛容の精神でよろしくね。お願いだから! お願いだから制御不能な仲間たちに振り回されても許してください!」
七海ミサキ:「ははは……まさかの大抜擢だったからね」
リズ姉:「理由はオープニングライブを見ていただいた通りです。ずっと私達の面倒を見てくれていた一期生の先輩方。いつもありがとうございます」
七海ミサキ:「総合司会を一期生から託されました。『虹色ボイス三周年アニバーサリー祭ではVTuberとして、パフォーマーとして暴れてみたい。あなたたちなら総合司会できるよね?』と」
リズ姉:「信頼が重たい! でも先輩から託されたならば応えるのが健気な後輩の務め。総合司会の重責はあたし達が背負わせていただきました」
:リズ姉とみさきち
:この二人が総合司会か
:暖かい声援と寛容の精神
:メンバーが個性豊かすぎるからな
:あんな全力でライブやったら進行は無理か
:一期生からの信頼が厚い
:安定と安心の二人だからな
:二期生は?
:アニバーサリー祭が混沌コント祭になる
:それはそれで見てみたいw
:一期生以外で司会を任せるならこの二人だな
七海ミサキ:「まずは今回のライブの裏側。技術的な解説をさせてください。ここは配信で流れている通り、クロマキー合成のライブスタジオです。今回用いたシステムは現実とバーチャルの造形を全く同じにしておく必要があります」
リズ姉:「なぜならば演者はこのメガネ型のARデバイスをつけるからです。演者が目に映るのはリアルとバーチャルを重ね合わせた世界。その世界で実際に動いてパフォーマンスを行う。色はともかく造形や距離感に違いがあれば事故が発生します」
七海ミサキ:「二期生の黄楓ヴァニラ先輩が大人に変身したのもこのためですね。安全第一命大事に」
リズ姉:「では皆様にもリアルとバーチャルを重ね合わせた世界を体感してもらいましょう」
トントントンとリズムよくカメラに向かって歩いてくるリズ姉。そのまま配信カメラにメガネ型のARデバイスをかける。
すると世界が一変した。
緑一色だった配信映像が先ほどのライブステージに生まれ変わったのだ。
七海ミサキ:「どうでしょう。私達のアバターが先程よりもライブステージに馴染んでいるのがわかりませんか?」
リズ姉:「先ほどのあたし達のように現在の映像技術でも、現実の映像にアバター投影させることはできます。パフォーマンスを行うことも可能でしょう」
七海ミサキ:「けれど、どうしても浮いて見えてしまう。リアルとバーチャルは相容れない。視覚的にリアルとバーチャルを馴染ませるためには、両者の乖離をなくす必要があります。方法は二つ」
リズ姉:「一つはハリウッドなど映画界で用いられる手法。コンピューターグラフィックスを高精度に作り上げて、リアルとの区別をつかなくする。つまり全てをリアルに寄せて作り込む方法です」
七海ミサキ:「しかし、この手法は採用できません。私達のアバターはデフォルメされたアニメイラストベースです。私達はこのアバターの分身を愛してます。リスナーの皆様が望む姿もこちらでしょう。リアルと区別つかないならばリアルを見ればいい」
リズ姉:「あたし達は全てをバーチャルに寄せる手法を選びました。AR技術を用いて現実世界の方をバーチャルと重ね合わせる。演者は現実世界で動きながら、バーチャルのアバターとして再構築される。この組み合わせで現実世界と変わらない臨場感あるライブをバーチャルで再現したのです」
:ほへぇ~
:本当に安定感ある
:ちち
:揺れ
:いいものだな
:安定感が揺らぐ
:お前らリズ姉のバストアップで盛り上がるな
:真面目に技術的な解説してくれているのに
:リズ姉がエロくなかったらエヌエイチケイで流されてもおかしくない
:エロい言うなw
:ピコン! 理解した! ライブと同じシステムを用いているならばリズ姉の乳揺れも本物だ!
:なに言っているだこいつ?
:いやまさか……
:なるほど虹色ボイスはアバターに現実の乳揺れさえも再現したのか
:恐ろしい技術力だ
:よくやった!
