第15話 収益化記念生配信④ー火炎放射器で正気に戻ったー
中二病。
多感な思春期に起こる病。不治の病だという説もある。元々は反抗期と合わせて、粋がった言動をしてしまうぐらいの意味だったのにどうしてこうなった?
それは誰にもわからない。でもロマンだけは無駄にある。
腕に包帯を巻いて眼帯で片目を封じても、封じられるのは自分の動きだけ。手から炎を出したいならば素直に着火ライターを使いましょう。コンビニにも売っています。そんな現実はどうでもよくて。
自分は特別な存在だと思い込ませて欲しい。
切実な想いが透けて見えて、尖った言動を笑うと同時にどこか共感してしまう。
中二病を否定しない。
特別な存在でありたいと願うことは当たり前で、つまらない人間にはなりたくないのは正解だ。諦めることを大人というのは間違っている。
ただ正常な判断力は持ちましょう。大事なのはただそれだけ。
「小学校の友達もいる中学校に転校した私はそれなりに楽しくやっていました。電車に乗れないので遠出もできない。集団行動もままならないので帰宅部です。私がアニメを見ながら、アフレコとかし始めたのもこの時期ですね」
:よかった
:頑張り過ぎないように
:無理は自覚するのが大事
「学校では女子グループに餌付けされたり、誘拐されたり、拘束されたり、監禁されたり、眼帯して心配されたり。中一中二と特に事件も起きず平和な時が過ぎます」
:平和?
:なんか事件起きてるけど
:さらりと流していいのか
:眼帯はやったのか
「ちなみに眼帯は中学二年生進級記念にねこ姉がくれた物です。本格的なコスプレ用でゴスロリ仕様でした。つけていったら同級生に本気で心配されました。事情を説明すると、中二病的なキメ台詞をねだられた挙句、スマホで撮影会されたので一日だけですね。『わーはっはっは我が瞳に封じられし力! とくと見るがよい!』」
:ねこグローブ先生w
:中二記念に眼帯w
:アリスを沼に誘うコスプレ趣味の従姉w
【ねこグローブ】:当時からイラスト描いていたからアリスちゃんには大変お世話になりました
:中二病台詞がキマり過ぎてイベント化したのではw
「その頃の私は大丈夫アピールに必死でした。両親も過保護です。婦警さんに顔を覚えてもらうために警察署に相談も行きました。周りに心配かけまいとわざと明るく振舞い、周囲から求められる言動を演じる。自分では子供っぽいうえにあざとくて正しいのか疑問でした。男子への怯えは本当だったので、女子グループからは過保護に扱われマスコット化していたと思います。当時の私をゲームで例えると職業欄が中学生ではなく、小動物レベル五十とかだと思います」
:子供が警察を頼りやすくするために親が一度相談するとかあるらしいね
:真空飛び膝蹴りがこうも変わるとはよほどのことがあったに違いないと過保護に
:それか!
:小動物レベル五十は魅力と回避高そう
「けれど時が経つにつれて、私の中学生活も次第に壊れ始めます。それが明確になったのは中学三年生の春。私は学校で倒れました」
:まさか病気?
:実は余命がとか言わないよな
:本当にやめてくれよ
「病気ではなく長時間の胸部圧迫が原因です。自分は大丈夫と言い聞かせながらトラウマ持ちは個性だと中二病に逃げてました。自分や周囲の身体的な成長を受け入れたくなかった。まだ子供でいたかった。無理やり小さなブラとかつけて子供っぽくしていたら倒れてしまって」
:あー
:心理的な問題か
:前の配信だと普通に話していたけど色々あったんだな
「適正サイズの下着をつけるようにします。すると周囲の目も変わります。男子の視線が怖いです。子供っぽく見せるためのオーバーアクションもできません。動くとわかるので。私につられて他の女子も過剰に反応してしまう。薄着になる夏服衣替えの時期には教室にいづらい。自然と保健室通いになりました」
:男性恐怖症か
:男子生徒が悪いわけではないんだけど
:いきなり胸のサイズが変わっていたら
:保健室通いでも学校に出ているだけで偉い
「そこで私は変態と遭遇します」
:おい
:唐突だな
:変態とのエンカウント率高すぎない?
