第24話 勝利報告生配信①ー二度目の咆哮ー

 ついに配信開始時間になった。

【やる気充電中】のテロップが【やる気充電完了】に切り替わる。


 待機所では、うとうとしていたミニ真宵アリスがパチリと目を開けた。

 通常ならば、起き上がって私の配信が始まる。

 けれど今日は続きがあった。

 起き上がったミニ真宵アリスが頭上のテロップを取り外し、裏返しで床に敷き始めたのだ。

 

:配信始まった?

:いつもとアニメーションが違う

:あのテロップ取り外せるのか

:ミニ真宵アリスの満足そうなドヤ顔可愛い


 そのまま画面が実写に切り替わる。表示されるのは黒い下敷の上の真っ白な和紙。予想外の展開にコメント欄の流れが早くなる。

 本番は一度きりの勝負。ここで失敗すると今後ネタにされてしまう。気合を入れ直して握る筆を墨汁に浸す。さあ書こう。


:実写?

:書道か

:手が出てきた

:おててちっさい

:これは本当に小学生では

:まくっていてもわかるメイド服の袖w


 なんだが不本意なコメントが流れた気がする。

 気を散らさないように心を引き締めて一気に書き切る。なかなか綺麗に書けたのではないだろうか。


:小学生にしては字上手くないか?

:普通に上手いというかちゃんと書道を習った人の習字

:勝訴ってwww

:そういうネタか

:裁判オマージュw


 またしても不本意なコメントが流れた気がする。

 用意したイモ判を握る手に力が入った。判子なので多少荒々しくても問題はない。カメラに映るように上面に製作者の名前も彫ってある。先に押すのは真宵アリス作のイモ判だ。真宵アリスと印字されたイモ判に朱墨汁をつけて左下にペタンと押す。


:手作りイモ判子www

:本当に小学生かな

:クオリティの高さが逆笑える

:イモ判子を持つと余計に際立つ手の小ささw


 続けてねこグローブ作のイモ判子をその下に押す。

 デザインしたママ本人作の真宵アリスをデフォルメしたイラストのイモ判子だ。


:ねこグローブ作

:クオリティたけぇ

:この判子を普通に売ってほしい

:アリスとねこグローブ先生と家で二人仲良く作っていたのを想像するとてぇてぇ

:おかあさんといっしょ

:姉妹だろ(年の差)

:お前らw

:どちらでもてぇてぇというか微笑ましい


 当然のサプライズ実写に好意的なコメントが流れる。ひとまず大成功。

 ……成功なのだが許されないコメントが散見される。

 これはいつもの挨拶に変化を加える必要がありそうだ。

 実写からバーチャルに画像を切り替える。真宵アリスアバターは完全に無表情。声もいつもの明るい妹ボイスではなく、同じ年下風でもクール少女ボイスを意識する。

 カーテシーも省略だ。


「やる気充電完了。お仕事モード起動。皆さまおはようございます。世界に叛逆しなければならない。そう改めて強く決意した決戦型駄メイドロボ真宵アリスです。ついさっき皆さまに言っておかなければいけないことができました。本日の配信予定を少し変更させていただきます」


:おはよー

:夜でもおはようは仕事人の証

:字が上手かった

:いつもよりも声固い?

:なんかしてはいけない決意をしてそう

:物騒なニュータイプ決戦型

:俺らに?


「これから大声を出します。リスナーの皆様はスピーカーの音量に注意してください。またヘッドフォンやイヤフォンの着用をお勧めします」


:このアナウンスはヤバい!

:ロボット音声じゃないけど懐かしい

:事前に言ってくれるの助かる

:やると言ったらアリスは本当にやるから音量下げろよ

:ヘッドフォンと音量下げはアリスリスナーの嗜み


「外で視聴している方、家族と同居している方は再度ヘッドフォンやイヤフォンの接続を確認してください。今回は本当に暴言を吐きますので、音漏れすると社会的に死にます」


:なつか……宣告暴言?

:なにを言う気だw

:早速事務所からの警告カウントが加算されたんだが

:大音量だけじゃなく暴言まで事前に注意してくれる親切設計

:本当に親切設計なら注意が必要なことをしないからな


「大事なことなのでもう一度言います。音漏れしたら社会的に死にます」


:ちゃんと繰り返す親切設計

:大事なことなので二度言いました

:ご丁寧にありがとうございます

:今回も電車内だがカウントダウン前に音量を下げて音漏れの確認も終わった

:電車内で下剋上長文兄貴いたw


 さすがに二回目なのでリスナーの対応も慣れている。

 あと前回音漏れしたリスナーさんすみません。けれど叫ばずにはいられないことがある。

 マイクに握りしめてカウントダウンを開始する。


「ではカウントダウン。じゅうきゅうはちななろくごよん」


:やっぱ早い

:高速カウントダウン

:今回は準備万端だ

:なんで大音量で暴言吐かれるのにテンション上がっているんだろw


「さんにいち。誰が小学生ですかこのロリコンどもがぁーーーーーーーー!」


 拳を突き上げ絶叫するアリス。

 エコーとキーンというハウリング音が鳴り響いた。


:本当に暴言じゃねーかwww

:ロリコン大歓喜www

:幼女からの罵声はご褒美です

:事務所からの警告カウントがすでに二桁w

:俺氏は今回無事切り抜けたが腹筋崩壊運命に愛されたのか誰かの音漏れで乗っている電車中に「このロリコンどもがぁーーー」の叫びが鳴り響いたんだがwww

:www

:事前に警告されていたのに新たな犠牲者がwww

:長文報告ワロタw

:電車内で何人かビクッとしたからこの電車ヤバいかもw

:……リスナー率が高いのかロリコン率が高いのか


 見覚えのある阿鼻叫喚のコメント欄。

 新たなる犠牲者が生まれてしまったらしい。あとご褒美ってなんだろう?

 触れてはいけない闇がありそうなのでスルーする。


「いいですか皆様。小学生と言う方が小学生です。私はちゃんと小学校は卒業してます。真空飛び膝蹴りとともに卒業したのです」


:俺は小学生だった?

:バカと言う方がバカの小学生理論

:真空飛び膝蹴りとともに卒業する小学校ってなんだろw

:それならアリスもロリコンになるぞ

:アリスはロリータ(と言われることが)コンプレックスだから間違ってない

:なるほど

:ジト目で淡々と言われる新しい扉を開けそう

:やめとけこっちは沼が深いぞ

:……お前がすでに開いた後なのかよ


「さて本日の配信を開始します。アリス劇場のショーの幕は今から上がりますので、先ほどの暴言はなかったことにしてください。事務所からの警告カウントも見てはいけません」


:りょ

:了解しました(訓練されたロリコン)

:事務所からの警告は見ないとダメだろw

:コメント欄にロリコンを名乗る奴が溢れたんだがw

:下剋上に続きアリスの咆哮切り抜きが増えるな

:なぜか中毒性があるんだよなアレ

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