第19話 そんなこと聞きに来たんじゃないのに

 「記憶 喪失……そうだな。記憶を失くしたと言うのは、記憶喪失と言う言葉になるんだな。

……儀式をしたんだ。チカラを発現させる為の儀式。直大様も10歳と20歳の時にやった儀式。

結果的には、チカラを発現させることは出来ず、それまでの記憶を失った。

奏大も10歳の誕生日に儀式をしたんだ。

チカラは発現しなかった。そして、記憶を失った」

えっと……

ビックリを通り越してしまうと、なんだかもう

それは、自分とは関係のない話のように聞こえる。

「奏大が5歳の時に、ご両親は亡くなられた。

私と友恵は、夢操人のお側身と言うんだが、代々夢操人に仕えている家の者。

ジジ様に養子にしていただいて、奏大の親として操人の名を継いだ。その際に、『くりと』と読み方を変えたんだ」

「あの…………、えっと、ほんと、おやじ、壮大な作り話してるんじゃないよね?

おやじがお父さんじゃないなんて、

おふくろが俺を産んだ お母さんじゃないなんて……

そんなこと……今の今まで、考えたこともなかった……」


喋りながら、涙が流れてきて、鼻水も垂れてきて、なんか、こみあげてきて喋れなくなった。

俺は、ここに、そんなことを聞きに来たんじゃないのに……

どんな場所だろうと、おやじとおふくろがいるところが実家だって、そこは安らげる場所だって思っていたのに……


「奏大、ジジ様のところに会いに行こう。私や、友恵では、ゆめあやつりのことは教えてあげられない」

ふと、視線を感じて振り返ると、おふくろが、なんとも言えない悲しげな顔をして立っていた。

いつからいたのだろう。

「友恵、ジジ様に連絡してくれ。今夜お伺いしますと」

「はい。承知しました」

そう言うとおふくろは部屋から出て行った。

“はい、承知しました” 

なんて言い方 するんだ……初めて聞いた……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る