4 慈悲深き、死と眠りの神

【一週間前──〈ホテル・エスタンシア〉VIPエリア 〈月の裏側〉作戦会議室、通称〈ミーティング・ルーム〉】

「〈ヒュプノス〉についてわからんことはいろいろあるが……まず一つ。奴が手にかけたのは各国の要人クラスもごろごろいるってのに、何だって今日も呑気に暗殺稼業へ精出してられるんだ?」

「〈ヒュプノス〉が本当に個人なのか、という前提から疑う必要があるわね」チョコレートをばりばり噛み砕きながら疑問を口にする崇に、ポテトチップスをのんびりと口に運びながら夏姫が答える。「組織名かも」

「だとしたらなおさら納得行かねえ。『国家に仇なす不逞の輩』なんてほっとくほどお上は甘くねえ。特殊部隊の殺し屋を送りつけてそれで終わりだろうが。……おい、龍一もテシクも遠慮しないで食っていいんだぞ。どうせなくなったらまた補充するんだからな」

「そうよ。龍一だって食べ盛りなんでしょ? 私ばっかりお菓子食べてたら、『楚々としたお嬢様』という私のイメージが崩れちゃうじゃない」

「そんなこと思ったこともなかったが」

 足を蹴られた。

「お菓子を食うなとは言わん。何時間も続くミーティングに気分転換は必要だからな」憮然としてテシク。彼も龍一と同様、お菓子には口一つつけていない。「何だってチョコレートの中でもナッツ入りの奴ばっかり先に食っちまうんだ?」

「は? お前への嫌がらせに決まってるだろ」

「どうやら本当に尻の穴へナッツをぶち込まれたいようだな……」

「おいおい、やめろよ俺の尻の穴に金玉ナッツなんて。どうせならもっとマシなもんぶち込んでくれよ」

「ええと、それで、テシクさんは〈ヒュプノス〉が組織でもないって思ってるんだって? それはどうしてだ?」テシクが本当に顔つきになってきたので龍一は話を無理やり変えさせる。

「まず、俺はラスヴェートから提供された資料を分析した。これは〈ヒュプノス〉によるものと目された事件の中でも、信頼性の低い──つまりは暗殺とは無関係の単なる偶発的な殺人事件だったり、後に逮捕された犯人が『自分こそが〈ヒュプノス〉だ』と名乗っただけのだったり、といった例を極力省いた案件のみを集めたものだ。それを精査してはみたが、各暗殺の被害者間に関連性は一切、なかった」

 ポテトチップスをせっせと口に運びながら、夏姫は首を傾げる。「それだけじゃ『〈ヒュプノス〉組織説』に異を唱える材料としては薄いわね。他に何かあるの?」

「被害者だけでなく、被害者の周辺──セキュリティ関連人物にも怪しい点は一切なかった。買収や脅迫その他の手段で警備状況に穴が空いた形跡はなく、映像記録は全て消されていた」

「にも関わらず人が死んだ、と」

「そうだ。そして、もっと奇っ怪なことがある。これだ」

 テシクは写真の束を投げ出す。ポテトチップスをまた一枚口に運ぼうとしていた夏姫が硬直する。「何、これ……?」

「被害者の検死写真だ。愉快なもんじゃないだろうが見ろ。何か気づかないか?」

 テーブルの上の写真は全て、老若男女、様々な国の人間の死相だった。撲殺、刺殺、絞殺、溺殺、感電死。多彩な死が映っていながら、

「確かに……何か変だ」

「殺された人間の顔とは思えないだろ? 死に面した時、人は激しく抵抗する。それはそうだ。死にたくないんだからな。だがこれは……」

「……まるで眠っているみたいね」

「もっと重大な点がある。これらの死の中に、爆殺も銃殺も毒殺もないことだ。犯人は彼ら彼女らの吐息を感じられるところまで接近し、苦痛一つ感じさせることなく殺害し、あらゆるセキュリティに感知されることなく姿を消している」

 崇がその意味に気づいて唸る。「じゃこいつらは、少なくともこいつらの何人かは、〈ヒュプノス〉のツラを拝んでるってわけか」

「怪談じみた話になってきたな……」龍一は呟きながら、あの日会った青年、べたべたに甘い缶コーヒーを旨そうに飲んでいた彼の言葉を思い出す。──苦痛なき、眠るがごとき死を。

「だったら、俺たちが戦おうとしているのはなんだ……?」


【現在──AM12:00 みまな臨海水族館1F マリンシアター】

 大音量で鳴り響く『Paint it,Black』の中、相良龍一は突進する。立ち尽くす高塔百合子の傍らを一瞬で駆け抜ける──彼女の視線を引きずりながら。

 狙うのはいつだって群れの主──戦闘集団のリーダーだ。パワーアシスト機能に物を言わせ、ホルスターから拳銃を引き抜こうとしていたリーダーを全力で背後の水槽に叩きつける。肘の放電スパイクをボディアーマーの隙間にねじ込み、同時に内蔵スイッチで放電。

 ばちばちっ、と全身の電極板からアーク状の放電光がほとばしる。リーダーの全身が痙攣する。

 龍一の動きは止まらない。早くも兵士たちが反撃しようと動いている。銃床で殴りかかってくるのを避け、水槽の表面を駆け上がる。ロープを掴んでさらに上昇し、遥か高みから真下の兵士たちのヘルメット目がけて急降下した。

 首根っこを掴んでから放り投げ、身を沈めて足払い、さらに顔面を鷲掴みにして放電。

 背後で殺気が膨れ上がる。リーダーが痺れた全身をわななかせながら拳銃を向けている。電撃を喰らっていながら大した精神力だ。身を捻りながらトンファーを一閃。撃った相手に弾き返すとまではいかなかったが、弾丸はあらぬ方向に逸れた。

「龍一さん!」

 百合子へ返事をする余裕はない。リーダーの手から拳銃を蹴り飛ばし、トンファーの先端で頬を張り飛ばす。血と唾液と折れた歯が飛んだ。倍近く腫れ上がった顔で、リーダーはそれでも凄絶な笑みを浮かべる。

「殺せ……先に言っておくが、俺が黒幕の名を知っているとでも思っているのか? 依頼は代理人プロキシを通してだ。そいつだって誰かの代理人なのかどうかもわからん」

「おめでたいのはどっちだ? 吐くのは黒幕だけだと思ってるのか? 吐いてもらうに決まってるだろうが」

 龍一がリーダーを睨みつけた瞬間、マリンシアターが──いや、水族館全体が鳴動した。


【同時刻 同3F 警備室】

 撃った銃弾はことごとく避けられた。のだ──デスクと椅子と、さらには寸断された死体の手足がごろごろする大して広くもない室内でだ。信じられない。そんなたわけた芸当は龍一だけだと思っていたのに。

「動かないでください。あなたに無駄な恐怖と苦痛を与えることが私の本意ではありません」

 静かな声とともに、神速で刃が振り下ろされた。とっさに避けようとするが、足元の血溜まりで足を滑らせてしまう。だが結果的にそれが崇の命を救った。刃は空を切り、崇は血と臓物の海の中でもんどり打つことになった。猛烈に気持ち悪い。

