第21話 もう 後戻りはできないんだな

 昼過ぎに岡山の家を出発して、7時間。

街灯もなければ、舗装もされていないような山道をひたすら進んでいく。

なんの標識も出ていない狭い道に曲がったり、おやじは目をつむってても行けますよってくらい、何の迷いもなく進んでいく。

俺は、なんだか……

もう 後戻りはできないんだな……と、谷底へ落ちていくような気持ちになった。


「着いたぞ。さぁ、降りて」

と言われたが、山道の行き止まりに着いたと言う感じで、家らしき物は見えないし、駐車場に停めたわけでもない。

暗くて見えないだけなのか?って思ったけど、やっぱり見えるのは、高く生い茂った木、木、木……

暗闇の中を、今度は山登りでもするのか?と気が重くなった。

「奏大、こっち」

おふくろに呼ばれた。

「見えてないか?」

「何が?」

「じゃ、手を繋いで行きましょう」

そう言うと、おふくろが俺の手を握ってくれた。

おふくろと手を繋ぐなんて、だいぶ久々。

ちょっと引っ張られるように歩いた。

正面に、樹齢何百年なんだ?ってくらいの巨木が立ちふさがっていた。

おふくろは、その巨木に頭突きでもくらわせようとしてんのかって感じで歩いて行く。

えっえっえっ!!!ちょっと!!ぶつかるって!!

目を閉じて2、3歩進んだ。

あれ、ぶつからなかった のか?

目を開けると、そこにはなんだかわからないけどお花畑って感じで花が咲き乱れていた。

そして、その奥に大きなお屋敷が建っていた。

月明かりがスポットライトのように、屋敷を照らしている。

えっ??

俺は、後ろを振り返った。

さっきまでの巨木の森が薄っすらと透けて見える。

なんてゆうんだっけ?

あ、プロジェクションマッピングみたいな感じ。

さっきのあの巨木をすり抜けてきたの?

おふくろの手を、かなりギュッと握っていることに気づいて、手を放した。

「行きましょう」

そう言ったおふくろの顔は、緊張しているようだった。



 玄関で靴を脱ぎ、おやじ、おふくろ、俺って順番で一列に廊下を歩いた。

2人並んで歩けるくらいだったけど、とりあえず2人の後ろを歩いた。

俺はここに来たことがあるのかな?

全然記憶にはないけど。

奥に入って行き、おやじは ピタッと止まりそこで正座して ふすまの前で、

「昌光でございます」

と言った。

おやじがそう言うと、中からどうぞと声がした。

「はい。失礼致します」

そう言ってふすまを開けて、中に入った。

広い部屋

20畳くらいかな?もっとあるかな。

床の間の前辺りに、おじいさんが座っていた。

その前に歩み寄り、また正座をした。

「ジジ様、奏大様をお連れいたしました」

そうたさま!って!!笑えるんだけど。

「奏大、久しぶりだな。10年ぶりか」

「あの、すみません。全然記憶になくて、俺のおじいちゃんなんですよね?なんて呼んだらいいですか?ってか、敬語な感じですか?」

「あはははは。そうだな。はじめましてってくらいだな。

10年前は、奏大まだ小さかったし、じいじと呼んでいたよ。じいじでも、じじいでもなんでもいいよ。好きなように呼んでくれ。

敬語じゃなくていいから」

「じゃあ、じいちゃんって呼ぶね。

早速でごめん!じいちゃん!俺、ここまでの話、何がなんだか全く理解できてなくて、おやじとおふくろが本当の両親じゃないとか、ほんとの両親死んじゃったとか、ゆめあやつりびととか、そうじんとか、とにかくなんもわかんなくて、すげーいろいろ知りたくて会いに来ました!!だから!教えてください!!全部!!」

息継ぎもしないくらい、すげー早口で喋った。

じいちゃんは、うんうんと頷いた。

「佳也子!」

じいちゃんが そう呼ぶと、ふすまの向こうで待ってたのかって感じで、お盆にのせたお茶を持って、20代くらいの女の人が入ってきた。

どうぞ と、俺の前にもお茶が置かれた。

切れ長の目、白い手、長い黒髪。

綺麗な人だった。

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