第27話 トーマス様と心が通じ合いました

ポロポロと流れる涙が、トーマス様の頬に落ちる。


「トーマス様…お願いです。私を1人にしないで下さい!私にはもう、あなたしかいないのです…」


産まれて初めて知った、人を愛するという気持ち。その気持ちが日に日に大きなって行き、もう自分でも後戻りできない程、大きな気持ちへと変わっていた。きっとトーマス様と結婚できなければ、私は一生1人だろう…


それくらい、もう他の殿方なんて見られないのだ。


「医者を連れて来たぞ!」


お父様とお兄様が医者を連れてやって来た。早速トーマス様の所に案内するジョセフ様!お願い、どうか助かって…


「この傷は一体何なんだ?剣で刺された訳ではなさそうだな!とにかくここまで酷いと、私に出来るのは応急処置ぐらいです!すぐに馬車で大病院に運びましょう!」


先生の応急処置が終わるや否や、急いでトーマス様を病院に連れて行く。もちろん、私も一緒に付いて行く!トーマス様の隣をキープし、ずっと手を握っている。


「トーマス様、もうすぐ病院です!頑張ってください!」


お願い!早く病院に着いて!お願い!!必死で祈った!やっと病院に着き、緊急手術が行われた。手術室の前に備え付けられている椅子に座り、祈る様に手を合わせる。


「ルシータ嬢、トーマスの体は物凄く頑丈だ!きっと大丈夫だよ!あいつはゴリラなんだから!」


そう言って私を慰めてくれるのは、ジョセフ様だ。きっとジョセフ様も辛いだろう。それなのに、私の事を心配してくれるなんて…そもそも私を守る為に、トーマス様は怪我をしたのよね。私の警護なんかに当たっていなければ…そもそも、私があんな男に好かれなければ…


過ぎた事は仕方がない。こんな事を考えても意味がないのに、どうしても考えてしまうのだ。そんな私の肩を叩いて慰めてくれるジョセフ様。


バタバタバタ

「ジョセフ!トーマスの様子はどうなんだ!」


物凄い勢いで入っていたのは、家の両親くらいの男女と、若い夫婦だ。物凄く美しい4人。もしかして…


「公爵!今トーマスは治療を受けています」


「そうか…」


思った通り、トーマス様のご両親とお兄様夫婦だわ!それにしても、トーマス様はあまりご両親に似ていないのね。


物凄く心配そうな顔をしているご両親。夫人の方は涙ぐんでいる。そんな姿を見たら、胸が張り裂けそうになった。


「あの…私のせいでトーマス様が、大怪我をしてしまいました!申し訳ございません!」


トーマス様の家族に頭を下げた。そんな私に


「あなたがジョーンズ公爵家の末娘、ルシータちゃんね。本当に王太子妃や夫人によく似ていて美しい女性ね!トーマスの事を好きになってくれたのよね。ありがとう!あなたのお陰で、トーマスも最近はとしても幸せそうだったのよ!ほら、涙を拭て!トーマスは大丈夫よ!あの子は本当に丈夫な子なの!今までだって風邪一つ引いた事ないのだから」


そう言って私の肩を抱いてくれたのは、トーマス様のお母様だ!自分の息子が大怪我をして意識が無いと言うのに、私を気遣って下さるなんて、本当に優しい方…この方に育てられたから、トーマス様は優しいのね…


その時だった。お医者様が出て来た。


「皆様お集まりですね!いやぁ~それにしても凄い生命力ですね!手術も成功し、既に目覚められておりますよ!ただ傷口が塞がるまで少しかかりますので、しばらくは絶対安静ですがね」


そう言って微笑んだお医者様。


とにかく早くトーマス様に会いたくて、急いで手術室へと入って行く。


「トーマス様!!!」


そのままトーマス様に抱き着いた。


「トーマス様、私のせいでこんな怪我をさせてしまい、ごめんなさい!でも大丈夫です!私が一生かけてお世話しますので!今すぐ結婚しましょう!」


「ルシータ嬢、俺の方こそ怖い思いをさせてしまい、すまなかった。それから、助けてくれてありがとう。ルシータ嬢があの時あの男の手に噛みつかなければ、きっと皆やられていた!でも、あまり無理はしないで欲しい」


そう言って私の頭を撫でてくれた。


「それから…プロポーズは俺からしたかったな…ルシータ嬢、俺は見た目もゴリラみたいで、令嬢たちは俺の顔を見ただけで逃げていく。それに、女々しい所もあるし嫉妬深いし、多分君が思っている様な男ではないだろう。それでも俺は、ルシータ嬢を誰よりも愛している!どうかこれからの人生、一緒に歩んでいって欲しい!」


まっすぐ私を見つめてそう言ってくれたトーマス様。これは夢かしら?そう思う程、嬉しくてたまらない。


「もちろんです!これからずっとずっとず~っとトーマス様と一緒です!大好きです!トーマス様!」


そのままトーマス様の唇を塞ぐ!初めて感じる柔らかくて温かい感触…やっとトーマス様を手に入れられた!絶対にもう離さないんだから!


「コホン。盛り上がっているところ悪いんだけれど、俺たちの存在を忘れていないか?」


そう言えばジョセフ様はもちろん、トーマス様のご両親とお兄様夫婦もいたんだったわ。なんだか急に恥ずかしくなって、一気に頬が赤くなる。そそくさとトーマス様から離れようとしたのだが、なぜかトーマス様にがっちり腰を掴まれて動けない。


「ルシータちゃん、トーマスの事をよろしくお願いします!それにしても、まさか我が家にジョーンズ公爵家のご令嬢が嫁いでくるなんてね」


「そうだな!とにかくルシータ嬢の気持ちが変わらないうちに、早くジョーンズ公爵と話しを付けよう!こうしちゃいられない、おい、今すぐ公爵家に行くぞ!」


なぜか急いで病室から出て行くトーマス様のご両親。


「ルシータ嬢、こんなゴリラみたいな顔をした弟だけれど、正義感も強くとても優しい奴なんだ!よろしく頼むよ!」


「ルシータちゃんとお呼びしてもいいのかしら?あなたの様な美しい女性が義理の妹になるんて、とても嬉しいわ、仲良くしてね!」


トーマス様のお兄様夫婦にも、どうやら私の事を受け入れてくれていう様だ。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


嬉しくて2人に頭を下げた。何となくだが義理のお姉様になる方、うちのお義姉様に雰囲気が似ている。きっと仲良くなれるだろう。そんな気がした。


その後しばらく話をした後、トーマス様のお兄様夫婦とジョセフ様と一緒に帰る事になった。


「それではトーマス様、明日も来ますね」


「ああ…それにしても、どうして俺は入院なんだ!この程度の怪我で!おいジョセフ、しっかりルシータ嬢を送れよ!いいか、しっかり送るんだぞ!!」


「言われなくても分かっている!うるさい奴だな!とにかくお前は重傷なんだ!大人しくていろ」


「ジョセフの言う通りだ!いくらお前がゴリラでも、怪我は怪我だ!ルシータ嬢は俺たちが送るから安心しろ!」


2人に怒られたトーマス様。でもまだ不満の様で、ブツブツ言っている。そんなトーマス様がなんだか可愛くて


「トーマス様、私は大丈夫ですわ!それから、私たちはもう恋人同士なのです!ルシータとお呼びください!それではまた明日」


トーマス様の頬に口付けをして、病室を出る。既に日が沈みかけており、美しい夕日に照らされる。それにしても、まさかトーマス様と両想いになれるなんて…


嬉しくてついニヤケてしまうルシータであった。

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