剣気があればなんでも……はできないね。うん
俺たちが飛ばされた小部屋の一つ隣の扉から大柄なゴブリンと少し大きなゴブリンが出てくる。
「ゴブ」
「ゴブブ」
一瞬肝を冷やしたが気配遮断が効いているようで気づいた様子はない。二体のゴブリンは俺のいる方とは逆、つまりは左に向かう。
「ゴブブゴブゴブブ(あいつらに餌を早くやる)」
「ゴブブゴブ(なんで、俺が)」
ん? 餌……なにか飼ってるのか? こんなところで?
ふと、嫌な予感がした俺は二体のゴブリンの後をつける。といっても、同じ階の一室なので大して離れていないが。
ゴブリンたちはとある扉の前で止まる。
「ゴブゴブブ(俺は餌をとってくる)」
「ゴブ(わかった、先、行く)」
一体のゴブリンーーゴブリンAとしようか、ゴブリンAは一人さらに奥の部屋に向かっていった。もう一体のゴブリンーーゴブリンBは扉を開けて、中に入っていった。
ゴブリンBが扉を開けっ放しにしてくれたおかげでバレずに入ることに成功した。
なんだ!? この異臭は!?
「うっ……」
「ゴブ(ん)?」
ヤベ……!
部屋の中の異臭に思わず声を漏らしてしまった。
「ゴブ(だれだ)!?」
「ーーチッ」
どうやら気配遮断の効果が切れてしまったようでゴブリンBに気づかれてしまった。
ゴブリンBは突然現れた俺に驚いたようで動きが一瞬止まる。その一瞬の隙を逃さずに腰に差した剣で居合い気味に首を刎ね飛ばーーすために振った剣はすんでのところで避けられてしまう。しかしーー
「ゴブゥ!?」
右手を斬り落とした。だが、ゴブリンも咄嗟に身を引き、いくらか距離が生まれてしまった。
クソ!? こいつ反応いいな! 上位種か! アサシンの時は死にかけたからな……だが!
「前と違って、剣気を使ってる」
剣気ーーそう言ってはいるがようは気、人間の生命エネルギーのようなもので、出雲一刀流を修めるためには必要不可欠な要素なのである。無論、生命エネルギーともいうだけあって、誰でもそれこそ動物だって持っている。出雲一刀流において重要なのはこの剣気を操る技術なのである。剣気は操り、身体の隅々まで満ち渡らせるだけでも全ての身体能力が格段に上がり、人外クラスの戦闘能力を得る。出雲一刀流では技ーー剣技がこの剣気を使うことを前提に作られている。なので、剣技の型だけを覚えても特に意味はない。俺の友達の土川は、剣気を扱う才能が絶望的だったため、出雲一刀流を修めるには至らなかったんだよなぁ……最初の頃は一緒に稽古したっけな。
この剣気を使えば大抵のことはなんとかなる……前言撤回、母にはなす術なかった。剣気使ってるやつよりも素の身体能力で勝ってるって……
まあ、最近は動転しすぎて使うの忘れてることの方が多かったけど。
さて、パパッと終わらせるか。
「シッ」
『ゴブリンナイトを殺害しました。略奪を開始します』
『略奪しました。種族『ゴブリンナイト』、種族スキル《生命力増大》《耐久強化》、スキル《剣術4》《盾術3》《体術4》《棒術2》《苦痛耐性3》を獲得しました』
直後、ゴブリンの首は地に伏した。
やったのは単純明快、まず、地面を蹴って、距離を詰めて弍の型瞬撃を以って首を刎ねた。以上である。というか、スキルに剣とかあるのに丸腰だったな……
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