:合っている……合っているけどそれで理解するのは恐ろしく間違っているだろw
:お前ら自重しろwww
七海ミサキ:「髪や衣装の動きを再現するためにも色々工夫しています。実は髪型も地味に弄ってモーションキャプチャーを反映させやすくしてみたり」
リズ姉:「現実の衣装もアバターに合わせているんですよ。……さすがにあたしの衣装は露出度を抑えてますけど」
七海ミサキ:「他にも顔の表情をリアルに近づけるために、感情を読み取る機械をつけていますね。皆様は覚えていますでしょうか? 私達三期生と一期生の初のコラボした日に起こった大惨事ネコミミ大戦を」
リズ姉:「あの日アリスちゃんとセツナちゃんがつけていたアバター連動型脳波感知式感情解析機能付きネコミミ。あの感情解析機能が転用されています。さすがに今日はネコミミと尻尾をつけていませんが」
七海ミサキ:「さて難しい話はもう終わりにしましょう。私達の同期。三期生の桜色セツナちゃんも事務所と難しい話を終えたみたいです。登場してもらいますね」
リズ姉:「セツナちゃん。来て来て」
リズ姉の呼びかけに応えて、ライブステージの登場口から桜色セツナが歩いてきた。
覚悟を宿した真剣な表情だ。
桜色セツナ:「リスナーの皆様。登場が遅れて申し訳ありません。本当はライブに出ていない三人で挨拶するはずでした。けれど、どうしても事務所と話し合う必要があり、我がままを言いました」
七海ミサキ:「その表情は許可が降りたんだね」
桜色セツナ:「はい! 皆様に重大発表があります!」
:髪や衣装など細部まで再現するために色々やっているんだな
:え? あれが!?
:大惨事ネコミミ大戦w
:覚えてる! アリスが可愛かった奴!
:例のネコミミか!
:アバター連動型脳波感知式感情解析機能付きネコミミ
:あれでアバターにリアルな表情作っているのか
:ただのネタアイテムじゃなかっただと!?
:顔の表情までトレースするわけにはいかないからな
:セツにゃん登場
:いいんよ別に
:事務所との話し合い
:重大発表?
桜色セツナ:「桜色セツナは来年のアニバーサリー祭までに歌手デビューすることをここに宣言させていただきます! つい先ほど事務所から歌手デビュー宣言の許可を頂いてきました!」
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作者からの連絡。
ダメな人はスルーしてください。読み飛ばし推奨です。
重要なことは書いていないですし、私も読専の頃は飛ばしていました。
【テンポと視点の問題で本編に入らないショートショート】
「落ち着け。落ち着けあたし」
ついに始まるアニバーサリー祭公式配信。
その総合司会の大役を任されたリズ姉は事務所の化粧室で自分に言い聞かせていた。
コラボ配信などで中心の立ち位置で話しているが、実はそれほどプレッシャーには強くない。配信では伝わらないように頑張っているだけだ。
配信前は毎回言い聞かせている。でも今日の震えはいつもよりも手強かった。
虹色ボイス事務所にとって特別な配信だからだ。
その後ろを七海ミサキが鼻歌交じりで通る。
「リズ姉。今日は頑張ろうね」
「……ミサキさんは余裕そうね」
「だってメインはリズ姉だからね。私は安心してフォロー役を全うするだけ」
「またミサキさんは調子のいいことを言う。いつも根拠もなくあたしを持ち上げるけど、あたしがミスしたらどうするのよ」
「リズ姉はミスしないよ。しても私がフォローできるぐらいの小さなミスぐらいかな。それを確信しているから私はお気楽でいられるんだよ。じゃあお先に失礼」
ポンと肩を叩かれた。
七海ミサキは化粧室から颯爽と去っていく。
「……まったくもう。ミサキさんは」
本番で盛大にミスして困らせてやろうか。
慌てふためく七海ミサキの姿を想像して笑ってしまう。
気づけば震えが止まっていた。
応援や評価★お待ちしてます。
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