「てめえ! 何なんだよ……」叫びながら撃った銃弾はまたも躱された。もちろん銃弾が見えているわけではないのだろう。銃口の向き、崇の視線、そしてトリガーにかけた指の動きから銃弾の発射タイミングを読んであらかじめ当たらない位置に移動しているだけ。問題は、手品の種がわかってもどうしようもないことだ。

 あの鼈甲眼鏡の向こうから、茫洋とした、どこを見ているかわからない視線が崇に注がれる。「あなたの死神です」

「聞いてねえんだよ!」力一杯ルーズリーフを投げつける。

 刃が音もなく一閃した。空中でルーズリーフを両断しただけでなく、

「が……」

 ひゅん、という風切り音は一瞬遅れてから響いた。簡易戦闘服の胸が斜めに切り裂かれ、思い出したように血が滴り落ちる。

「てめえ……」崇は傷口を掌で押さえつける。もちろん、その程度で止まる量ではない。

 サラリーマンは静かにサーベルの切っ先を持ち上げる。「首を差し出しなさい。一瞬で、苦痛もなく命を絶つと約束いたします。〈ヒュプノス〉の名にかけて」

 鮮血に濡れた刃が、崇には死神の鎌に見え始めた。


【AM12:05 同1F マリンシアター】

 恐ろしい眺めだった。ガラスの向こう、巨大な水槽の下部で排水口が開き、階段状のホールに向けて何百万トンもの膨大な海水がどっと溢れ出つつあるのだ。水槽の中の魚たちが怯えたように散り、蟹たちは怖がって人工の岩陰に隠れようとする。

「どうなってるんだ! 水族館にこんな忍者屋敷みたいな仕掛け必要なのか!?」

 手近の飼育員に聞いてみたが、とんでもないという形相で首を横に振られた。「あ、ありえません……安全基準を考えたら絶対に許可が降りませんよ。第一、必要がない……」

 だろうな、と内心思いながら百合子に向き直る。「この人たちを連れて避難してください。今なら外に出られます」まだ見ぬ〈ヒュプノス〉の存在も気になるが、今はどうしようもない。

「わかりました。皆さん、こちらです!」

 百合子に人質たちの先導を任せ、さてこいつらを溺れさせるわけにもいかないな、と拘束バンドで縛り上げたリーダーたちの方へ向き直ろうとする。しまった、さすがに俺一人じゃ移動させられないじゃないか。

「夏姫、百合子さんは無事外に出た。夏姫……夏姫?」

 おかしいな、と思った。イヤホンからは雑音しか聞こえてこない。崇やテシクも呼び出してみたが、やはり繋がらない。シアター内だから電波が届きにくいのだろうか?

 振り返って、何かを感じた。

 全て百合子に導かれて避難したと思っていた飼育員が一人、そこに残っていた。おかしな話だ──龍一が背後に誰かが立った気配を感じ取れないことなど、滅多になかったのに。

「あなたも急いで外へ……」言おうとして違和感はさらに高まった。水槽から轟々と溢れ出し、床に溜まった水の深さは既に1センチを越えようとしている。一歩踏み出したその足取りは、床の水に漣一つ立てなかった。


「君は……誰だ……?」


 生涯でもそう何度もあるかどうか、という驚愕が龍一を捉えた。

 そこに立っていたのは初めて見る顔だった──痩せた、気の弱そうな青年。だがもう一度目を凝らしてよく見れば、それはあの青年、〈ヒュプノス〉を名乗ったあの陽気な青年の顔なのだった。

「その顔。君の、今のその顔が見たかったよ」彼が上げた朗らかな、朗らかすぎる笑い声は、もうあの青年のそれにしか思えなかった。

 青年の両手指がたわみ、次の瞬間、指揮者がタクトを振るように力強くしなやかに突き出された。

 まるで目に見えない刃が振り下ろされたように。

 腕が飛んだ。足が飛んだ。そして首が落ちた。

 その手の一振りで、床に臥してもがいていたリーダーをはじめ、襲撃チームの全員が身体各部のパーツごとに分断された。


──時が来たよ、相良龍一。苦痛なき、眠るがごとき死を……君に手渡す時が来た」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 テシクは目を開けたが、すぐにこれは夢だな、と気づいた。目の前に立っていたのはたった今テシクが死闘の末に殺したあの女で、胸に開いた大穴どころか、全身に血の染み一つなかった。

「これは夢か?」

「そうだ。だが馬鹿にしたものでもないぞ」穏やかな微笑すら浮かべている彼女からは、敵意も悪意も感じなかった。「私とお前はたった今、同じ夢を見ているからな──さらに言えばこれは私が消える一瞬の幻、残留思念のようなものだ」

「じゃあ、お前が死んでいることには変わりはないのか」

「厳密な死ではない。説明が難しいが……仲間の元へ戻るだけだ。『私』という個体は消え去るから、死には違いないと言われれば確かにそうだが」

「……俺を恨んでいないのか」

「なぜだ?」女は心底不思議そうな顔をした。「私はお前を本気で殺そうとし、お前は渾身の力で私に立ち向かい、結果私が敗れた。どこに恨む要素がある?」

 明晰夢とは言えどこまで正気なのだろう。殺した相手と会話し、おまけに慰められたのは生まれて初めてだ、とテシクは思った。

「時間は限られているが、聞きたいことがあるなら聞こう。何を聞きたい?」

「そうだな……まず、お前たちは何だ? もう『ただの殺し屋だ』という言い訳は通用しないぞ」

「今のお前になら理解できるだろう。私たちは全にして個、個にして全であり、〈ヒュプノス〉とはその群体クラスタに対して付けられたコードネームだ」

「単なる思想集団ではないんだな?」

「思想を同じくする点では間違っていないが、重要なのはそこではない。人の脳にのみ寄生する粘菌であり、それが形作るネットワークだ」

「粘菌だと……? 俺たちは粘菌に寄生された人間と殺し合っていたのか?」

「サバンナで人間のハンターに射殺されたオリックスもそう言うだろうな。俺たちは毛無し猿に火を吹く棍棒で殺されたのか、と」

「まぜっ返すんじゃない」こいつが本当に人間なのか粘菌なのかはともかく、理屈っぽい奴だとは思った。

「かつて私たちの『母体』たる粘菌は、宇宙からの飛来物を調査していた研究機関によって発見された。この粘菌には非常に興味深い特性があった。寄生した相手の記憶や能力を保存し、なおかつ他者に移し換えるという特性だ」

「そんなものが……!?」

「そう、お前にならその重要さが理解できるだろう。軍事利用できればその価値は計り知れないからな」

 銃一つ撃てるようになるまで何千と何万と反復練習を必要とするのが人間だ。応用に成功すれば、軍事にとどまらない無限の可能性が拓けるのは間違いない。

「だが、この粘菌を人工的に培養するための試みはことごとく頓挫した。粘菌を移植された被験者も脳を浸食され、生き永らえた者は皆無だった。破綻しかけたプロジェクトを救った研究者は……我々から見ても相当な変わり者でな。、と言うのが彼の主張だった。当然、真に受ける者はいなかった」

