第二位階

 好奇心は猫を殺す。猫ではなく心が殺されることもある。

 扉を開けた俺は少しの間、動きが止まった。


「…………ぉ……ぇ」


 ……ナンダコレハ?


「……ぃ……ぉ」


 扉の中にいたのは少女であった。ただ、少女がいるだけなら別にいい。よくはないが。

 俺の脳裏でフラッシュバックする。


『ゴブリンの生態としては、メスが著しく少なく他種族(特に人間やエルフ)のメスを攫い、孕ませるそうで基本的に見つけ次第駆除する様に言われている』

『そして、今回のダンジョン騒ぎでこんなにも騒いでいるのは、最近の冒険者になったばかりの新人が失踪していることに関係している可能性があるからなんだ』


 可能性があると聞いて、俺自身も少しは心づもりをしていたつもりだったし、覚悟も決めていたんだが…………ああ、なんだ。

 気に入らない。

 今まで感じたこともないような。激しい感情のうねりが俺の中で巻き起こる。


『ーージジ』


 初めてだ。


『ーージ、ご、強欲のーー』


 母さんに斬られたときもーー


『ーー権能に抵抗ーー』


 妹と喧嘩した時だってーー


『ーージジ』


 これほど怒ったことはなかった……!

 ああ、本当に


「気に入らねぇぇえ!」


『ーー成功しました』

『保有者の強い想念を確認。想念を糧に強欲の権能が成長します。成功しました。強欲の権能が第二位階に到達しました』






「ぉ……、ぉ……」

「ッ!? あんた、大丈夫……ではないか。生きてるか? 助けに来た!」


 小部屋の中の小部屋ーー個室の中にいた少女を抱き抱える。

 ーー色々な液体がついているな。甘い匂いはこの子の体からするな。何かの薬品か? 洗い流したほうがいいな。だが、あいにく、俺もアリスも水系統の魔法は使えない……エルザの下までこの子を連れてーー


「ぃ……ぉ」

「え? どうした?」


 この子、なんか言ってるな。なんて言ってるんだ? ん? この子、どこを見て……いや、これは


「ぉ……ぉ」


 焦点があっていない。どこも見ていない。つまりはさっきからうわごとを呟いているのか。内容は、声が小さくて、よく聞こえない。口の動きから推測するか。


「…………そういえば、日本語ではなかったな。わかるわけがない」


 どうす、あ! 剣気で耳強化してみるか! もはや剣、関係ないがきっとできるはずだ!

 俺は慣れないながらも剣気で耳を強化してみる。すると、成功したみたいで先ほどよりも音が良く聞こえるようになった。自分の心臓の音どころか少女の心音までわかる。その微弱さが。手にとるようにわかる。やはり、ここにいるのはこの少女だけではないようで、あと3人ほどの心音が聞こえる。全員、かなり衰弱しいているようで呼吸も……て、なんて言ってるか聞くために強化したんだよ。なんて言ってるんだ。


「こぉしぇ」

「ーーっ」


 こぉしぇ、『殺して』、か……

 他の3人も似たようなうわごとを発している。


「…………」







『人間を殺害しました。略奪を開始します』

『略奪しました。職業『シーフ』、職業スキル《敏捷強化》《気配察知》《気配遮断》、スキル《短剣術1》《気配遮断1》《忍び足1》《精神汚染耐性2》《毒耐性1》を獲得しました』


『人間を殺害しました。略奪を開始します』

『略奪しました。職業『魔法使い』、職業スキル《魔力強化》《魔力操作》《属性魔法》、スキル《水属性魔法1》《魔力操作1》《精神汚染耐性2》《毒耐性1》を獲得しました』


『獣人を殺害しました。略奪を開始します』

『略奪しました。職業『獣戦士』、職業スキル《敏捷強化》《筋力強化》、スキル《体術2》《気配察知1》《精神汚染耐性3》《毒耐性1》《気絶耐性1》を獲得しました』


『人間を殺害しました。略奪を開始します』

『略奪しました。職業『剣士』、職業スキル《筋力強化》、スキル《剣術1》《盾術1》《苦痛耐性1》《精神汚染耐性2》《毒耐性1》を獲得しました』


 獲得したスキルから大体のことがわかる。あまり嬉しくもないが有効活用させてもらう。

 仇は必ず取ろう。だから、安らかに死ぬといい。






《生物を殺害しました。魂の回収を始めます。成功しました。人間の魂を糧に強欲の権能が成長します。神器との繋がりが拡張されました》



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