第17話 少しずつですが進展している様です

急いで騎士団の稽古場へとやって来ると、セーラ様にぶつかった。あら?泣いている?


「セーラ様、どうされましたの?」


そう声を掛けたのだが…


「騎士団長様が、あんなにも恐ろしい人だとは思いませんでしたわ!!」


そう言い放ち走って行ったセーラ様。急いで稽古場へと向かうと、いつも通り皆が稽古をしていた。


「レイラ、さっきセーラ様が泣いて出て行ったけれど、何かあったの?」


練習を見ていたレイラに声を掛ける。


「ああ、あの我が儘令嬢ね…あの子、入ってはいけないはずの稽古場へは勝手に入って来るわ、他の騎士団員に文句を言うわ、喉が渇いたからなんか持ってこいやら、言いたい放題よ!午前中は何とか皆我慢していたのだけれど、ついにさっき騎士団長がブチギレてね。“稽古の邪魔をするなら出ていけ!!!”て、怒鳴りつけたのよ…」


物凄く疲れた顔をしているレイラ。なるほどね!


「あの子、ただでさえ一人っ子で甘やかされて育ったせいか、我が儘で有名だったでしょう?きっと今まで怒られた事も無かっただろうし…あんなゴリラみたいにいかつい男に、鬼の形相で怒鳴られたのだから、余程怖かったのではないかしら?でも、これできっともう騎士団には来ないだろうから、良かったわね。ルシータ」


相変わらずレイラはトーマス様の事をゴリラゴリラって、本当に失礼ね。でもこれで、セーラ様もトーマス様の事は諦めてくれたわよね。それにしても、こんなにあっさりと敵が引き下がるなんて、なんか拍子抜けだわ…


「そう言えばルシータ。あなた稽古場を出入り禁止になっていたのではなかったの?」


「先ほどトーマス様に、出入り禁止を解いてもらったの。これからは食堂の仕事の合間に、ちょこちょこ稽古場も見に来るつもりよ」


「そういう事ね。でもそれなら、食堂はもう辞めたら?別にあなたが居なくても、特に困らないでしょう?」


確かに私がいなくても、きっと婦人たちは困らないだろう。でも…


「婦人たちは物凄くいい人達なの。今だって“ここはもういいから、稽古場に行って来て”て言って下さったし。それに、私の事もとても大切にしてくれているのよ!私はこれからも、婦人たちと関わっていきたい。だから、しばらくは続けようと思っているの」


「そう、あなたがそう決めたならいいけれど!それに騎士団たちの士気もかなり高まっているみたいだしね。あなた、騎士団員たちになんて呼ばれているか知っている?食堂の天使に女神よ!」


そう言ってクスクス笑っているレイラ。皆好き勝手呼んで!


稽古が終わると、レイラはピーター様と仲良く帰って行った。私も帰ろう!そう思った時だった。


「もう帰るのか?」


話しかけてきたのは、トーマス様だ。


「はい、食堂のお仕事ももう大丈夫と言われたので、今日はもう帰りますわ」


帰る前にトーマス様とお話出来るなんて、ラッキーね。


「そ…それなら、よかったら中庭で…その…お茶でもしないか?」


真っ赤な顔でそう言ったトーマス様。中庭でお茶ですって!!!


「よろしいのですか?もちろんです!さあ、早速行きましょう!」


あまりの嬉しさに、トーマス様の手を掴んだ!毎日竹刀を振るっているからだろう。ごつごつしている。でも大きくて温かい…


すぐに振り払われると思っていたが、どうやら振り払われない様だ。よし、このまま中庭まで手を繋いでいこう!そう思って歩こうとしたのだが、なぜか真っ赤な顔をして俯いているトーマス様。


「トーマス様?どうかされましたか?」


心配になって顔を覗き込む。


「いいや、何でもない!ルシータ嬢は、俺に触れるのが嫌ではないのか?」


そう呟いたトーマス様。


「どうして嫌なのですか?トーマス様に触れられるなんて、こんな幸せな事はありませんわ!」


正直トーマス様が言っている意味が分からない。普通は好きな人に触れたいものだ。コテンと首を傾げる。もちろん、しっかり手は繋いだまま。


「そうか…それならいいんだ。行こうか」


そう言って歩き出したトーマス様。もちろん、私も付いて行く!相変わらず花々が美しく咲き誇っている。


「この中庭は本当に見事ですわね。私、カスミソウが一番好きです。小さくて可愛らしいし、バラみたいな華やかさはないけれど、なんだか見ていて和むと言うか」


「俺もカスミソウ、好きな花の1つだ。そうだ、カスミソウなら俺の家に、色とりどりのカスミソウが咲いている。母上が好きで、品種改良を行ったらしい。家の屋敷にしか咲いていないそうだから、今度見に来るといい。まあ、無理にとは言わんが…」


「本当ですか?ぜひ見せて頂きたいですわ!」


これはお家に遊びに来てもよいという事ですわよね!やったわ!なんだか少しずつ、トーマス様との距離も縮まっている気がする!嬉しいわ!


その時だった!


「騎士団長様!!!!」


えっ?この声は…


声の方を振り向くと、セーラ様が物凄い勢いで走ってくる姿が目に入った。このまま行くと、またトーマス様の胸にダイブしそうね。そうはさせないわ!すかさずトーマス様の前に立った。


「ちょっとルシータ様。邪魔ですわよ!」


私に文句を言うセーラ様。泣いて帰って行ったはずのセーラ様が、一体何をしに来たのかしら?


「騎士団長様、さっきはごめんなさい!やっぱり私は騎士団長様がいいのです!これからも、どんどん私の悪いところを注意して下さいね」


そう言ってうっとりとトーマス様を見つめるセーラ様。


ちょっと、諦めたのではなかったの?当のトーマス様も目を見開いて固まっている!


「俺はお前なんて興味が無い!とにかく、俺に近付くな!」


そう言って急いで帰って行くトーマス様。結局この日のティータイムは、急遽中止になったのであった。

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