「……そりゃ相当だな」宇宙から来た粘菌に変わり者扱いされるのだから、さぞ一筋縄ではいかない人物だったのだろう。

「『生きる目的』と呼ぶと説教臭いが……要するにこの粘菌を人為的に利用するためには粘菌が持つ方向性を定めてやる必要がある、と彼は言いたかったらしい。素晴らしいレシピをやる気のない料理人の元に持ち込んでも生ゴミの山が出来上がるだけだと」

「理屈自体は通っているな。それで?」

「粘菌の持つ特性と、被験者自身の特性。それを上手く一致させることはできないものか──熟考の末に研究者が選んだのは、死刑囚のだった」

 明晰夢の中で、テシクの心臓が高鳴った。何かが……見えてきたように思う。

「その被験者に選ばれた死刑囚は、死にかけていた。現代の医学では治療できない難病でな。何百人もの標的を自分の手で屠り、計画により何千もの標的を間接的に殺した。司法機関のみならず多くの犯罪組織から命を狙われながらもことごとく追跡をかいくぐったが──結局、病が進行して動けなくなったところを捕らえられた」

「選択肢はなかっただろうな……」

「だが、その死刑囚が恐れているのは死ではなかった」女はどこか遠い目で、厳かに言った。「自らが蓄え続けてきた経験と、血のにじむ、いや血のほとばしるような努力の末に会得した殺しの技術が失われることを恐れた。むしろ、逆に、経験と技術さえこの世に残すことができれば自分は永遠に生きることになると考えたのだ」

「……まさか」

「そうだ。実験は成功した。いや、成功しすぎた。死刑囚は助からなかったが、彼の願いは叶った。研究者の一人に密かに寄生することで、施設からの脱出に成功したのだ」

 それが〈ヒュプノス〉の勃興なのか。

「この暗殺者もおかしな哲学の持ち主でな……撲殺なり絞殺なり刺殺なり、とにかく徒手での殺害にこだわっていた。人が人を死に至らしめる以上、殺す者には殺される者の恐怖と苦痛を最小限に抑える必要があるとな。銃や爆弾は全く使わなかった──必要に迫られても使わなかった。と。とも言っていたな。トリガーを引いてから弾が発射され着弾して人の身体を穿ち死に至らしめる、そのタイムラグに耐え切れなかったそうだ」

 プロ意識の死刑執行人と安楽死思想のグロテスクな融合。最悪のマリアージュだと思った。

「俺の故郷の言葉を知っていたのはどうしてだ?」

「世界中に散った〈ヒュプノス〉の数は多い。中には自分が〈ヒュプノス〉であることを知らずに一生を終える者もいる。そして死後、彼ら彼女らの記憶は全ての〈ヒュプノス〉に還元、共有される。同郷とはいえ生涯、お前という人間の存在すら知ることのないままこの世を去った者がいた。なかなか気の利いた言い回しだったので使ってみただけだ──ああも効果覿面とは思わなかったが」

 女はくすくすと笑う。もしかしたら現実の自分は苦い顔をしているのだろうか。

「今までの話、どこまで信じればいい? お前が俺の脳が作り出した幻覚ではない保証は?」

「ない」女は言い切る。「私は私の信ずるものを語っただけであり、お前がそれを信じるかどうかも自由だ」

 女が不意に顔を上げた。同時に、テシクも何かを感じ取った──自分の肉体が覚醒しかけているのだ。

「時間切れだ。もっと話したいことはあったが、仕方がない。もしかしたら……もしかすると、いつの日かお前たちと肩を並べて戦う日が来るかも知れないな」

「冗談も休み休み言え。御当主の寝首を掻こうとしたお前たちをどうやって信用できる?」

「どうかな? 案外、その日はそれほど遠くないかも知れないぞ。何なら当の『御当主』にあれこれ聞いてみたらどうだ? 彼女ならお前たちより遥かに多くのことを知っているだろうな。たとえば、件の研究機関の出資元は、高塔宗玄……彼女の祖父だ」

「何だと……!」

「さよならは言わない。またどこかで会おう、私を殺した男」

「待て……」

 女がかき消える。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【同時刻 同3F バックヤード】

 実時間はほんの一瞬だったのかも知れない。息もできないほどの痛みが全身を襲い、テシクは声も上げられずのたうち回った。無我夢中で手を伸ばし、鎮痛剤のアンプルを掴む。躊躇せず太腿に撃ち、薬剤が血の中を流れるまで耐えた。

 ようやく息ができるようになった。痛みはまだあるが、堪えられる程度には治まった。いっそもう一度気絶したかったが、それがかなわぬ望みであることはわかっていた。

 手摺りを頼りにどうにか立ち上がる。まだやるべきことが残っている。

「龍一……」


【同時刻 同3F 警備室】

 胸を伝い落ちる血が止まらない。左手で傷口を押さえながら、右手だけでサラリーマンに向けて数発撃つ。大半が外れ、必中圏内の弾丸まで躱された。護身用の域を出ない小型拳銃の弾丸は瞬く間に尽きた。

「そろそろ諦めてはいただけませんか。そのように動かれると、さしもの私も狙いが狂う可能性は否めない」

 小憎らしいほど落ち着いた口調のサラリーマンとは対照的に、崇は早くも息が上がりかけている。「ざけんな……誰が大人しく殺されるかよ」

 サラリーマンはわずかに首を傾けた。本気で困惑しているような仕草だった。「なぜ逃げ回るのです? 痛みは一瞬です」

 崇は周囲に散らばる兵士たちの胴体と手足を見た。見ざるをえなかった。「こいつらが恐怖も苦痛もなしに一瞬でくたばったとは思えんがな」

「死んだことのある者はいません。故に、人は殊更に死を恐れるのです。一度受け入れてさえしまえば、死はむしろ安らぎであり甘美でさえあります」

「イカれた宗教家のたわごとみたいなことほざきやがって……」

「神も宗教も無関係です。〈ヒュプノス〉は現世に存在する救いです」

 まるで人の皮をかぶった異星人と話しているような気分だった。言葉は通じているのに、意思の疎通がまるでできていない。

「……それとも、抵抗は無駄だとより知らしめた方が効果的なのでしょうか?」

 一瞬たりとも目を離していなかったはずが、目の前で微動だにしなかったサラリーマンの姿がふとかき消えた。

 次の瞬間、脇腹を突かれた。

「かっ……」

 直接的な痛みはなく、それよりも、体内にぬるりと入ってきた冷たい金属の感触の方がよほど不愉快だった。一瞬で刃が引き抜かれる。

「そうですね、多少の時間は浪費しても結果的にはその方があなたを屈服させられそうです。急がば回れ、ということですね」

 まるで逆回転したように、サラリーマンは元の位置で最初から動かなかったかのように立ち尽くしている。膝が折れそうになるのを、崇は必死で堪えなければならなかった。今倒れたら、二度と立てなくなりそうだった。

「もう一押し必要ですか」

 一歩前へ出たサラリーマンが、無造作にデスクを蹴りつける。その角が崇の腹を直撃した。

「……!」

 悲鳴すら上げられず、今度こそ崇は棒のように倒れた。支えを求めて得られず、とっさに伸ばした腕がデスクの上を薙ぎ払った。倒れた崇の上にデスクの上のもの、報告書らしき書類やボールペン、退屈しのぎに持ち込まれたらしき雑誌などがばさばさと雪崩落ちる。

 視界が暗い。起き上がれない。

「こうも手こずるとは、〈師匠〉の懸念もそう的外れではなかったようですね」サラリーマンの声だけが聞こえてくる。「高塔家当主の暗殺計画が漏洩すれば、確実に『特別個体』を引きずり出せる。そこまでは理解できても、人員を投入しすぎだとは思いましたが……」

 特別個体? 何を言ってやがる……こいつらの狙いは御当主じゃないのか……?

