第16話 収益化記念生配信⑤ーヒトは生身でゴリラには勝てない前編ー
高校デビュー。
ただの人間には興味ありませんのフレーズが有名。環境の変化で今までとは違う特別を求める心は大事にしたい。
自分を変えるために陰から陽にクラスチェンジを試みるのもいいでしょう。
明るい未来を目指しましょう。
けれど引きこもりの社会不適合者である結家詠は心が折れていた。普通を目指すのさえ難しい。支えだった中二魂は火炎放射器で燃え尽くした。
残ったのはすみっこぐらしに憧れる小動物だった。
「私も対人恐怖症をこじらせた引きこもりでは駄目だと理解していました。だから再起の高校デビュー。色々準備します。三つ編みは髪の長さ的に無理。便底メガネは入手困難。前髪を伸ばす方向で。辞書持ち歩くのは疲れるので諦めました」
:コンセプトはわかった
:中二病が再発してない?
:発想が根っからのオタク
:文学少女w
:結局前髪伸ばしただけw
「もちろん図書館で本を読み漁り、成績を良くするために高校受験どころか有名大学の赤本も解けるように頑張りましたよ。引きこもりで時間だけはありましたし、趣味のアフレコしかしてないわけではないのです。ドヤです」
:頭良いのか
:明後日の方向に優秀
:どや~
:キャラ作りのためにそこまでする紙一重のアホの子
「でも私のキャラ作りは無意味でした。図書委員にもなれません。そもそも立候補する勇気がない。オドオドした陰キャの引きこもり小動物です。初めての土地でエスカレーター式の高校。グループも出来上がっていますし、スクールカーストもあります。中等部からのリーダー派閥というボス猿さんや取り巻きさんもいます。小動物は教室の隅に寄せ集まってすみっこぐらししかない。それでも友達ができて良好なスタートでした」
:キャラ作り通りでもすみっこでは?
:学校が動物園になってる
:無理してスクールカースト上位に仲間入りしましたとか困惑だし
「私は満足してました。社会復帰して真人間になれている。けれどそんな日々も一か月ぐらいで崩壊します」
:急展開
:もうやめてくれ
:アリスの過去ハード過ぎない?
:ねこグローブ先生曰くかなりシリアスらしいからな
「きっかけはわかっています。友達との帰り道。その途中にあるカラオケ屋にうちの生徒が集まっていました。知らない先輩の集団です。陽キャはカラオケ店で群れるのです」
:陽キャに偏見w
:同意だな
:店前で騒がれると迷惑
「横を通り過ぎようとしたら陽キャ先輩集団が声をかけてきました。『君たちうちの学校の一年でしょ。今新入生歓迎会みたいなのを開いていて、まだメンバーに枠あるから参加しない? もちろん無料だから』……ナンパでした。よく見れば何人か一年生の女子ばかり引っかかっています。男性恐怖症の私はもちろん、友達も生粋のすみっこ仲間です。丁寧に頭を下げて逃げました」
:逃げて正解
:明らかにヤバそう
:慣れた手口だろうな
:店側も協力してそう
「その次の日から私はイジメを受けます。同じクラスのスクールカースト上位集団に目をつけられました。質の悪いことに主犯はエスカレーター組。ボス猿どものまとめ役。つまりゴリラでした」
:どうして?
:おいw
:そこからゴリラが来るのか
:猿のまとめ役はゴリラじゃないからな
:つまりスクールカーストのトップは常にゴリラ
「ゴリラさんが言うには『あなた私の彼氏に言い寄ったでしょ』です。すぐに誤解だとわかりました。勘違いゴリラです。勘違いゴリラさんが高等部に入ってから、付き合い始めた憧れの先輩。つまり昨日の陽キャ集団の誰か。正直誰一人として顔も名前もわからない。でもナンパ失敗の腹いせに『一年のちっこいのにベタつかれてうざかった』とか吹聴したらしいです」
:うわぁ
:そんなクズ男いるんだ
:うざいのは男の方
:勘違いゴリラも趣味が悪い
「弁明しても聞き入れられません。取り巻きの中には同情してくれる人もいました。その先輩の素行の悪さは在校生では有名だったらしくて。恋は盲目です。完全に勘違いゴリラさんの暴走だったので、イジメはそれほどでありません。『ちょっとヤバいよ』と止めてくれたり、陰で『ごめんね。普段あんな子じゃないんだけど』などと謝られてもいました」
:クズ集団ではないと
:勘違いゴリラが悪い
:なら取り巻きもちゃんと止めろよ
:勘違いゴリラが高校デビューで失敗したパターン
「私は我慢に我慢を重ねます。三日でキレました。中二魂を失っても小学校では真空飛び膝蹴りの使い手だった自負があります」
:三日?
