第30話 めんどくさい男だね~
「あ、由芽ちゃんにお土産あるんだ」
リュックから、魔法少女ユメの魔法ステッキを出した。
「はぁ?ゆめ5年生なんですけど~」
ムッとした顔で俺を見た。
あれっ?
妹が、おんなじ名前で、これ大好きなんだ~って、前に亜弥が言ってたけど。
「魔法少女好きだったのなんて、小3までだから!!」
そうですか……
小学生の2年間は大きいんだな……
「ごめんね。もう魔法少女は卒業してたんだね。知らなくて、ごめん」
「いいよ。せっかく買ってきてくれたんだから、もらっておくよ。
これ、電池入ってる?やってみよっかな」
そう言うと、由芽ちゃんはステッキを掲げてスイッチを押した。
『マジカルクリスタルフラワーシャワー!!』
音声とピヨピヨと電子音が鳴り、
先端の丸い部分が赤く点滅しながら光り、クルクルと廻った。パトランプみたいに。
こうゆうものだとは知らなかったから、ちょっと驚いた。
「あはははは!!しょうたお兄ちゃんもやってみなよ!」
そう言われて、俺は立ち上がりステッキを掲げてスイッチを押した。
『魔法少女ユメが、あなたの夢を叶えてあげる』
派手な電子音と共に、今度は黄色い光りが輝いた。
「えっ?これすごいじゃん!びっくりした。今のおもちゃって こんななの?」
「あはははは!今のおもちゃってゆうか、2年も前のだし。自分で買ってきてびっくりしてるって、超ウケる!!天然だね!しょうたお兄ちゃん」
「由芽ちゃん、お兄ちゃんさ、」
魔法使いなんだよ。由芽ちゃんを助けてあげるね!その為に来たんだから!!
なんて、思わず言いたくなった。
だけど、そんなことは言わない方がいいだろう。
「お兄ちゃん、おもちゃ詳しくなくて、2年も前のやつか~!あはは!ごめんごめん!」
と笑って言った。
そんなこんなで2時間。
由芽ちゃんとゲームをしたりして遊んだ。
「由芽ちゃん早くドナーがみつかって、手術できるといいね!」
俺がそう言うと、それまで笑っていた由芽ちゃんは下を向いた。
「どうしたの?」
「ゆめね……ドナーなんて、見つからない方がいいんだ」
えっ?
「なんで?」
「だって……ドナーって……ゆめに心臓をくれるってことは、その子は死んじゃうってことだよ。
ゆめが誰かの心臓をもらって、その子を殺しちゃうってことじゃん!!そんなのイヤだもん!!
誰かを死なせたくないもん!!」
「由芽ちゃん……」
こんな10歳の子が、こんな風に心をいためていることに俺は驚いた。
「由芽ちゃん、俺は、正直言って、臓器移植とかって、よくわかんないんだけど、事故とか病気とかで意識不明とか、脳死とか、とにかくもう死んじゃうってなった時に、それでもまだ使えるかもしれない臓器を、それを必要としている人に移植して一緒に生きてもらうってことじゃないのかな?由芽ちゃんが誰かを殺すんじゃなくて、誰かを生かすってことなんじゃないのかな?」
それから、だいぶ長い時間沈黙が続いた。
「お姉ちゃんもそう言ってる。
早くドナー見つかって、早くゆめが手術しないと、お姉ちゃんも日本に帰れなくて、かわいそうだし。
だから、早くドナー見つかってほしいって思うこともあるんだけど……
お姉ちゃん好きな人がいて、その人と会えなくてかわいそうだし」
「そっか」
そうだよな。新しく好きになった人とも離れ離れか……
「ってゆうか、しょうたお兄ちゃんて、うちのお姉ちゃんの知り合いなの?
今日はお姉ちゃんいないの?って、最初に聞いたけど」
「あっ……えっと、えっとね……同じ大学。
あ!由芽ちゃん!俺のこと、お姉ちゃんには内緒にしといてくれないかな?」
「なんで?」
「だって、亜弥に会いにアメリカまで来たとか思われたら、マジでストーカーみたいじゃん!!
あ、ストーカーってわかるかな?」
「わかるよ」
「亜弥に会いに来たんじゃないから!ほんとに、これ、誤解されそうだけど、由芽ちゃんに会いに来ただけだから!あ!それも違うかな!旅行!そ!旅行中で、たまたま由芽ちゃんの病院ここかぁって、寄ってみただけだから」
「ふ~ん。そうなんだ~。魔法少女ユメのステッキもたまたま持ってたんだ~。へぇ~」
あ……いろいろと墓穴を掘ってんな……
「由芽ちゃん、ごめんね。
正直言うと、俺お姉ちゃんのことが好きなんだけど、お姉ちゃんには嫌われてんの。
だから、俺がここに来たって知ったら、お姉ちゃんに不快な思いをさせちゃうからさ。
お姉ちゃんに会いに来たんじゃなくて、由芽ちゃんのお見舞いに来ただけだから。
だから、お姉ちゃんには黙ってて欲しいんだ」
「ふ~ん。くりたしょうた、めんどくさい男だね~」
10歳の女の子にめんどくさい男って言われてしまった……
由芽ちゃんが日本に帰ってきたら、日本でまた会おうねって約束をして、俺は病室を出た。
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