 意識が保てない──光を失おうとしていた崇の目が、眼前に転がっていた何かに焦点を合わせた。殺された兵士のマガジンポーチからこぼれ落ちたものだろうか。ショットガン用の散弾、いわゆる12番ゲージと呼ばれる実包だ。

「結果的にとは言え、いたぶるような真似をしてしまいました。苦痛なき、眠るがごとき死を──口で言うのは易し、行うは難しです」

 呟きながらサラリーマンはサーベルを手に、机を迂回して崇に近づく。

 その顔がアッパーカットを受けたように、がくんとのけぞった。

 破裂音。

「ご……」

 まるで酩酊したようにサラリーマンの足取りが乱れる。至近距離から発射された12番ゲージ弾が、眼鏡を割って眼球を貫き、鼻梁を砕き、頬を貫いて奥歯を数本へし折っていた。

 倒れていた崇が立ち上がる──手にはぎちぎちに硬く丸めた雑誌と、散弾の信管を突くためのボールペン。雑誌を銃身代わりにした即席の散弾銃。

 精密機械のような動きを忘れ去ったようにサラリーマンは尻餅を突く。手足はばたばたと動いているが、それは殺虫剤を浴びせられた虫のようなもがきでしかない。

「テシクの奴だったら、思いついてもできなかったろうな。下手すりゃ腕吹っ飛ぶし」

 まあ俺だって二度と試したかねえよ、と顔をしかめながら崇は黒焦げになった雑誌を放り投げた。転がっていたライフルを杖代わりに立ち上がり、数歩サラリーマンに近づく。何か言おうとしたが、

「……やめた、気の利いたこと言おうとしたけど思いつかねえや」

 バットをフルスイングするように銃床を力一杯、振り下ろした。脛骨が折れた。


【AM12:10 同1F マリンシアター】

 轟々と際限がないかのように溢れ出し続ける水は、もう踝より上を洗うまでに達している。不幸にも水槽から水ごと溢れ出てしまった小魚が座席の下でパニックを起こして泳ぎ回り、切断された兵士たちの死体がごろごろと押し流されていく。地獄のような光景だ。

 座席の背もたれを足場に飛び、走り、龍一と〈ヒュプノス〉の青年の死闘は続いている。

 不安定な足場を物ともせず、龍一の振るうトンファーの動きに乱れはない。突き、振るい、回転しながら上下左右問わず襲いかかる。他の誰かが見ても、龍一が青年を圧倒していると信じて疑わないだろう。

 そう思っていないのは、本人たちだけだった。

「やるねえ」当たれば一撃で頭蓋が砕ける、龍一の猛打をことごとく回避しながら、青年の顔には無邪気な驚きと喜びしかない。「頭に血を昇らせながら、その技量には寸分の狂いもない。君の掻いくぐってきた修羅場が伺えるよ」

 余裕かましやがって、と怒鳴る余裕もない。横凪に振るった一撃が、

「おっと」

 飛び退いた青年がバランスを崩し、座席の背から落ちそうになる。普通なら攻撃のチャンスと見るところだが、

(……!)

 逆に冷たい何かが龍一を押しとどめた。踏み込む足でそのまま後方へ飛んだ、瞬間、

 数人分の背もたれがまとめて寸断され、ばしゃばしゃと水中に落下した。

 青年の手首には小型のリールのような装置が装着されていて、そこから時折、微かなきらめきが光を跳ね返して伸びているのが見える。

 糸だ。蜘蛛の糸より細く、鋼鉄より強靭な糸の刃。

「そのまま首を落とすつもりが……」悔しさなど微塵も見せず、青年はむしろ心の底から感心したように言う。「君はさぞかし戦いにくいだろうけど、それは僕も同じだよ。手を積み重ねて、ここまで仕留めきれなかった相手は初めてだ」

「余裕ぶっこいてんな……」冷静になろうと努めて鋭く息を吐き、龍一はトンファーを構え直す。「だが、君の企みは潰えたぞ。襲撃チームは全滅したし、百合子さんは逃げた」

「高塔百合子ね」青年の微笑は崩れない。「でも僕の暗殺はこれから始まるんだ。何しろ僕は、君を殺すために調整された特別な〈ヒュプノス〉なんだから」

 龍一が聞き返そうとした時、轟音がさらに大きくなった。水槽から漏れ出る水量がさらに増したのだ。水位は、既に座席の背もたれ近くまで迫り上がっている。


【同時刻 同3F 警備室】

「何だって水族館にこんな忍者屋敷みてえな仕掛けがあるんだよ! ……くそ、これどうすれば止まるんだ!」

「……無駄です。上位セキュリティプロトコルが起動した以上、この部屋からの操作は受け付けません」

 背後からの声にぎょっとして振り向くと、脛骨を完全に折られたはずのサラリーマンが口を開いていた──立ち上がりこそしなかったが、口の端から血の泡を吹き出しながらその顔には苦痛どころか、何の表情も浮かんでいない。ホラー映画の一場面のような光景だ。「そもそもこの水族館自体が、相良龍一を捉えるためのファラデーボックスのようなものですから」

「やっぱり、てめえの一味が絡んでやがったのか……」

「一味ではありません。兄弟姉妹同胞、いやそれ以上の存在です」

「そんなことは聞いてねえんだよ! さっさとあのたわけたギミック、解除する方法教えやがれ!」

 崇の怒鳴り声も、サラリーマンはほとんど耳に入っていないようだった。彼は蘇った死者から再び死者に戻ろうとしていた。「加えてあそこにいるのは、相良龍一を殺すためだけに調整されただ。我々が考えうる、必殺を賭した罠……」

「話聞けって!」

「……だが、もしこれで相良龍一を葬り去れなければ……」サラリーマンの目が急速に光を失う。「彼の者を殺すことができる者は、もはや地上にはいなくなるのかも知れない……」

「あっ、おい! ……言いたいことだけ言って死にやがって!」

 癇癪のあまり崇はコンソールを殴りつける。「龍一!」

「……落ち着け。お前もあいつの〈インストラクター〉なら前後策を考えろ」

 入口に現れたのは、満身創痍のテシクだった。

「ひでえ様だな……まあ、それはお互いだが。どうやら俺たち、まんまとハメられたみたいだな」

「ああ、やられたな。御当主の暗殺計画が動いているとなれば、どうしたって無視はできない。その対応にかかりっきりになるし、当然、万年人手不足の俺たちは龍一を繰り出すしかない。始めからそれを込みで絵図を描いていたってわけだ」