:早いw
:我慢とは
:イジメはエスカレートする前に対処するのが大切だからな
:真空飛び膝蹴りの使い手の自負w
「クラスメートの皆がいる教室で叫んでいました。『だからそんな先輩は知らないって言ってるでしょ。この勘違いゴリラがぁーーーーー!』と」
:おいwww
:マジ本人に言ったの?
:勘違いゴリラw
「ウケました」
:ウケましたwww
:ウケるなw
:笑うけど
「廊下で若干エコーがかかったのもポイント高かったです。最初は小動物の叫びに呆然と。でも取り巻きの一人がクスリと吹きます。周囲も我慢しきれず笑いが広まっていきます。比例するように勘違いゴリラさんの顔が真っ赤になります」
:エコーw
:アリスの学校トラブルは小学校以来だな
:小学校は変態上級者で中学校は痴漢と暴漢と盗撮悪質ストーカー(全て撃退済み)
:もう同級生ぐらいにはビビらない戦歴
:改めて中学校時代が暗黒すぎる
「念のために言っておくと、勘違いゴリラさんはイケメン美人さんでゴリラにはたぶん似てません。顔も名前も覚えていないので、勘違いゴリラさん以外の呼び方がわからないという困った現状です。覚えていない理由はあとで説明します」
:そりゃあゴリラ似ではないよな
:イケメンゴリラw
:イジメてきた相手の顔と名前を覚えてない?
:理由ね
「私を睨みつけて近づいてくる勘違いゴリラさん。体格差は歴然です。勝てません。私もヤケになってます。笑いも取れましたし、一発ぐらいなら大丈夫。大事にならない。そんな謎の油断もありました。そう油断です。……こういう時は普通ビンタですよね?」
:聞かれてもわからん
:普通ってなんだろ
:まあビンタだな
:キレた女子高生はビンタするイメージ
「……勘違いゴリラさんが放ったのは掌底でした。足幅は肩幅開き。そして一瞬の短い踏み込み。私ができない震脚をマスターしています。無駄な挙動はなく見事に腰が入った腕の振り。奴は素人ではありません!」
:掌底www
:アリス震脚への憧れ強いな
:勘違いゴリラなのに
:素人ではありませんw
「こういう時ビンタじゃないの? なんて驚愕していた私は避けられませんでした。いえ驚愕してなくても避けられなかったでしょう。来ると思った瞬間に顔までノビたあの掌底。まるで閃光。襲い掛かってくる強烈なインパクト。わかっていても避けられなかった。勘違いゴリラさんには完敗です。おそらく空手か中国拳法か総合格闘技経験者です」
:戦闘描写が細かいw
:冷静に分析するな
:顔を殴られているんだよな
:負けを認められてえらいw
「私は教室の一番後ろまで吹き飛ばされました。心の中で思います。小学校の変態上級者さんごめんなさい。さすがに真空飛び膝蹴りはやり過ぎでした。その報いなのかもしれません、と。実は小学校の頃の真空飛び膝蹴りを気にしていたんです」
:お……おう
:謝れて偉い……?
:確かにやり過ぎだったな
:その時に思うことじゃないw
「私は意識を失いました。骨に異常はなかったですがドバっと床に広がるくらい鼻血が出ての流血沙汰。知らない間に鼻血ブーデビューです。学校はかなり騒然となり、大問題に発展したらしいです。私は脳しんとうを起こしていたので、救急車で運ばれて気づけば病院でした」
:骨に異常がなくてよかった
:脳しんとう
:笑い事じゃないな
:格闘技経験者の掌底は本当に危ない
「退院後、しばらく自宅療養です。脳しんとうですから無理はできません。私はまた引きこもります。両親は庇ってくれました。もう無理して学校に行かなくていいと」
:そうなるか
:流血沙汰に脳しんとうだからな
:勘違いで嫌がらせされてノされたわけだし
「そんなわけで次はチンコロ事件。私の身に起こった激動の引きこもり一週間。勘違いゴリラ襲来の高校後編『ゴリラパニック』です」
:とうとうか
:事件が多すぎる
:いつの間にかチンコロ事件を待ちわびていた俺がいる
:アリスの半生だからな
:年数数えるとわずか五年
:俺の人生より濃密すぎるんだが
:……おい一斉にタイトルから目を背けるな
:ゴリラパニックにどうコメントすればいいんだよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます