第16話 婦人たちが後押ししてくれました

セーラ様の渾身のプロポーズを受けたトーマス様。なんて答えるのかしら…不安げにトーマス様を見つめる。


「き…気持ちは嬉しいが、あなたと結婚するつもりはありません。どうか他を当たって下さい!」


そう言うと、物凄い速さで去っていくトーマス様。あら?私の時と全然対応が違うわ。セーラ様の方が随分と丁寧ね…でも、断られたのだから一緒か。


「あぁ、やっぱりカッコいいわ!絶対に騎士団長様と結婚したい…」


うっとりとトーマス様を見つめるセーラ様。って、ちょっと待ってよ!


「あの、セーラ様はトーマス様に好意を抱いていらっしゃるのですか?」


「ええ、もちろんですわ!実はつい最近まで、心配症の両親のせいで中々外出許可が下りなくて!やっと外出許可が下りたので、騎士団員をしている従兄弟に入場許可証を書いて頂きましたの!あの日から、私の心は完全に騎士団長様の物ですのよ!」


鼻息荒く私に話しかけて来るセーラ様。そう言えばセーラ様は1人娘で、物凄く大切に育てられていると聞いた事がある。確か婿を取って伯爵家を継ぐと聞いたわ。


「セーラ様、申し訳ございませんが、トーマス様は私と結婚する予定になっておりますの。どうか他を当たって下さいませ!」


“お前とも結婚する気はない!”そうトーマス様に言われそうだが、ここは黙っていられない。少し卑怯かもしれないが、とにかくセーラ様にトーマス様の事を諦めて欲しい!


「もしかして、ルシータ様も騎士団長様の事が!でも、あなた様は生きた芸術作品とまで言われているお方!別に騎士団長様でなくてもよろしいのではなくって。それに騎士団長様は次男ですし、いずれ爵位を継ぐ私と結婚した方がよろしいのでは?」


うっ…確かにうちは、既にお兄様が爵位を継ぐことになっている。でも!


「きっとトーマス様は、爵位など欲しがりませんわ!そもそも、騎士団長としての地位も確立しているのです。このまま行けば、きっと陛下から爵位を賜るに違いありません!」


わが国には、国の為に働いた人物に爵位を与える事がある。トーマス様の活躍っぷりを見たら、きっと爵位を与えて下さるわ。もしもの時は、お姉様にお願いすればいいし!


「とにかく私は、騎士団長様を諦めるつもりはございません!いくら相手があなた様でもね!」


そう言って私の前から去っていくセーラ様。何て事なの!ただでさえトーマス様にウザがられている私なのに、ライバルまで現れるなんて…


がっくり肩を落とし、食堂へと戻って来た。


「ルシータちゃん、遅かったわね。トマト、騎士団長様が届けてくれたわよ」


「ごめんなさい、ちょっと色々とありまして」


「大丈夫?少し顔色が悪いわ!今日はもう帰っても大丈夫よ」


優しいマームさんが、心配そうに声を掛けて来てくれた。でも、私はここで引き下がる訳にはいかないのよ!


「いいえ、マームさん!大丈夫ですわ!さあ、準備を続けましょう!」


気を取り直して、お料理の盛り付けを開始する。どうやらトマトはサラダに使う様だ。既に食べやすい大きさに切られていた。そして、いつもの様にお昼休憩に入ると、沢山の騎士団員たちがやって来た。


なぜかセーラ様も。


「あら?ルシータ様、こんなところで働いていますの?あなた公爵令嬢なのに、随分と落ちぶれましたのね」


そう言ってプププっと笑っているセーラ様。失礼ね!それから、大きな声で公爵令嬢とか言わないで欲しいわ!婦人たちに聞こえるじゃない!


「おいセーラ!ルシータ嬢に失礼だろう!ルシータ嬢は、団長の側に居たくてここで働いているんだ!」


どうやらセーラ様の従兄弟と思われる騎士団員が、私をフォローしてくれた。従兄弟は良い人の様ね!


「あなたは黙っていて!あっ!あそこにいるのは騎士団長様だわ!騎士団長様~」


嬉しそうにトーマス様の隣に座ったセーラ様。私だってまだトーマス様と一緒に、食事をした事が無いのに!!駄目だわ、今は仕事に集中しないと!とにかく無心で料理を運んだ!でも、このままではいけないわよね!何とかしないと…


結局何も出来ないまま、お昼休憩が終わった。いつもの様に後片付けを手伝っていると


「ルシータちゃん、今日はもういいわ!今からでも騎士団の練習を見に行って来たら?あの令嬢も、どうやら騎士団長様がお好きな様だし!私たちはね、騎士団長様とルシータちゃんがくっ付いて欲しいと思っているの!だってルシータちゃんは公爵令嬢なのに、こんなにもいい子なのですもの!」


「もしかして、私が公爵令嬢と最初から知っていたのですか?」


「いいえ!さっきあの令嬢が言っているのを聞いたから。でもね、あなたが高貴な身分なのだろうとは思っていたわよ!ルシータちゃん、私たちが気を使うと思って、あえて名前しか言わなかったわよね。私たちはあなたのそう言った気遣いが出来るところも、気に入っているの!身分を振りかざさず、平民の私達にも親切にしてくれるルシータちゃんが、私たちは大好きなの!だから、頑張って!この仕事も無給なんだし、出来る時に手伝って貰えたらいいから!」


そう言って微笑んだマームさん。他の婦人たちも笑顔で頷いてくれている。


「皆様、ありがとうございます!私、ちょっと行って来ます!」


急いで稽古場へと向かう。有難い事に、午前中にはトーマス様自ら出入り禁止を解いてくれている。待っていてくださいね、トーマス様、今行きますから!

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