「ここまでは設計者プランナーの思惑通りだ。あと一つ……龍一と〈ヒュプノス〉の勝敗以外はな」


【AM12:10 同1F マリンシアター】

 シアターの入口には既に防火用シャッターで閉ざされている。それに、逃げようとしても逃げられる相手ではない。そう龍一は考え、考えられるだけの冷静さがまだ自分にあることを確かめる。

「最初から俺が目的だったのか? 百合子さんの暗殺はだったのか?」

「殺すなとは言われていない。可能なら殺せとは言われたけどね」青年は穏やかな顔と声のまま続ける。「でも標的は、最初から君一人だ」

 やはり──冷静さは欠いていなかったが、さらに冷静になる必要があるとは思った。「目の前で『サラダの日々』が始まった時はどうしようかと思ったが……よかったよ、泥を吐かせる相手が目の前にいて」

 青年の笑みがさらに深まる。「それでこそだ」

 沈みゆくマリンシアターの中、二人は激突する。


 拳と蹴り、トンファーと糸が音もなく交差する。

 既に座席の背もたれの上に立っていてさえ、水飛沫が足を濡らすのを避けられない。狭い、足場とさえ言えない足場を平地のごとく龍一は走り、〈ヒュプノス〉の青年を捉えようとする。

 だが、その打撃はことごとく、煙を殴るように、霞を蹴りつけるように、受け流されるばかりだ。

 詰めたと思った瞬間、青年は軽々と数メートルの距離を飛翔する。

 それでも龍一は諦めない。相手は自分より遥かに華奢だ。糸の切断力がいかに恐るべきものでも、懐に入りさえすれば、

?」

 逆に一瞬で、息がかかるほど懐に入り込まれた。

「く……!」

 動きは止めない。あの糸の刃が来る。背後には下がれない、ここまで素早い敵相手には追いつかれるだけだ。

 思い切り身を捻り、バックハンドを叩きつけようとする。

 

 手首を取られ、投げられた。天地が逆転し、頭から水中に叩き込まれる。むせた。口と鼻から盛大に水を吐き、咳き込みながら座席に這い上がる。

「見えているのに避けられない。いかにも日本的だろう?」くすくすという笑い。爪先立ちで背もたれの上に立つ姿はバレエダンサーのようだ。「視覚と、皮膚から感じ取る情報の間にが生じたらそれは混乱するよね。熟練した格闘家ほど引っかかるんだ──僕にとって正面戦闘は別に苦手ではない。君への敬意として選択したまでのこと」

「そうかよ」身を起こした。

 その腕を氷の針のように、恐ろしく冷たく鋭いものが貫いた──気づいた時には、もう引き抜かれていた。

「が……!?」

 傷口は小さいが、血が止まらない。

「これは正確には糸ではなく『板』なんだよ。極限まで薄く、細く、軽く、鋭く、強い。一種の形状記憶合金でできていて、微弱な電流を流すことで伸縮する。振り回すのも途中で曲げるのも──もちろん、突き刺すのも自由だ」

「……ずいぶんサービスしてくれるんだな」腕を伝う血の感触を生々しく感じながら龍一は呟く。「手品の種明かしが過剰すぎるのは、冥土の土産って奴か?」

 青年の朗らかすぎる笑い声。「そんなつもりはなかったんだけどな。でもまあ、今まで殺した標的でここまで保った相手がいなくてね」

「いちいち癇に障る言い方をする奴……」

 青年の声色と、眼差しが変わる。びいんと張り詰めた鋼線のような声と鋭い目の後、

「……今までよくやったね。見事だったよ、相良龍一」

「あ……」

 龍一の全身が強張り──やがて、だらりと両腕が垂れた。

調

 やはり一筋縄ではいかなかったね、と青年は目の焦点が合わないまま立ち尽くしている龍一に囁きかける。「ここまで僕を手こずらせた相手は、君が初めてだよ」

 催眠術、ではない。そもそも催眠術にはかかりやすい人間とかかりにくい人間の両方が存在する。もし誰にでもかけられる催眠術があれば、それは催眠術ではない。魔法の類だ。

 蛇に睨みつけられた蛙が動けなくなるように。虎に射すくめられた兎が自ら逃げるのをやめてしまうように。

 既に相良龍一のパーソナリティは可能な限り解析してある。出身地、生い立ち、過去・現在の家族構成、好きな食べ物や苦手科目、休日の趣味に至るまで。

 友情や愛情を抱けるほどにその人となりを知った後で、殺す。

 殺す相手に自分は恐ろしい殺し屋ではなく、親兄弟や友人恋人以上にこの世で最も信頼できる相手であると思い込ませる。ばかりか、

同調チューニング〉。

 これこそ、ある意味では直接的な殺しのテクニック以上に〈ヒュプノス〉を際立たせる、〈ヒュプノス〉以外には得難い特性だった。殺しの標的自身に命狙われる危険も命を絶たれる際の苦痛も感じさせることなく、警戒を解かせ、自ら喉首を差し出せるようになったら、あらゆる暗殺作戦がどれだけ容易になるだろうか?

 通常の標的ならここまで抵抗はしない。今まで殺してきた標的──地位と財産、そしてそれを守るためのセキュリティに惜しみなく投与できる人々は、一度それを取り上げられてしまえば幼子よりもひ弱で、無力だった。彼ら彼女らはまるで最愛の人に看取られるような無垢な笑顔とともに、次々とあの世へ旅立っていった。少なくとも戦闘時の腹の据わりに関しては、相良龍一の足元にも及ばない。

 だが、水の寒さと疲労、戦闘時ストレスと傷の痛みで隙をつくり心の障壁をこじ開けることが一瞬でもできれば。それにしても、容易なことではなかった。

 そして〈同調チューニング〉にはメリットと同等のデメリットが伴う。〈ヒュプノス〉とて神ではない以上、そこまで気を許した相手を殺害することは多大な──場合によっては修復不可能な精神的ダメージを負うのだ。事実、そうやって廃人同様となって処分された〈ヒュプノス〉は数え切れない。

 自分もそうなるかも知れない。でも──

「でも、僕はやるよ。僕は特別な〈ヒュプノス〉だから……」この世で最も親密な獲物に対して青年は呟く。「君一人を殺すために生まれた、特別な〈ヒュプノス〉だから」

 龍一の目に光はない。ただ、弛緩した顔で立ち尽くしている。

「僕に勝てたとしても、君を待つのは地獄だ。巨大で不定形な〈犯罪者たちの王〉の組織相手に、死ぬまで戦わなければならない。君が本当に守りたかった信条、大切な人々を火に焚べてまで」

