第22話  トーマス様と歌劇を見に行きます

「ねえレイラ、最近ずっとセーラ様が来ていないわ!何かあったのかしら?」


ここ数日、珍しく騎士団の稽古場にセーラ様の姿が無いのだ。


「きっとそのうち来るのではなくって。それにしても、静かでいいわ」


あまり興味のない様子のレイラ。今日もトーマス様にサンドウィッチを作って来た。セーラ様に負けない様に、分厚いお肉を挟んだステーキサンドだ。料理長に教えてもらいながら、丁寧に焼いたお肉。もちろん味付けは料理長だけれど、自分でも上手に焼けたと思っている。


ただ分厚いステーキを挟んだため、切るのに苦戦して見栄えは良くないが、愛情はたっぷり詰まっている。早速休憩時間にトーマス様の元に向かい、サンドウィッチを手渡した。


稽古場に顔を出す様になってから、毎日サンドウィッチを作っている。そして、嬉しい事に毎日食べてくれるのだ!どんなに形がいびつでも、“美味しい”と言って全て食べてくれるトーマス様。相変わらず優しい!


休憩が終わると同時に、食堂で仕事をこなす。今日の仕事もひと段落し、帰り支度をしている時トーマス様がやって来た。


「ルシータ嬢、明日、予定は開いているか?」


「明日ですか?はい、大丈夫ですわ」


「それじゃあ…その…あの、この前話した歌劇を見に行かないか?」


真っ赤な顔で叫んだトーマス様。明日トーマス様と念願のデート!


「はい!!行きます!絶対行きます!何があっても行きますわ!!」


嬉しくてついトーマス様に詰め寄ってしまった。


「それでは明日、公爵家に迎えに行くから」


そう言って去って行ったトーマス様。こうしてはいられないわ!急いで帰って、明日の準備をしないと!屋敷に帰ると、早速明日の服選びスタートだ。デートと言えど、街に行くのだ。あまり豪華なドレスでは浮いてしまうだろう。


だとすると、やっぱりシンプルなワンピースが良いかしら?何着もワンピースを並べて考え込む。そうね、トーマス様は金髪に茶色い瞳の色をしている。茶色のワンピースにしようかしら?でも、私のピンクの髪にはあまり合わないような…


それなら黄色のワンピースにしよう。よし、黄色のワンピース…あまりないわ!どうしよう!そうだ、こういう時はお義姉様にお借りしよう。


急いで隣に住む兄夫婦の屋敷に向かった。


「まあ、ついにあのゴリラ…ではなくて騎士団長とデートの約束をしたのね!でもルシータちゃんはこんなにも可愛いのに、なんでまたあんなゴリラなんかと…」


なぜかシクシクと泣き出すお義姉様。面倒な事になりそうね。


「お義姉様、やっぱり私…」


「でも、ルシータちゃんが選んだ人ですもの!黄色いワンピースね。たくさん持っているから、こっちにいらっしゃい!」


有無も言わさずお義姉様のお部屋に連れて行かれ、ファッションショーの開始だ。途中で姪のリリアも参戦しだした。まだ3歳のリリアなのだが、かなりませていて、ファッションにはうるさいらしい。


「う~ん、どれもルシータちゃんによく似合っているわね。どれがいいかしら?」


「おかあさま、これなんてルシータおねえちゃんにあいそうよ」


真剣に悩んでくれるお義姉様とリリア。とてもありがたいのだが…少し疲れた。結局2時間以上悩んだ末、何とか1着に絞る事が出来た。


「お義姉様、ありがとうございます!このワンピース、お借りしますね。リリアもありがとう」


「それ、ルシータちゃんにあげるわ!だってあなたによく似合っているのですもの。私は新しいものを買うから!」


そう言ってにっこり笑ったお義姉様。


「ありがとうございます!お義姉様!」


せっかくなので、有難く頂いておいた。明日街に出た時、お礼にお義姉様とリリアに何かお土産を買って帰ろう。家に帰ると、早速明日身につけるアクセサリーを選ぶ。私の瞳の色に合わせて、アクアマリンにした。


よし、準備は完了ね。後は明日を待つだけ!でも、楽しみすぎて眠れないわ!どうしましょう!寝不足は美容に良くないのに!


結局夜中まで眠れなかったルシータであった。


翌日

朝早くから、メイドたちに体中を洗ってもらう。これでもかと言うくらい入念に洗われ、髪もサラサラにしてもらった。そしてお義姉様から貰ったワンピースを着て、アクセサリーを付ければ完璧だ。


ちなみに朝からお義姉様とお母様が、私の様子を見に来ていた。


「ルシータちゃん、今日は頑張ってね!」


「ルシータ、あなたは私に似て美しいから、きっと大丈夫よ!それから、とにかく楽しむ事。いいわね」


「分かっていますわ。お母様。2人共、私の為にありがとうございます!」


コンコン

「お嬢様、トーマス様がいらっしゃいました」


「分かったわ、すぐに行くわね!」


急いで玄関に向かうと、そこには私服姿のトーマス様が!なんて素敵なのかしら…うっとりと見つめてしまう。いけないわ、挨拶をしないと!


「トーマス様、おはようございます!今日はよろしくお願いいたします」


「こっちこそ、誘いを受けてくれてありがとう。さあ、行こうか?」


そう言うと、なんと手を差し伸べてくれたのだ!これは奇跡かしら!とにかく引っ込められないうちに、急いで掴まなくっちゃ!慌ててトーマス様の手をギューッと握る。あぁ、幸せ…


「トーマス様、どうか娘をよろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げたお母様。その後ろに隠れる様に、お義姉様がこちらを見ていた。


「ルシータちゃんは、あのゴリラのどこがいいのかしら…私には恐怖でしかないわ…」


ボソリと呟いたお義姉様。ちょっとお義姉様、何て事を言うのよ!お母様も同じ事を思ったのか、小声でお義姉様を注意している。


「それじゃあトーマス様、行きましょう!」


トーマス様の手を引っ張り、玄関を出ようとした時だった。くるりとお母様の方を向いたトーマス様。


「今日は大切なお嬢様をお借りいたします。必ず連れ帰りますので、ご安心を!」


そう言って深々と頭を下げたのだ。お母様もびっくりしている。くるりと私の方を向き直したトーマス様。


「さあ、行こう!」


そう言うと、馬車にエスコートしてくれた。いよいよデートの始まりだ!楽しみね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る