【第二巻発売決定2024/7】引きこもりVTuberは伝えたい

第58話 相席できない公式生配信①-未成年コンビのウキウキウォッチング-

　虹色ボイス公式チャンネル。

　現役声優として活躍している虹色ボイス一期生が様々な企画やメディアミックスを行うチャンネルだ。

　いつもならばメインを飾るのは一期生の面々。

　けれど今宵は違う。

　なんと一期生も二期生も差し置いて三期生の未成年コンビが看板を背負っている。

　しかも呑み会動画実況配信。

　色々な意味で事故配信になるのではないか。

　そんな不安も囁かれる中、公式生配信の幕が上がる。

　現れたのは小柄なメイドロボの真宵アリスと桜の精を彷彿とさせるツインテールな桜色セツナ。

　二人とも緊張した面持ちで目をつぶっての登場だ。

　その頭上にはテロップが流れている。

『冒頭に大音量が流れます。鼓膜と社会的立場の安全のためヘッドフォンやイヤフォンの着用のうえ、音量設定にお気をつけください』

：はじまったぁーーーー！

：虹色ボイスの大看板のチャンネルを三期生の未成年コンビに背負わせるなんて

：さすがに緊張している……ん？

：なんかヤバいテロップが流れているんだが

：え？　公式チャンネルでやるの！？

：真宵アリスだ！　奴はやると言ったらやる！　みんな音の爆弾に備えろ！

：なんで毎回俺が電車に乗っているときに……まあ慣れたものだが

：いたのか長文の兄貴！

：備えは万全だぜ

：カウントダウンが始まっ……ん？

　画面が切り替わり、なぜか異世界風のアニメーションが流れ始める。

　中世の街並み。奥に西洋風の王城。賑わう大通りと街を覆う巨大な城壁。

　そんな王都に上空から襲いかかる禍々しい黒いドラゴン。

　城門が破壊されて王都は阿鼻叫喚に包まれる。

　黒竜は一気に全てを破壊するつもりなのか全身を赤黒く光り輝かせる。

　長い首を上空に向けて、口内に溜められた魔力が光の奔流として漏れ出る。

　ドラゴンブレスだ。

　放たれるまでのカウントダウンが始まる。

『十』

　王都崩壊は目前。

　そんな黒竜に立ち向かう双剣を構える冒険者桜色セツナ。

『九』

　そして完全に場違いなメイド服。

　身の丈以上の巨大な包丁を掲げる真宵アリス。

『八』

　二人は目線を合わせて頷く。

　桜色セツナが口を開く。

「こういう演出ってたまにありますが」

『七』

　真宵アリスが応える。

「待つ必要ないよね」

『六……え？』

　二人は黒竜以上の輝きを身にまとい、明らかに隙だらけ黒竜にどてっぱらに刃を突きつける。

「「せーの『肉塊を切っ捌けぇっーーーーーーーーー！』」」

　公式チャンネルに重なり鳴り響く二人の叫び。

　大声量だ。

　全て宣言通りである。

　カウントダウンを完全に無視している点を除けば。

　映像がスタジオに戻り、録音マイクの前で台本を持った二人のアバターが手を振っている。

　生アフレコ演出である。

真宵アリス：「そんなわけで始まりました。公式チャンネルで皆様こんばんは。王立メイドロボ養成学院暴走学科三期生の暴走型見習い真宵アリスと」

桜色セツナ：「芸歴だけは長くてすでに十年。今が一番桜満開している三期生の桜色セツナです。最近まろ便で送られてきました。誰が三期生の残念枠就任おめでとうですか！」

：いきなりなにが始まったのかと思ったら

：無駄にクオリティの高いアニメーション

：ドラゴンさん……可哀そう

：カウントダウンを待たないだと！？

：カウントダウンさん『……え？』

：肉塊を切っ捌けぇっーーーーーーーーー！

：肉塊扱いされる無防備なドラゴンさん

：二人息合ってるな（遠い目）

：セツにゃん残念枠就任ｗｗｗ

：今回は音漏れないのに電車内でまさかの展開に驚いて「えぇえぇぇぇっーーー！」と叫んでしまって周りから滅茶苦茶見られたんだが俺は気にしない……だから向かいの席の奴も気にしなくていいぞ

：兄貴……相変わらず長い

：……押忍

：いやお前ら同じ電車内にいるならもう普通に喋れや

真宵アリス：「本日は新企画の二段構成でお送りしております。こちらの生配信は『未成年は相席できません！』のコーナーです。なんと公式チャンネルなのに一期生不在。三期生の未成年コンビだけで生配信ですよ」

桜色セツナ：「最初この話が来たときは驚きました。……アリスさんはずいぶん乗り気ですね。『隠れ家居酒屋アリス』は裏方として参加して、こちらでもメインキャスト。かなり負担が大きいと思うのですが」

真宵アリス：「セツにゃんは乗り気じゃない？」

桜色セツナ：「アリスさんと共演ですよ。乗り気じゃないわけがありません！　でもアリスさんの扱いに関しては少し不満です。さっきの『肉塊を切っ捌け』もアリスさんからの発案ですし。疲労からストレスが溜まっているのではと心配してます」