 そんな地獄へ君が身を投じるのを、黙って見ているつもりはない──

「実を言うとね、君にずっと会いたかった。僕が生み出された理由そのものだから」

 静かに右手を振り上げる。「……苦痛なき、眠るがごとき死を」

 必殺の一撃が繰り出されようとした時……天井の通風口ダクトが微かに音を立てた。


【同時刻 同1F マリンシアター ……近辺の通風ダクト内】

「もう……通風口なんて好き好んで入る場所じゃないわね。暗いし迷いやすいしおまけに埃まみれだし。鼠とかゴキブリとかフェイスハガーとか出てきそう」

 後で思いっきり頭洗わなきゃ、とぶつぶつ言いながら潜入用スーツ姿の夏姫はダクト内を移動する。

 先ほどからにわかに階下が騒がしくなっている。どうやらマリンシアター内で拘束されていた人質たちが脱出してきたらしい。龍一は成功したのだろう……が、それにしては先ほどから通信が途切れているのが気がかりだ。ちょっと、いや、だいぶ嫌な予感がする。

『……夏姫さん? 夏姫さん、聞こえていますか?』

 イヤホンから聞こえる百合子の声に夏姫は動きを止める。「百合子さん! 無事脱出できたんですね!」

『無事ではありますが、喜んでばかりもいられません』遊びない口調で百合子の声が続ける。『龍一さんが〈ヒュプノス〉と戦闘状態に入りました。今、シアターは完全に外部から封鎖されています』

 やっぱりね、と夏姫は顔を引き締める。「私が行きます。百合子さんは自分のことだけを考えてください」

『そのつもりですが、それだけではいられません。どうか気をつけて』

 ありがとう、と伝えて通信を切る。「ファラデー箱か。この臨海水族館自体が龍一を閉じ込めるための罠ってことね……」

 それに対して自ら突っ込んでいくなんて我ながらどうかしているとは思う。だが龍一は強い男だが、無敵ではない。ましてや相手は多くの国家要人クラスを屠りながら、今だにその実体を明らかにしていない〈ヒュプノス〉だ。

「……ま、何とかなるでしょ」

 自分を勇気づけるために一人呟く。水音が聞こえる──建物の見取り図と照らし合わせても、この辺りのはずだ。

 前方の通風口から下が見える。慎重に様子を伺う。

「龍一……!?」


【同時刻 同1F マリンシアター】

「……龍一、龍一っ!」

 爆発したように通風ダクトが蹴り開けられる。そこから真下の龍一目がけ、一直線に夏姫は落下した。

 彼女も全てを理解していたわけではない──だが〈ヒュプノス〉の青年を前に、抵抗すら試みず立ち尽くしている龍一の様子を見て、本能的に危険を察知しただけだった。

 夏姫が青年にそのまま飛びかかっていたら、彼も攻撃を躊躇はしなかったに違いない。だが彼女の狙いは龍一であり、その手には彼女愛用のタブレット端末が、

「起きろーっ!」

 龍一の頭頂部を直撃した。

「うおおお!」

「ひゃあああ!?」

 二人はもつれ合うようにして冷たい水の中に落下した。

「何するんだよいきなり! やっていいことと悪いことがあるだろ! ……あれ、俺今まで何してたんだ?」

「呑気な人ねえ……」まともに動けるようになって目を白黒させる龍一を見て、夏姫がわざとらしく溜め息を吐く。「ぼーっとして何やってんのよ? こっちは大変だったんだからね! うら若い乙女が埃まみれの通風口の中を這いずり回って、いつ鼠やゴキブリやフェイスハガーが出てくるか気が気じゃなかったわよ!」

「フェイスハガーが出てきたら俺だって困るよ……」

「それで? そっちのお兄さんが〈ヒュプノス〉なわけ?」

 青年の方を見ると、初めて見せるような狼狽した様子で唇をわななかせている。「……まさか、こんな馬鹿な方法で〈同調〉を断ち切るなんて……」

 水を吸った髪を絞りながら夏姫は首を傾げる。「あら、男同士の濃密な交流を邪魔しちゃった? 悪いわね、空気読めなくって」

「何だか俺まで腹の立つ言い方だな……?」

「君のことは特に言われていなかったけど、龍一の後で……いや、待ってくれ」

 そう言うと青年は文字通り、十数秒近く沈黙した。今まで淀みなく話していた人間がそれだけ長く黙るのは異様ではある。

「……どうしたんだろうな?」

「オリオン座と交信しているのかしら?」

「やめろよそういう言い方……」

「お待たせ」我に返った青年は幾分か浮かない顔だった。「瀬川夏姫は殺すな、とスポンサーからの要求があったってさ」

「はあ?」

「頭の中のスマホで他の〈ヒュプノス〉と相談したってわけね。でも、私を殺すなってどういうこと? そもそも『スポンサー』って誰?」

「さあね。それを教えるほど僕たちは仲が良くないはずだったけど」

「じゃあいいわ。これからうんとあなたに、ええと、泥を吐かせるから。龍一が」

「おい」言うだけ言って背中に隠れた夏姫に龍一はだいぶ白い目になった。

「二体一か……望月崇やキム・テシクに加勢されるのは厄介だから各個で対応する必要があったけど、その娘はその娘で厄介そうだな」青年はやや気を取り直す。

「厄介に関しては大いに同意する」

「龍一、今聞き捨てならないことを言わなかった? もう一度水の中に叩き込まれたいの?」

「さっきのは君も一緒に落ちてたじゃないか……」

「……だいぶ興は削がれたけど、別にやることは変わらないからね」

 その手が再び糸の刃を繰り出そうとし、龍一と夏姫が身構えた時。

 轟音がさらに大きくなった。水槽から溢れ出る奔流が、今度こそその場にいる全員を飲み込んだ。


【AM12:15 同1F マリンシアター】

 溢れ出る水は、フロアそのものを水に沈めようとしていた。水流に翻弄されたマダコやイソギンチャクが切り揉みしながら流されていき、色とりどりの魚が切断された兵士たちの手足をついばむ。

 もちろん龍一たちも揉みくちゃにされていたが、かろうじて冷静さは失っていなかった。手足をばたつかせて必死に泳ぐ──唯一、空気のある方向へと。

「……ぶはあっ!」

 二人、水面へ顔を出してようやく息を吸い込む。ここはシアターではなく、水槽の中──水槽の天井と、少し水位の下がった水面のごくわずかな隙間だ。

「季節外れの水泳大会だな……」

「ほとんどトライアスロンよ。アクションあり、潜入スニーキングミッションあり」

「ところで、あいつはどこだ?」

「諦めて返ってくれたらいいんだけど、そうもいかないでしょ……きゃ!?」

「夏姫!?」

 一瞬で夏姫が水面下に引き込まれた。とっさに息を吸い込み、深く潜った龍一は、予想通りのものを目にした。

 夏姫の足に絡みついているのはあのワイヤーだろう。切断機能をオフにしているのか傷は負っていないようだが、水底の岩にでも縛りつけてあるのか自力ではほどけそうにない。

 そして大型、小型の魚に混じり、優雅にこちらへ泳いでくる者が一人。言わずと知れた〈ヒュプノス〉の青年だ。

(だろうな……)

 トンファーなど水流でとっくにどこかへ流されてしまったが、どうしようもない。それに、いざとなれば俺の武器は素手だ。

 色彩鮮やかな南国の海を模した水槽の中で、最後の戦いが始まった。

 格闘で水が渦巻き、水底の砂がもうもうと舞い上げられる。突きも蹴りも水中で減殺される以上、いかに相手の関節を取れるかが決め手となる。龍一には不利な状況だ──関節技はそれほど得意でない上に、水中での戦いなどほとんど初めてなのである。テシクに取っ組み合いを習っておけばよかった、と思っても遅い。

(くそ……!)