「保健室で盗撮用のカメラを見つけてしまったのです。私は中二魂を燃え上がらせました。絶対に変態を見つけてやると。気分は名探偵です。他にカメラがないか隈なく確認しましたが見つかりませんでした」
:あかん
:本当に事件じゃん
:盗撮か
「もちろん養護教諭のお姉さんには報告しましたよ。けれど話題にもならず進展なしです」
:当然だよな
:報告できてえらい
:報連相は大切
「私は帰り道に顔見知りの婦警さんのところに寄りました。学校に仕掛けられた盗撮カメラの話を説明すると、警察には上がっていないようでした。学校で起こったことですからね。簡単には警察に通報しないのでしょう。でも校外で起こった別の事件のことを婦警さんから聞くことができました。注意喚起のためです」
『先月隣の市で小学生女子の誘拐未遂事件があったのよ。突然若い男性に車に引きずりこまれそうになったの。その時は防犯ブザーに驚いた犯人が逃げたんだけど現在捜査中でまだ犯人は捕まっていないの。この一か月ほどは小学校周りを重点的にパトロール中。対象が小学生女子だしアリスちゃんも気を付けないとね』
「もちろんアリスちゃんは仮名です。実際は本名ですけど。あと最後の小学生女子云々は冗談で言われただけです。本当に小学生扱いされたわけではありませんからね。ただその話を聞いて私は防犯ブザーだけでなく、痴漢撃退用の催涙スプレーなども持ち歩くようになりました。ついでに婦警さんが中学校付近も見回りコースに追加してくれると言ってくれました」
:学校内の盗撮だと警察に上がらないか
:カメラが見つかっただけだしな
:別の事件の話を仕入れている
:探偵モノっぽいけど嫌な予感しかしない
:警察との信頼関係できていてよかった
:捜査情報バラしていいのか
:不審者の情報とかは周知するためにホームページに載せてるから
:完全に小学生扱いだろw
:捜査情報ではなく注意喚起
「そして皆様の予想通り私は襲われます」
:うえ?
:本当に襲われたのかよ
:警察沙汰
:マジで巻き込まれ体質か
「養護教諭が用事があるからと、保健室で留守番メッセンジャーをしていました。そのため中途半端な下校時間なっていました。周囲に生徒は歩いておらず、不審な車が止まっています。不自然でしたが道を変えて遠回りし、人通りのない脇道を歩く方が危険です。防犯ブザーや催涙スプレーの存在を確認してその横を通り過ぎます。すると車から若い男性が出てきてニヤニヤしながら話しかけてきました」
『ねえ君がアリスちゃんだよね。ボクとちょっと話しようよ』
「名前を知られている。私は恐怖を我慢しながら即座に防犯ブザーを鳴らし、慌てて掴みかかってきた男性の顔にかなり強力なタイプの催涙スプレーを噴射します」
:狙われてたんだ
:対処できてえらい
:いきなり不審者に名前呼ばれたら怖いよな
「けたたましく鳴る防犯ブザー。すぐに人が来てくれるわけではありません。婦警さんの話では防犯ブザーに逃げた男性のはずが、怒り狂った形相でこちらを睨んできます。身を守らなければいけない。ここでアレを使わなければいつ使う。中二魂が火を噴きます。皆様も家庭科や科学の授業などで習ったアレです。私は準備しておいた着火ライターを噴射中の催涙スプレーに近づけました」
:おいw
:習うわけじゃない
:火気厳禁
:そういえば†だった
:思いついても絶対にやってはダメな奴
「……シャレにならない勢いで目の前が真っ赤になりました。催涙スプレーがかなり強めのガス圧だったのか、炎は線上に伸びて不審者を襲います。地面を転がりまわる不審者。これはやってしまったかもしれない」
:大惨事
:ファイアー!
:危ないからやめておけと
:見た目ほど温度は高くないはず……と言っても爆発に危険もあるから絶対禁止
「私の中二魂は急速に燃え尽きました。自分は特別な存在ではなくただの弱者。悪人を倒して喜べるヒーローではない。他人を傷つけて喜ぶ嗜虐趣味もない。他人を傷つけてなんとも思えないサイコパスでもない。もちろん名探偵にもなれない。悟りました。私はあたふたするだけのただの小動物でした。あたふたしている間に警察官が駆けつけてくれて不審者は捕縛。火炎放射器は不問にしてくれました」
:あたふたあたふた
:中二病完治おめでとう
:現実を知るって大事だよね
:コメント欄を現実逃避させるなw
「私は次の日から引きこもります。中二魂を失った小動物には学校は危険でした。そして数日過ぎ、家に学校の先生や警察官が来ます。私の予想通り養護教諭のお姉さんが逮捕されたんです」
:ふぁ?
:なるほどだから話がおかしかったのか
:共犯かよ
:たぶん盗撮犯だろ
「私も養護教諭のお姉さんが盗撮犯かも、とは予想はしていました。けれど下校中にロリコン男性に襲われるとは想定外です。援助交際できる女子中学生として売られたみたいです。不審者が警察に全て話しました。養護教諭のお姉さんのパソコンからは盗撮写真が見つかります。金銭目的ではなく完全に趣味みたいでした。売りさばかれてもいないので一安心です」
盗撮は警戒していたが結局カメラなどは見つけられなかった。警察が徹底的に調査し、売買や投稿などの金銭目的ではないと判明した。
けれどそれは異常さも跳ね上がらせるわけで。
「肝心の動機ですが盗撮の隠蔽。盗撮カメラを見つけた私の排除と思っていたんですけど違うのかもしれません。今も動機は不明です。……人間って怖いんです」
:違うの?
:不穏な
:金銭がらみでないのに盗撮していた養護教諭か
「顔見知りで私の担当になっている婦警さんが心配してくれて教えてくれました」
『壁一面に引き延ばされた写真とか絶対にヤバいストーカー。本当に大丈夫? 何もされてない? なにかあるなら絶対に力になるから』
「……私も警戒していたので本当になにもされていません。この人が怪しい。絶対に正体を暴いてやると中二魂で保健室登校していたので。今では大反省です。名探偵にはなれません。冒険は正常な判断力を失ってはいけません。火炎放射器は危険です。危険な人だと思ったなら、逃げて周囲に相談しましょう」
:……壁一面に引き延ばされた写真
:ヤバいストーカー
:完全にダメな奴でしょ
:こわいこわいこわいこわい
:想像以上に闇が深そうな
:暗黒ってこれか
:さらりと配信で話す内容じゃない
「ついに対人恐怖症気味になった私は引きこもりな中学三年生を過ごします。高校受験の時期に親の東京転勤の話が重なりました。両親も私のために環境を変えなければと思っていたのかもしれません。東京都内のエスカレーター式進学高校に受験することになります。そしてついにあの事件に」
:チンコロ事件か
:そういえば今日ネット冤罪の話だった
:他のエピソードが濃すぎる
:チンコロ事件も名前のインパクト強いのに
「いえチンコロ事件の前にヒトは生身ではゴリラに勝てないと悟る話があります」
:ちょっと待てwww
:いきなりぶっこむなw
:どうしてそんなエピソードトークが出てくるんだよw
:タイトルでわかるすべらない話
:番組変わった
「ヒトは生身ではゴリラに勝てないと悟る話はチンコロ事件と密接な関わりがあります。省くわけにはいかないんです。重要なので」
:密接な関わり
:ゴリラどこから出てきたwww
:重要なのか
:本気でチンコロ事件がどんなものかわからない
「そんなわけで次は勘違いゴリラ襲来の高校前編『アリス敗北する』です」
:勘違いゴリラw
:そんなネタバレ次回予告みたいに言わんでも
:ついにアリスが敗北するのか
:考えてみるとここまで敗北はしてないんだな
:タイトルからわかる強者感
:シリアスが迷子になった
:すでに大事件
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