第18話 セーラ様はある意味凄いです

翌日、朝少しだけ騎士団の稽古を見る為、稽古場へとやって来た。既にセーラ様も来ている。大人しく見学席に座って見ているセーラ様。でも…


「キャーーー、騎士団長様!素敵!!!キャーーー」


なぜか、セーラ様の声が稽古場中に響き渡っている。もちろん他の団員たちも声を出しているのだが、完全に負けているのだ。


「凄いわね…あの子…まさか今日も見学に来るなんて。ルシータ並みの図太さだわ…」


なぜか感心しているレイラ。私並みの図太さってのが少し引っかかるが、とりあえずスルーしておいた。そして1回目の休憩時間に入った。今日は久しぶりに、サンドウィッチを作って来たのだ。


急いでトーマス様の元に向かう。でも…


「騎士団長様!家の料理人が丹精込めて作った、最高級厚切りステーキのサンドウィッチです。どうか食べて下さい!」


物凄く豪華なサンドウィッチをトーマス様に渡している。かたや私のサンドウィッチは、もちろん家の優秀な料理人が味付けしたものだが、形もいびつなサンドウィッチだ!でも、負けていられない!


「トーマス様、私も久しぶりにサンドウィッチを作って参りましたの!愛情をたっぷり入れております!どうぞお食べください!」


私もすかさずトーマス様に、サンドウィッチを差し出した。


「あら、随分いびつな形のサンドウィッチなのね。公爵家は意外と経済難なのかしら?」


そう言ってプププと笑ったセーラ様。何ですって!さすがに家の家族をバカにするのは許せない!


「ちょっと!」


「俺は人の家をバカにする奴は嫌いだ!そもそもジョーンズ公爵家の権力を知らないのか?少しは貴族社会について勉強をした方が良いのではないか?それから、俺はお前とは結婚しないとはっきりと言ったはずだ!悪いが稽古中、猿みたいな声でキーキー騒ぐのは止めてくれ、迷惑だ!」


かなり辛辣な言葉をセーラ様に投げかけたトーマス様。


「何よ!もういいわよ!」


持っていたサンドウィッチをごみ箱に捨て、怒って出て行くセーラ様。食べ物を粗末にするなんて、罰当たりね。家は公爵家だけれど、いつも感謝の気持ちを忘れない!食べ物を粗末にしない!物を大切にする!の3つの事を小さい時から両親に叩き込まれている。


だから、正直食べ物を粗末にする人の気持ちが理解できないのだ。


おっといけない、こんな事をしている暇はないわ。そろそろ食堂に行かないと。


「トーマス様、この後食堂での仕事がありますので、これで失礼しますね」


「あっ…ルシータ嬢…」


トーマス様が何か言いかけた気がするが、今はとにかく食堂に向かわないと。結局サンドウィッチを、トーマス様に食べてもらえなかったわ。仕方ない、私のお昼ご飯にしよう。


「遅れてごめんなさい!今からすぐにお手伝いしますね」


「ルシータちゃん、そんなに急いで来なくても大丈夫よ!でも助かるわ。そこのお野菜、洗ってくれる?」


「はい!」


早速野菜たちを洗う。そうだわ!


「皆さまのお陰で、少しですがトーマス様との距離が縮まった気がします。ありがとうございました!」


「それは良かったわ!その調子で頑張ってね、私たちに出来る事があれば、何でもするから!」


「ありがとうございます!」


皆私の言葉を聞き、嬉しそうに微笑んでくれた。本当にいい婦人たちだ。後少しでお昼休憩に入る。急いで準備をしていると、なぜかトーマス様が食堂にやって来た。


「騎士団長様、まだお昼のお時間ではないですよ」


そう言ってクスクス笑っているマームさん。


「いいや…ルシータ嬢に用があって…」


「私にですか?一体どうされましたか?」


わざわざ食堂にまで訪ねて来て下さるなんて!急いでトーマス様の側へと駆け寄った。


「さっきの休憩の時に、俺に渡してくれたサンドウィッチを…その…」


なぜか顔を真っ赤にしてモジモジしているトーマス様。サンドウィッチ?もしかして!急いでサンドウィッチを持ってきた。


「もしかして、食べて下さるのですか?」


「ああ…」


「まあ、嬉しいです!どうぞ、食べて下さい!」


まさか私の作ったサンドウィッチを、わざわざ食べに来てくれるなんて!嬉しくてたまらない!


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、物凄いスピードでサンドウィッチを食べるトーマス様。喉にでも詰まったら大変だ。そっとお水を渡した。


「ありがとう、それにしてもこのサンドウィッチ、本当に美味いよ!忙しい時間にすまなかったな」


サンドウィッチを食べ終わると、食堂から出て行くトーマス様。


「良かったわね、ルシータちゃん」


「はい!」


婦人たちも嬉しそうに声を掛けてくれた。そしてお昼休憩に入った。いつも通り食堂にやって来て、食事をするトーマス様。すると


「騎士団長様!一緒に食事をしましょう!」


この声は…

そう、セーラ様だ。何事も無かったかのように、トーマス様の隣に座った。さすがのトーマス様も前に座っていたジョセフ様も、口をぽっかり開けて固まっている。


そして午後の稽古も、何食わぬ顔で見学しているセーラ様。


「あの子…本当にどんな脳みそしているのかしら…ある意味ルシータ以上ね…」


隣で呆れ顔のレイラ。確かにセーラ様の切り替えの早さは、ある意味凄いわ…

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