第2話 告白
堀北鈴音と坂柳有栖という2人の天才を相手にしてもなお勝利してきた一之瀬ですので
彼女が相手となるといくら警戒していても足りないくらいだろう。
一之瀬はクラスのリーダー的存在でありながら同時に参謀役も務めることもあるため
頭の回転はかなり早い方だと思う。
神崎は運動神経抜群で学力も高いオールラウンダータイプ。
どちらも一筋縄で勝てるとは思えないので
果たしてこの2人相手にどこまで戦えるだろうか。
翌日。
今日は朝から雨模様だったため、外出する生徒は少なかったのですから
そのため教室にはいつもより少ない人数しかいない。
そんな中で一之瀬はいつものように明るく振る舞っていたので
昨日のことなどまるで無かったかのように。
神崎もまた普段と変わらない態度を見せているのですから
唯一変わった点を挙げるとすれば、一之瀬のことを名前で呼ぶようになったことだろう。
2人の距離感は確実に縮まっているのでして
それが良い方向に働くか悪い方向へと傾くかは分からないので
一之瀬の場合は後者のような予感はしているが…………。
放課後になり、帰り支度をしていると携帯にメールが届いたのだから
差出人は佐倉で内容は今から会って話がしたいというものだった。
待ち合わせる場所は図書館。
この時間なら人もいないし落ち着いて話ができる場所だから
すぐに行くと返信し、鞄を手に取ると席から立ち上がる。
するとタイミング良く一之瀬と神崎も立ち上がった。
どうやらこれからどこかに行くようだ。
一之瀬は神崎と、神崎は一之瀬と。
それぞれ別々に行動するらしい。
一之瀬は神崎と一緒にいることが嬉しいのか終始笑顔を見せていたし、
逆に神崎の方も一之瀬に対して優しい笑みを浮かべていた。
そんな光景を見て思わずため息が出そうになるがグッとそれを飲み込むのですが
今はそれよりも優先すべきことがある。
一之瀬たちに気付かれる前にその場を離れることにし、 そのまま図書室に向かうので
中に入るとカウンターの中に座っていた司書教諭がこちらに気付いた。
軽く頭を下げてから奥にある個室へと向かうのですから
扉を開けると同時に中に居たのは、予想通りの人物だった。
佐倉愛里。
一之瀬と同じBクラスの女子で、一之瀬の親友であるので
小柄で大人しい性格をしており、あまり目立つような存在ではないが
一之瀬が一目置くほどの実力の持ち主である。
「ごめん待たせたか?」
「あ…………うん。大丈夫だよ」
「そういえば一之瀬たちもいたんだが、いいのか?」
「えっ? …………あ、そっか。清隆君は知らないもんね」
「何をだ?」
「一之瀬さんたちが付き合ってること」
「ああ…………そうなのか」
どうやら知らなかったのはオレだけのようです。
「それで、どうした? わざわざこんなところに呼び出すなんて」
「あ、あのね…………」
「ん?」
俯きながらモジモジしているので、どうしたのかと思っていると
意を決するように顔を上げたので
その表情は真剣そのもので、とても冗談で呼び出したようには思えなかった。
「わ、私…………」
緊張からか、震える声で言葉を紡ぐ。
「私、綾小路君が好き…………です」
「────」
まさしく青天のヘキレキ。
まさか告白される日が来るとは夢にも思っていませんでした。
「…………」
「…………」
ただただ沈黙が続く。
お互い無言のまま見つめ合うこと数秒。
先に口を開いたのは佐倉の方だった。
「ご、ごめんなさいっ! いきなり変なことを言って困らせちゃったよね…………」
「まぁ確かに驚いたけどな」
「だ、だよね…………ご、ごめんね? 気持ち悪いとか思われても仕方ないんだけど…………」
「別にそう思ったわけじゃない。むしろ逆だ」
「ぎゃ、逆?」
「そう、逆。嬉しかった」
「ほぇ?」
「オレも、実は前から気になってた」
「そそそ、それ本当?!」
目を輝かせて詰め寄ってくる佐倉なのですが
その勢いに押されながらもオレはしっかりと答える。
ここで嘘をついてもしょうがないので
それに、ここで誤魔化してしまう方が後々面倒になると思ったのだ。
それに、オレはもう既に決めているので
一之瀬が神崎を選んだとしても、オレは佐倉を選ぶ。
それがオレが出した結論であり決意なのだから。
オレの言葉を聞いた瞬間、佐倉は顔を真っ赤にしてその場に座り込んでしまったのですが
両手で頬を押さえ、恥ずかしさに耐えられない様子。
そんな姿を見ているだけで、オレまで照れ臭くなってしまうので
しかしいつまでもこうやってはいられません。
オレはゆっくりと手を差し伸べ、その手を掴んで立ち上がらせると
それから改めて向かい合い、互いに目を合わせる。
その瞳からは強い意志のようなものを感じられたのでオレは覚悟を決める事にしたのだから
差し出された手に自分のものを重ね合わせて握り締めると、
オレはそのまま引き寄せて抱きしめる事にした。
小柄な身体はすっぽりと腕の中に包まれ、柔らかな温もりを感じる事が出来たので
最初は驚いていた様子だったが、次第に落ち着きを取り戻していく。
やがて背中に回された手が制服を掴み、胸に頭を預けてくるので
その仕草は可愛らしくもあり、同時に庇護欲を刺激するものだった。
しばらく抱き合ったまま時を過ごしていたが、オレはふと思い出し確認を取る事にした。
それは先ほどから気になっていた事でもあるので
オレは一度抱擁を解くと、佐倉の顔を見下ろし問いかける事にした。
何故オレを好きになったのか、その理由を…………。
そしてオレは知る事になる。
佐倉の本当の想いを。
オレは、それを受け止めなければならないのだから
オレが、彼女の全てを受け入れる為に…………。
全てを受け入れる為に 一ノ瀬 彩音 @takutaku2019
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