忘れ去られた暴食のダンジョン

「僕らと他のパーティがダンジョンに侵入する。みんな準備はいい?」

「「ああ」」「「ええ」」「はい」

「じゃあ、出発だ」


 ついに、ダンジョンに入る時が来た。

 みんな、森での異変(魔物の急減少(誰のせいだろうね))もあって警戒の面持ちである。

 俺たちがまずダンジョンに入り、残りのパーティが時間差で入る流れである。レオ、ディーネ、俺、シンハ、エルザ、アリスの順番でダンジョンに入っていく。まあ、と言っても、見た目はすごい舗装されてるけどただの洞窟なのだが……

 そんなことを考えながら、ダンジョンに足を踏み入れた瞬間であった。


《強欲の権能が暴食の権能の残滓を感知しました》

《忘れ去られた暴食のダンジョンに侵入しました》


「え?」

「どうしたの?」

「あ、いや、すまない。なんでもない」


 怪訝な顔つきをしているレオをさておいて、今の声はなんだったのだろうか。まるで何も理解できなかったが、忘れ去られた暴食のダンジョン……強欲の権能……どういう意味なんだ?

 そんなことを考えながら、ダンジョンを進んでいた時であった。ちょうど、通路の分岐(左右に分かれている)で曲がり角の先を覗いていたレオが左手を挙げた。これは、ダンジョンに入る前に決めたジェスチャーであり、敵がいたことを示す。


「数は2、普通のゴブリンだと思う。ちょっと、先に行って殺してくる」


 と、言うや否やレオは、曲がり角の先に走っていた。

 数秒後には、無傷のレオが戻ってきた。


「もう大丈夫。わかる範囲には敵はいないよ。右と左どっちに行く?」


 ふむ、ここまで一本道で特に何か目を引くものもなく、なぜか舗装されていてレンガ造りのさも迷宮みたいな作りをしてる癖にその構造は今ところ途轍もなくシンプルなものである。まあ、最初から複雑怪奇なわけはないか……


「右でいいんじゃない?」

「ま、全然わからないし、右に沿って行こうか。後列に右に行ったことがわかるように……よし」


 どうやら、道も決まったようで俺たちは歩みを再開する。後列に対してわかるように剣で壁に印をつけて、先に進む。

 それから、しばらく進んだところに小部屋があった。


「小部屋だね」

「小部屋だな」

「小部屋だな。どうする?」


 レオは俺の問いに少し考える素振りを見せる。

「一応、見ておこうか。まず、ディーネが入ってくれ。その後、僕とリョウくん、シンハたちはその後に入ってきてくれ」


 各々が肯定の返事をしたのを確認したレオは、ディーネに入るように促す。ディーネは小部屋の扉に手をかけ開け放つと同時に盾を構える。


「む?」


 俺とレオが入ったタイミングでディーネが声をあげる。小部屋には何もなかった。と言うか狭いな。


「何も……ないな」

「みたいだね。罠があるかもしれないから気をつけてね。みんな、入ってきてもいいけど狭いから気をつけて」


 レオが言うように本当に狭い。パーティ全員入ったら窮屈に感じる程度の狭さで現にいま、入ってるのは俺、アリスだけである。レオたちは早々に何もないと判断し、外に出て行った。アリスはダンジョンそのものに興味があるらしく、あたりを見回している。俺はと言うとなにかこの小部屋に既視感があり、少しあたりを見回している。しかし、一通りあたりを見たが特に何もなく、もう、小部屋から出ようとした時であった。


「何かしらこれ?」

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