第23話 楽しいデートのはずが…

向かい合わせに馬車に乗り、街を目指す。本当は隣に座りたいが、そこは我慢しておいた。トーマス様と初めてのデート。なんだか緊張してしまい、何を話していいのか分からず、無言が続く。このままでは駄目ね。何か話さないと!そう思っていると、トーマス様が話しかけて来てくれた。


「今日の歌劇は、王都で人気の俳優たちが演じているらしい」


「まあ、そうなのですね。実は私、歌劇を見るのは初めてで。とても楽しみですわ!」


歌劇は大人の娯楽だから16歳になるまで我慢しなさい!と言われていたのだ。ちなみに家の国は16歳で成人と見なされ、社交界デビューに加え、結婚も出来る様になる。だから私も、いつ結婚してもおかしくない年齢という訳だ。


しばらく走ると、王都の街並みが見えて来た。


「あの大きなホールが、歌劇が上演される会場だ!」


トーマス様が指さした先には、立派なホールが。


「まあ、あんなにも大きなホールで歌劇を見るのですか?なんだか緊張しますわね」


初めて見る歌劇が大ホールだなんて!

「別に座って見ているだけだから大丈夫だ!開演時間までまだ少し時間がある。せっかくだから、街でも見て回るか」


「はい!」


トーマス様と手を繋いで、街を見て回る。


「トーマス様、義理姉と姪にプレゼントを買って帰りたいのですが、あのお店に寄ってもよろしいですか?」


「ああ、構わないよ」


トーマス様に許可を貰い、早速お店に入って行く。お義姉様はルビーが好きなのよね。でも、ルビーのアクセサリーは沢山持っているわ。そうだ!お兄様の瞳の色でもある、サファイアのアクセサリーを買って行こう!


そうだわ、リリアとお揃いにしたら素敵よね!早速2人分のネックレスを購入した。後お義姉様にはイヤリングも選んだ。


ふとタイピンゾーンを見ると、ブルートパーズの付いたタイピンが売っている。まるで私の瞳の色の様ね!これをトーマス様にプレゼントしよう!これもこっそり購入した。


「ルシータ嬢、そろそろ行こうか」


少し買い物に時間が掛かってしまったせいで、歌劇の上演時間が迫っていた。急いでホールへと向かい、席に着く。どうやら貴族席の様で、完全個室だ。有難い事にクローゼットも設置されているので、ここに荷物を置いた。


そうだ、今のうちに!


「トーマス様、これ、今日誘っていただいたお礼です。さっきのお店で買いましたの!気に入って下さるといいのですが…」


さっき買ったタイピンをトーマス様に渡した。


「これを俺にかい?ありがとう、大切にするよ!ルシータ嬢にはサンドウィッチといい、今回のタイピンといい、貰ってばかりだな。そうだ!歌劇が終わったら、再び街に買い物に行こう!その時俺にも何かプレゼントさせてほしい」


トーマス様が私に!嬉しいわ!でも…


「私がプレゼントしたくてした事なので、気にしないで下さい。トーマス様の喜んでくださる姿が、私にとって一番のプレゼントなので!」


トーマス様に喜んでもらえるのなら、それだけで嬉しいのだ。


「いいや!俺もルシータ嬢の喜ぶ顔が見たい!とにかく、歌劇が終わったら買い物に行こう!これでも俺は公爵令息で、3年も騎士団長をしているんだ!金なら腐る程持っているから、安心して欲しい!」


物凄い勢いでそう言い切ったトーマス様。


「ありがとうございます。では、歌劇の後に買い物に行きましょう!」


トーマス様に何かプレゼントをして貰えるなんて、嬉しいわ。私の宝物にしよう。


しばらくすると、歌劇が始まった。今をときめく人気俳優陣による渾身の演技。完全に感情移入してしまった。そしていよいよクライマックス!そう思った時だった。


「お前たち!手あげろ!抵抗する者は容赦しないぞ!」


あれは、革命軍!嘘、こんな大きなホールに革命軍が来るなんて…夜会の時の記憶が蘇って来て、無意識にトーマス様にしがみついた。


「ルシータ嬢、多分ここは安全だ!悪いが少し待っていてくれるかい?」


優しい瞳でそう言ったトーマス様。彼は騎士団長だ!きっと革命軍と戦うつもりなのだろう。


「はい、私は大丈夫ですので、どうぞ行ってください。くれぐれもお気を付けて!」


本当は物凄く怖い。でも、ここは快く送り出さないと!


「俺が行ったらすぐに内側から鍵を掛けるんだ!いいね。それじゃあ、行って来る」


そう言い残して、部屋から出て行った。出て行く寸前に無線機で連絡を入れている様だったので、きっと騎士団の本部に応援要請をしているのだろう。


とにかくトーマス様が心配で、こっそり様子を伺う。かなりの数の革命軍がいる様で、次々と観客たちが縛られていく。必死に逃げようと出入り口に人が集まっているが、既に革命軍によって封鎖されている為、出る事が出来ない様だ…


何てことなの…

恐怖で身を縮こませる。そう言えば、トーマス様は何処かしら?ふと周りを見渡すと、いた!どうやら同じく歌劇を見に来ていた騎士団員と合流して戦っている。


それにしても、恐ろしいほどの強さだ!一気に1カ所の出入り口を攻め込み、解放した。一斉に逃げる観客たち。そんなトーマス様達に襲い掛かる革命軍!いくら物凄く強いと言われているトーマス様であっても、このままでは負けてしまうわ!どうしよう…

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