 何より、息ができないのが痛い。激しい運動と酸素不足で肺が爆発しそうだ。夏姫を助けに行くどころではない。

 自棄になって伸ばした腕が逆に関節を決められた。一瞬で背後に回られ、しかも自らの腕で首を絞められる。焦りでさらに肺の中の空気を吐き出した。目の前が赤黒く染まり始める。

 もう駄目だ……力が尽きかけた瞬間、目の前を大きな影がよぎった。

 体調15メートルを優に越すジンベイザメ、この臨海水族館の目玉だ。古代の漁師たちが海の化身として畏れ敬うのも無理はないと思わせる巨躯。しかも、水の底から見上げると迫力も桁違いだ。その威容に、青年の腕が一瞬緩んだ。

 今だ。

 背負い投げ気味に青年を投げ飛ばし、渾身の力でジンベイザメに向かって蹴り上げる。ゴム毬のように飛んだ青年にぶつかられたジンベイザメはパニックに陥ったらしい。元は図体に似合わず、人を襲うことなどない温和で臆病な種だ。その鼻面に青年を引っかけたまま泳ぎ去っていった。

 助かった、だがもう息が……。

(龍一!)

 口に何かが差し込まれ、嘘のように呼吸が楽になる。携帯式の小型酸素ボンベだ。しかし一体誰が? 早く夏姫を助けないと……。

 目を上げたら、心配そうな目をしているのは当の夏姫本人だった。

(何でだよ!?)脱力と同時に、あまりの意味不明さに怒りが込み上げてきた。安心して怒れるようになった、とも言えるが。(そんな便利なもんがあったらどうして使わなかった?)

(だって使う間もなく水に引き込まれたんだもん……溺れかけたのは私だって一緒よ)

(それにしてもどうやって助かった?)

(妖精さん)

 夏姫は足元の小さな塊を指差した。四角い箱に寸詰りのマニピュレーターと歩行用の足をつけたような姿は、水陸両用の作業用ドローンだった。ユーモラスな外見とは裏腹に人一人吊り上げられるだけのパワーウィンチや水中用トーチなど、あらゆる工具を装備した優良機である。

 何だかギャグ漫画みたいな方法で助かってしまったが、無事は無事だ。

(水の流れが落ち着いてきたから、出ようと思えば天井のダクトから逃げられると思うわ。問題は、あいつが逃してくれるかどうかだけど)

(……それどころか、厄介事のタネがまた増えたぞ)

 龍一は水槽の壁を見る。壁の一部が展開し、中から黒光りする金属の塊が静かに水中へ滑り出てきた。長さ2メートル、幅1メートル。潜水艦を寸詰りにしたような涙滴型のそれは、実際に水中戦用のドローンのようだった。人が乗る必要はない以上、艦橋もない。

(忍者屋敷かと思ったら軍事要塞だったの?)

(マジかよ……この前、海の底であいつの同類に酷い目に遭わされたんだが)

 何てギミックの多い水族館なんだろう。下手をすると、あの鮫ドローンもここから出撃していたのかも知れない。

 潜水艦の艦首がこちらを向き、水煙を吹いて何かが射出された。

(あぶっ!)

(ちょっと、水中銃スピアガン撃ってきたわよあいつ!)

(本物の魚雷よりは正気度が高いけど……いや、そんなこと言ってる場合じゃないな!)

(妖精さん、お願い!)

 夏姫の操作に応じて妖精さんがワイヤーアンカーを反対側の壁面へ射出、全力でウィンチを巻き取る。水中用スクーターの要領でしがみつく二人の体は高速で水中を進み、かろうじて射出された第二の銛を回避する。

 だが追いつかれるのは時間の問題だ。何しろこちらはワイヤーをいちいち巻き戻す手間がある上に、相手は本物の水中戦用なのである。

(何か手はないの?)

(あと300年ぐらいすれば俺も水中に適応するんだが、それまで待ってくれそうにないな!)

(300年どころかあと3分ぐらいで寿命が尽きそうよ!?)

 救いは思わぬところからやってきた。先ほど逃げていったジンベイザメが、あの潜水艦の横腹に体当たりしたのだ。水中とはいえ10メートルを越す巨躯と重量である。水中戦用ドローンでもたまったものではない。

(……鮫の人助け、かしら)

(どっちかというと『大人しい人ほど怒らせると怖い』の方じゃないかな……)

 しかもジンベイザメに跨っているのは、どこへともなく流されていった〈ヒュプノス〉の青年である。奇妙なまでの無表情で、彼はゆっくりと腕を振り上げ、

(!)

 どうやら数本の糸をより合わせ、一本の太いロープとして威力を増したらしい。

 大小数十のパーツに潜水艦が分割された。龍一がこの先どれほど長く生きようと、など見る機会はそうないのではないだろうか。

 その無表情が龍一と夏姫に向けられる。

(戻ってきちゃったね……しかも心なしか、だいぶ機嫌悪そうだし)

(あいつが怒るのもわからないではない……んだが、だからって俺たちが細切れになってやるわけにもいかないしな……)

 何か手は……いや、意外になんとかなりそうだ。

(夏姫、予備の酸素ボンベはあるか? それと、妖精さんをもう一機、水槽の天井に貼り付けられるか?)

(どっちもオッケーよ。でもどうするの? 勝ち目があるの?)

 死ぬかも知れない、とはちらりと思った。(まあ、何とかなるだろ)

 ──抜き手を切って泳ぎ出した瞬間にワイヤーが繰り出された。人工の岩場が巨人の大剣で断ち切られたように大きく切り裂かれる。

 そんなに俺を殺したいのかな、と思う。何でだっけ? ? 

 怒りはある。だが、目の前の青年への怒りではない。

 何の怒りだろう。直裁的に、殺されかけたから? それもある。百合子を囮に使われたから? それもある。夏姫まで危険に晒したから? それもある。

 だが、それを別にしても、目の前の〈ヒュプノス〉には勝たなければならない、と思った。

 ワイヤーの狙いが正確になってきている。魚の群れを掻き分け、ジンベイザメの表皮を伝うようにしてどうにか回避する。だが避け切れない──あと一撃、二撃で切り裂かれるだろう。

 ジンベイザメの表皮をそっと撫でてやる。理由はどうあれ命の恩だもんな。いつか、ここへお礼も兼ねてこられればいいのに。まあ、あれだけ俺たちが大暴れしたんじゃ、当分は無理だろう。

 必殺の一撃を繰り出す、寸前の青年と目が合い、

(今までよくやったな。君はすごいよ)

 青年の手から力が抜けた。

 次の瞬間、凄まじいスピードで青年の身体が引っ張られた。真上へ──水面へ。龍一が彼の足首に巻きつけたワイヤーが、妖精さんのパワーウィンチで引っ張られているのだ。

(どうして……!?)青年の目に、本物の狼狽が浮かんでいる。先ほど〈同調〉を断ち切られた時に勝るとも劣らない動揺だ。

(君にできることは俺もできるんじゃないかと思ってね。上手く行くかどうかは賭けだったが)

 青年の身体はたちまち天井近くへ巻き上げられ、宙吊りとなった。むせて水を吐き出しながらワイヤーを外そうとするが、がっちりと食い込んでいて解けない。

「僕の……僕の〈同調〉ばかりか、ワイヤーで嵌めに来たのか! 意外と……意外と、根に持つ奴だな……!」

「よく言われる」

 思った以上に間近で響く声は、青年のもがきを止めた。「それよりもっと大事なことを気にした方がいいんじゃないのか? 

