第32話 むしょう先生って

 日本に帰ってきて数日後、亜弥から電話がかかってきた。


「そう君、ひさびさ」

「あ、うん」

「来てくれたの?病院」

「なんのこと?」

「ゆめは内緒って言うし、病院のスタッフの人は、ゆめちゃん基金の人って言ったから、誰か

わからなかったんだけど。

魔法少女のステッキ買ってきてくれたなら、そう君かな?って。

でも、まさか そう君がテキサスまで来てくれるなんて思わなかったから。

私、ちょうどあの日はいなくてごめんね」

「あ、いや、いいんだ。

あ、いや、そうじゃなくて……

俺、亜弥に会いに行ったんじゃないから。

お休みだって言われてホッとしたくらい。

なんか、ヤバいヤツみたいだけど、誤解しないで欲しいんだけど、マジで、ストーカーとかじゃないから!ほんと心配しないで!

ただ 由芽ちゃんのお見舞いに行っただけだから」

「テキサスまで、ただお見舞いに来たの?」

「うん……そう……

でも、なにもできなくて、ごめん……」

「何もって。ありがとう!ゆめと、一緒にゲームしてくれたんでしょ?コツを教えてもらったって、ゆめ すっごく喜んでたよ」


いや……わざわざテキサスまで行って、俺がしてきたのは、一緒にゲームをしただけなんて……

情けない……

わざわざテキサスまで行ったのに、

ゆめあやつりはできなかった……


由芽ちゃんの夢の中で、由芽ちゃんが言っていた 

『むしょう先生』

が、気になっていた。

「ね、亜弥、むそう先生のことなんだけど」

「えっ!!なんで?どうして夢操先生の名前が出るの?ゆめからなんか聞いた?」

電話の向こうで、明らかに動揺しているのが

はっきりわかった。

そうなのか……

「むそう先生って、夢って字に俺の操人のくりって、字を書いて夢操かな?もしかしたら、遠い親戚の人かな~って思ってさ」

「えっ?そうなの?すっごく珍しい名字だよね」

「うん。そう。

うち、転勤族であちこち引っ越してたから、ちょっと親戚付き合いって疎遠になっちゃってるけど、近くにいるなら会いたいな~って思って。

どこの大学病院か教えてくれる?」

「あ、〇〇大学病院の先生。心療内科の」

「そうなんだ。てっきり、心臓の方のお医者さんなのかと思った」

「あ、ううん、カウンセリングとかしてもらってて。心配事とかの相談」

そっか……親身になって相談にのってくれたのか。

で、好きになった と……

そんなことを役立たずの俺が問い詰めることじゃないな……

「亜弥、わざわざ電話くれて、ありがとう。

あと、ちゃんと言えなかったけど、こんな俺と付き合ってくれて、ありがとう。

由芽ちゃんが元気になったら、亜弥も好きになった人と幸せになってくれよ。じゃ元気でね」

「えっ!そう君、ちょっ」 切

プープープープープープープー…………


もう込み上げてきて、これ以上話せなかった。

俺は、嗚咽をもらして泣いた。

おふくろはすぐに泣く。

俺も泣き虫だ。

遺伝だと思っていたけど、遺伝的要因じゃなくて、ただ単に俺も泣き虫なんだ。


なんで夢操なんだよ!!

俺の両親を殺して、亜弥のことも奪うのか!!

って、ゆうか!!

俺の彼女だから、奪おうとしてんのか?

俺の彼女だって知って、近寄ったのか?

まさか、ゆめあやつりで、亜弥の気持ちを操ってんじゃないよな?


今まで感じたことのない、なんとも言えないドス黒い感情が、俺の身体いっぱいに膨れ上がるのを感じた。


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