真宵アリス：「うーん『肉塊を切っ捌け』は普段から叫んでみたいセリフ上位なだけでストレスとは関係ないかも。確かに巨大な肉塊の処理は手間だょ。筋の切り方。脂の残し方。調理法や食感を考えて造形や厚さを整えないといけない。勢い任せにぶつ切りにしたい欲求はある」

桜色セツナ：「やっぱり大変だったんですね」

真宵アリス：「でも色んな人に料理振る舞う機会なんてあまりないから楽しかったよ。なにより――」

桜色セツナ：「――なにより？」

真宵アリス：「セツにゃんと二人のコーナーが楽しみだったから」

桜色セツナ：「うぐ……うぅぅぅ～～～～～～～～～～」

真宵アリス：「どうしたのセツにゃん？　急に蹲って」

桜色セツナ：「いえ私に一片の不満はありません！　今回が神企画だと思い知らされました。毎日でもいいぐらいです！」

真宵アリス：「毎日はさすがに私が困るかも？」

：公式チャンネルなのに一期生不在は初めてか？

：隠れ家居酒屋アリスにはミワちゃんが監視役として派遣されているらしい

：二期生三期生中心の企画か

：アリス多忙

：ええ子や

：これが料理つよつよ勢の叫びか

：たぶん「(魚の頭を)ギロチンにかけよ！」とかも言いたいんだろうな

：アリスがセツにゃんを沼に叩き落とした

：……アリス沼の深淵から抜け出せそうにないな

：本人が温泉感覚で浸かりに行ってるからな

：てぇてぇ

：天然物のアリスに翻弄されるセツにゃん

：仲いいなこいつら

真宵アリス：「それでは『未成年は相席できません！』のコーナーを簡単に説明しますと未成年による呑んだくれの生態観測です」

桜色セツナ：「……呑んだくれの生態観測」

真宵アリス：「研究資材として『隠れ家居酒屋アリス』の動画をリスナーの皆さんと一緒に視聴します。『隠れ家居酒屋アリス』の動画はこのコーナー初出しです」

桜色セツナ：「『隠れ家居酒屋アリス』の動画はこの生配信終了後に公式チャンネルで公開されます。公開されるのは大いに盛り上がりすぎた呑み会のロング版です。さすがに生配信で見るのがしんどい量なので『相席できません！』ではショート版を視聴します。え～と……あのアリスさん？　編集入れてショート版一時間超え。ロング版四時間超えってどれだけ呑んでいたんですか？」

真宵アリス：「食事のあとにトランプ、カラオケ、ゲーム大会、謎のボードゲームに人狼ゲーム。他にもキツネ先輩布教中のTRPGとか。許可取ってないから配信できないのも含めて、ずっと呑みながら遊んでいたからね。お泊り前提で仮眠あり。延べ十二時間ぐらいはやっていたんじゃないかな？　私は収録外の途中参加なうえに夜食兼朝食としておにぎりと味噌汁作って早めに寝たけど」

桜色セツナ：「まさかの配信に使えない部分の方が多い！　あとアリスさん優しい！」

：呑んだくれの生態観測

：隠れ家居酒屋アリスの動画もちゃんと公開するんだ……って四時間！

：それもノーカット版じゃなくて編集済み

：もうただ泊まりで遊んでいるだけやん

：キツネお前TRPGにまで手を出していたのか！

：アリスの対応がなんか慣れてる

：さすが呑み屋料理マスター

：配信で使えない内容の方が長いのは草

真宵アリス：「さてセツにゃん」

桜色セツナ：「なんでしょう？」

真宵アリス：「動画を見る前にセツにゃんはどれだけ呑んだくれに詳しいかチェックです。セツにゃんが観測した身近な呑んだくれエピソードをお一つどうぞ」

桜色セツナ：「身近に呑んだくれなんてカレン先輩以外いませんよ。お酒を呑んでいるところは見たことありますけど酔い潰れるのは見たことないですし」

真宵アリス：「……え？　そんなことってあり得るの？」

桜色セツナ：「そんなに意外そうな顔をされても。アリスさんはそんなにあるんですか？」

真宵アリス：「んー私も引きこもりだからあんまりない。身近な例になるけど、ねこ姉は抱き着き癖が爆発する。体格差あって一度捕まると私では抜けられないから困る。ねこ姉を殴るわけにもいかないし」

桜色セツナ：「なんて羨ましい」

真宵アリス：「マネージャーは酔いが回ると私のメイド服のスカートをめくりたがる」

桜色セツナ：「羨まけしからんです！」

真宵アリス：「……羨まけしからんって。一応フォローすると性的な意味はないよ。動物の本能というかひらひらしたモノを追いたがる習性が発露するみたいで。だからうちにはネコ用のねこじゃらし玩具が置いてある」

桜色セツナ：「それは可愛いかも、あっ……アリスさん？　スタジオの外でマネージャーさんが顔真っ赤にして怒ってますけど」

真宵アリス：「え……さっきのところカットで」

桜色セツナ：「生配信なのでできません」

真宵アリス：「……うん。なかったことにしよう。はいっ！　そんなわけで呑んだくれの生態観測の時間です。随所随所に当日の料理の写真やレシピも公開しますので、ぜひそちらもお楽しみください」

桜色セツナ：「誤魔化し方が雑！　けれどアリスさんは私が守ります！　そんなわけで」

アリス・セツナ：「『隠れ家居酒屋アリス』のスタートです！」