第5話 生 谷間はキビシイって~

 亜弥と付き合い始めたのは、大学に入って間もない頃。

講義に遅れて入ってきて、隣りいいですか?って声をかけられた。

「慌ててきたから、テキスト忘れてきちゃって。

見せてもらえますか?」

小柄な子。

パッチリした大きな目、その割りに小さな口。

なんとなく、リスっぽいなと思った。

「どうぞ」

と俺が言うと、ニコッとして、テキストを見る為に俺に近寄った。

ふわ~っといい匂いがした。

香水とかそんなんじゃなくて、洋服の柔軟剤の匂いなのかな。

ドラッグストアでテスターを嗅いだ時の光景が頭に浮かんだ。

フローラルブーケみたいな感じの名前だったか。

いい匂いだなぁって思ったけど、男がこんなの買ったら恥ずいかなとか思って、無香料消臭効果とか書いてある柔軟剤を買った。

なんか、その時の光景が頭に浮かんできた。

いい匂い!かわいいコだな。

そう思ったけど、話しかけることはできなかった。

自慢じゃないが、俺はほぼほぼ女子と喋ったことがない。

彼女いない歴18年だし、もちろん童貞だ。

たまたま空いてた席に座っただけなのに、名前を聞くとか名乗るとか、そんなんウザいって思われるだろう。


講義が終わり、

「ありがとうございました」

ニコッと笑い、軽くおじぎをして立ち上がり、クルッとスカートをひるがえした。

ミニのチェックのスカート。

高校の制服のようにも見えた。

「……どういたしまして……」

完全にひとり言のタイミング。

かわいいコだったな。

まぁ、話をすることは もうないな。

そう思った。



 次の日、学食の券売機の前で、そのコとバッタリ会った。

「あ、」

「あ!」

ほぼ同時に声が出た。

「昨日は、ありがとう。助かった。

あ、初めて学食きてみたんだけど、やっぱ1人じゃ敷居高いな~って躊躇してたの。

良かったら、一緒に食べてもいい?」

と、首をかしげた。

えっ??

俺、今、女子に、誘われてる?

初めてなんだけど……

「あ、どうぞ」

いや、いや、なんかもっと気の利いたセリフね~のかよ。

「単品でラーメン、うどん、カレーを食べるか、定食かで、俺はいつも定食なんだけど」

「じゃ、わたしもそうする」

千円札を券売機に入れて定食を2枚買った。

はいって 食券を渡すと、はいって 彼女は

500円玉を手渡してくれた。

いつものようにトレーを持って列に並ぶ。

肉か、魚か聞かれて、肉と答えた。

今日の肉は生姜焼きだった。

1番好きなやつ。

トレーに生姜焼きの皿がのせられ、ご飯大盛りを頼み、味噌汁をのせて、副菜コーナーへ行く。

メニューには、小鉢と書いてあるが、皿に食べたいだけ盛っていい。

キャベツの千切りを大量に盛り、ドレッシングをぶっかけた。

それと、煮物みたいなやつを盛りつけた。

いつもは1人メシだから、座る場所も困ることはなかったけど、2人で座るとなるとなかなか空いていなかった。

どうしようかなとキョロキョロしていたら、

「ここどうぞ。もう行きますから」

と目の前の席の人が立ち上がった。

「ありがとうございます」

彼女と対面で座った。

わ、俺、女子とメシ食おうとしてる~。

ちゃんと食えるかな~。

って!いつもの感じでガッツリ盛りすぎたか~?

「たくさん食べるんだね」

「えっ?」

「あ、わかんない。男子は、これくらいが普通なの?痩せてるのになって」

「たぶん、普通より食べる方だと思う」

女子と対面でメシ!!

髪を耳にかけて、ちょっとかかんでキャベツを食べている姿がウサギっぽいなと思った。

ってか!!えっ!!え~~っ!!

この角度!!すげー胸の谷間が見えるんだけどーーーー!!

マジか!!こんな至近距離で生谷間はキビシイって!!

「美味しいね~。安いし」

俺を見てニコッとした。

「あ、あ、そう。安いし。いっぱい食べれるから、俺はいつも学食なんだ」

「そうなんだね。あ、名前教えて?」

「操人奏大」

「くりと?どうゆう字なの?」

「操縦席の操、操るって字に、人で、くりと。

奏でるって字に大きいって字で、そうた」

「むっずかしいね!!私は、小西亜弥です。小さい西の亜細亜の卑弥呼の弥って字を書いて小西亜弥。楽でしょ?」

「卑弥呼の~は、ちょっとよくわからないけど、亜弥ちゃんね!!かわいい名前!」

わっ!俺、かわいいとか思ったことまんま言っちゃってる~。

「ありがと」あははと笑った。

ほんとにかわいいなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る