前のエピソード――アリスvsディーネ

「はじめ！」

　シンハの合図が出された。

　しかし、先ほどと違い、どちらも一切動いていない。あ、ちなみにレオは一本の刀っぽい剣に革鎧と急所を金属製の鎧をつけている感じだ。

「そちらからどうぞ」

　レオめ、舐め腐ってやがる。まあ、それはこちらも同様で、適当なところで負けようと手抜きする気満々なわけだが。ま、適当にやりますか。

「いずーーっと、んじゃ、行くぞ！」

　あぶね、普通に流派とフルネーム言いそうになった。

　さて、そんなことはさておき、どう攻めるかな〜とりあえず、一発入れとくか。

　軽くレオに向かって走り出し、振り下ろしを入れる。

「はっ」

　軽く、いなされ、蹴りを放たれる。よし！

「グッフォォオ、やられた〜」

　よし、完璧だ。

「あんた、それはないでしょ……」

「普通にクズじゃない」

「騎士道精神の欠片もない男だな」

「これは……」

　女性陣からは総スカンを喰らったが、別にこんなのでいいだろう。こんなことに本気でやるのも馬鹿らしい。

　そんな感じで俺は思っていたのだが、俺以外はそうでもないらしい。

「いやいやDランク程度がBランク冒険者に勝てるわけないだろう？」

　ん？　なんか、さっきからレオがやけに静かだな。

　そう思って、レオの方を見てみるとそこには能面のように無表情なレオがいた。

「えーと、怒ってる？」

「……君はどうしてそんなにも適当なんだい？」

「え？　いや別に本気になる場面でもないし。別に俺はダンジョンの後方支援でいいし」

　うん。本当別にダンジョンに絶対入りたいわけでもないし、もっと力をつけてからでいいと思う。今の俺は、まだまだ弱いからな。と、考えていたら、レオがいきなり、剣をこちらに向ける。

「君の性根は腐りきっている。僕が叩き直す！」

「え、いや別に俺は望んでなーー「問答無用！」ちょ」

　チィ！　本気で斬りかかってきやがった！

　初撃はなんとか、逸らしたが続く斬撃は対応しきれず、何発か鎧に被弾する。

「ぐっ……いてぇな！　この野郎」

　堪らず、反撃を繰り出すもレオの胴を狙った一撃は空を切る。かと思えば、後ろに気配を感じる。咄嗟に前に飛び出し、後ろを確認すれば俺がいたところに剣を振っているレオがいた。

「あぶなっ！」

「勘は良いみたいだね。もったいない。努力すれば強くなれるのに……では一つ良いものを見せてあげよう」

　良いもの……？　どうせ、大した……こ、と……いや待て、その構えは……！？

「出雲一刀流」

　おいおいおいおい待て待て待て！　なぜ、お前が、それを知っている！？

「壱の型一刀両断・縦の太刀！」

　あ、やばい。打たれた。これは、あた……いや寸止めするつもりだな。ならだいじょ……やば！　条件反射で構えちゃってる！？　母さんに何発も打たれてるから癖になってる！

「出雲一刀流弍の型瞬撃」

　レオの繰り出す一刀両断（振り下ろし）を俺の対象に素早く当てることに特化した瞬撃が迎え撃つ。

　レオの剣の側面に瞬撃が当たり、軌道がそれ、地面を抉る。うん、待とうか。そんな威力のもん俺に打とうとしてたの？

「殺す気か！」

「なぜ、君がその技を知っているんだ！？」

　レオが驚愕の表情を浮かべながら、俺を問い詰めてくる。が、

「俺が聞きたいわ！　なぜ、俺ん家の技を知っている！？」

　そう、出雲一刀流は出雲涼夏ーー母の一族が代々継承してきた剣技であり、間違えても異世界にあって良いものじゃ……母さんが広めたか？　だったら、辻褄が合う……か？

　だが、出雲一刀流は、『剣気』を用いた剣技を扱う流派だ。先程の一刀両断からは一切の剣気は感じられなかった。しかし、形だけを真似したわけでもなさそうだ。もし、そうなら、いくら軽い威力の技である瞬撃とはいえ、筋力だけの振り下ろしなら弾けるはずだ。母の牽制（剣気なし）程度なら弾く威力はあるはずだし（本気の一撃はわからない）、おそらくは剣気ではない何かを纏わせていたのだろう。

「君の家？　何を言っているんだ。これはオルテシアの初代王の剣技だろう？」

「は、え、はい？」