「あ」

 青年は顔を上げ、龍一を見た。その口には真新しい酸素ボンベが咥えられている。彼が大きく息を吸い込むと、それに応じて全身の筋肉が倍近く膨れ上がった。

 龍一が接地した水槽の天井が一瞬、大きくたわむほどの強烈な震脚の後、

「堪えろ」

 鉄球のような一撃が腹にぶち込まれ、〈ヒュプノス〉を今引き上げたばかりの水面に叩き落とした。


【AM12:25 同1F マリンシアター】

 ──自分が他人と融け合い、他人が自分と融け合う。その〈ヒュプノス〉の総体から切り離された時、彼は赤子のように泣いた。自分が「自分」であることが怖かった。何も知らず、罪も罰も〈総体〉が引き受けてくれていた頃に戻りたかった。肌寒い丘の上を、たった一人で歩いていかなければならないことが恐ろしくて、悲しくて、そして寂しかった。

 お前は相良龍一を殺すために生まれた、特別な〈ヒュプノス〉なのだ──〈師匠〉に与えられた自分の新しい役割がその寂しさを埋めるまで、とてもとても長い時間と努力が必要だった。


(本当によかったの? 確かに、見捨てでもしたら寝覚めは悪くなると思うけど……)

(確かに、何となく厄介事が倍になりそうな気もするが……でも、自分の命も自分でどうにかできない奴にとどめを刺すの、やっぱり何というか、違うと思ってな)

 誰かが話している。彼はうっすらと目を開け、そして予想通りの顔を見出した。

「……起きたか。まあ、見ての通りだ。今ざっと相談したんだが、君を殺しはしないが、助けもしないことにした」

「どうせバックアップチームが待機してるんでしょ? 命を狙った相手に、私たちはそんなに親切じゃありませんからね」

 やや複雑な表情の龍一と、怒った顔の夏姫を交互に見ているうちに、自分は失敗したのだ、との思いが滲み出てきた。

 自分が渾身で磨き上げた技は、結局彼に届かなかったのだ。

「……あれ」

「龍一、この人泣いてるわよ。何よ、私たちを殺せなかったのがそんなに悔しいの?」

 言われて、彼は自分の頬が濡れていることに気づいた。気づいて、さらにしゃくり上げるのが止まらなくなった。

「悔しいよ。悔しくて……恥ずかしくて……寂しいよ。僕が君に差し出せるものは、それしかなかったのに……」

「それしかないって……誰かに差し出せるのが殺しのテクニックだなんて、そっちの方が寂しいんじゃないの?」やや落ち着いた声で夏姫。怒りは消えていないが、理由がわかったので怒るに怒れない、といった顔だ。

 ひどく神妙な顔で考え込んでいた龍一が、やがて頷く。「じゃ、また今度こそ俺を殺しに来い」

「何て?」

 意外すぎて、涙が引っ込んでしまった。

「それでいいの? 龍一……」そんな安請け合いをして知らないわよ、という顔の夏姫。

「ベストかって言われると自信はないが……俺一人をまっすぐに狙ってくれば、まあ対応はできなくないかな。今回みたいに百合子さんを出汁に使われても困るし。ただ、俺もそう簡単に殺されはしないからな。無報酬ならなおさらだ」

 二人は話しながら踵を返した。並んで歩くその背が遠ざかっていく。

「話の落としどころとしては悪くないわね、突拍子もないことを除けば」

「うーん、今さらだけどあれでよかったのか自信なくなってきたぞ……頻度にもよるんだよな。1ヶ月ごととかならまだしも、毎日だとちょっと困るな……」


 それから後のことはよく覚えていない。とにかく、お互いにもたれかかるようにしてマリンシアターを出た。ただ、ここでぶっ倒れて夏姫に引きずってもらうわけにはいかないな、とはちらりと思った。

 扉を開けると、大勢の人が駆け寄ってきた。その先頭に崇と、テシクと、そして百合子の顔が見えたところで、意識が途切れた。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 目が覚めた時はベッドの上で、しかも全身マカロニのような管とコードと包帯まみれで「何だこりゃ」と思った。枕元に座っていた崇も、全身包帯と医療ゲルまみれだった。

 寝てろ、と崇は疲れた声で言った。「お前は全身穴だらけ、テシクは肋骨にヒビ。俺もこのざまだ。当分は休業だな」

 龍一も気を抜くとすぐにでも寝てしまいそうだったが、聞かなければならないことがあった。「……百合子さんは?」

「俺たちがさんざんはしゃいだその後始末だ。退院と同時にムショへぶち込まれたくはないだろ? ここは高塔系列の病院だから、ほとぼり冷ましのためにもしばらく休めと言われたよ。お前もそうしろ」

「結局……あれからどうなったんだ?」

「伯父上が全部吐いた。御当主は指一本触れずに奴さんの金玉を締め上げた。お前があの場にいなくて正解だったよ」崇はいつもの調子で肩をすくめようとして全身の痛みに顔をしかめた。「結局、多大な人的被害を出した日野輪綜合警備保障には伯父上の責任で全額賠償するってことになった。いっそ本当に根元からやればいいのに、御当主も何だかんだ言って奴さんに甘いね。後は、マルスとの繋がりがバレた何とかって市会議員が一人、首をくくった。まあ、死ぬしかないほど追い詰められるのも『自殺』だわな」

 そうなると、聞くことはあと一つだけだった。「……夏姫は?」

「お前に合わせる顔がないってよ。よくわかんねえよな。多少気まずいことがあっても、お前が目を覚ました瞬間に抱きつけばうやむやになるのによ。やっぱあのくらいの娘っ子は何考えてんのか、俺にはさっぱりだ」

「できるわけないだろ、本人の性格から言って」

「だな。プライドは山より高そうだし。お前といい勝負だよ」相当大儀そうに崇は立ち上がった。「お前らはよくやったよ。あの状況で、訳わからん殺し屋相手にな」

「……夏姫のおかげで勝てた」

「じゃ、本人に直接そう言ってやれよ」優しい声だった。「おやすみ」


 病室を出た崇は眉をひそめた。成人男性のものとはまた違う、若い娘の軽い足音が急速に遠ざかっていった。

 くだらねえ、と崇は鼻を鳴らす。「両片思いかよ」


(次回、エピローグ)

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