第14話 今日から騎士団の食堂でお世話になります!

トーマス様に稽古場への出入り禁止を言い渡されてから、1週間が経った。実は今日から、食堂の婦人たちのご厚意で、騎士団の食堂で働かせて頂く事になったのだ。


と言っても、私なんて居ても迷惑以外何者でもないので、もちろん無給だ。お母様からは


「ルシータが皆様に迷惑を掛けるといけないから、お金を包まないと!」


と、逆にお金を持って行って婦人たちに断られていた。確かに厨房での大惨事を見ていたお母様からしたら、気が気ではないのだろう。でもこの1週間、お料理を運ぶ練習を何度も何度もしたのだ。きっと失敗しないはず!


今日は動きやすいシンプルなワンピースを着ていく。早速馬車に乗り込み、騎士団の受付を通って食堂へと向かった。


「今日からお世話になる、ルシータです!どうぞよろしくお願いいたします!」


あえて名前だけにしたのは、婦人たちに私の身分を知られたくないから。どうやら婦人たちは皆平民の様で、私の事を知らない。もし私が公爵令嬢と知ったら、きっと物凄く仕事がやりにくいだろう。だからあえて内緒にしておこうと思ったのだ。


まあ、身なりから貴族という事はバレているだろうけれど、そこは気にしない様にした。


「ルシータ様、よくいらっしゃいました。今日からよろしくお願いしますね」


私に挨拶をしてくれたのは、マームさんだ。そう、私をこの食堂で働かないかと誘ってくれた張本人。


「マームさん、これから一緒に仕事をするのだから、様はおかしいわ。ルシータと呼んでください!」


親子ほど歳の離れている婦人たち。出来るだけ親しくなる為にも、様付けは止めて欲しいと思ったのだ。


「それでは、ルシータちゃんと呼ばせて頂きますね。では、早速このエプロンと三角巾を付けて下さい」


そう言って私にエプロンと三角巾を渡してくれた。大丈夫よ、家で何度の練習をしたのだもの。私はこの日の為に、エプロンと三角巾の付け方も、何度も何度も練習してきたのだ。


受け取ったエプロンと三角巾を付けた。よし、上出来ね!


「まあ、ルシータちゃんは三角巾が付けられるのですね。初めての人は中々付けられないのに、凄いですわ!」


そう言って褒められた。そしていよいよ調理開始…と言っても、私に出来る事なんて限られている。とりあえず今日は野菜を洗ったり、簡単な盛り付けをさせてもらった。そしていよいよお昼休憩だ!


どんどん騎士団員が食堂に入って来た。これからが私の出番!早速お水や料理を運ぶ。この1週間、物凄く練習をした。よし、今のところ順調だ。


でもなぜか騎士団員たちは、皆目を丸くして私を見ているが、気にしないでおこう。


「あれ!ルシータ嬢じゃないか?どうしてこんな所に居るんだい?」


やって来たのは、トーマス様と同じ部隊の騎士団員たち。


「今日からこの食堂で、お世話になる事になりました。どうぞよろしくお願いいたします」


ぺこりと頭を下げた。


「マジか…最近来ないから心配していたんだよ。まさか食堂で働くなんて!」


そう言って驚いている。その時だった。


「どうしてお前がここに居るんだ!」


やって来たのは、トーマス様だ!後ろにはなぜか笑いを堪えているジョセフ様もいる。あぁ、1週間ぶりに見るトーマス様…やっぱり素敵だわ…


「今日からこの食堂でお世話になる事になりました!食堂は出入り禁止になっていないので、問題ないですよね!」


そう、私が出入り禁止になっているのは、稽古場だけだ!だからここに私がいても、問題ないはず!


「レイラから話しは聞いていたけれど、本当に食堂で働き始めたんだね。それにしてもその姿、よく似合っているよ」


「ありがとうございます、ジョセフ様!」


ジョセフ様には色々とお世話になっているので、レイラを通じて予め伝えておいたのだ。


「お前、ルシータ嬢がここで働く事を知っていたのか?それならなぜ止めないのだ!こんなところで…このような美しい令嬢が働いているなんて…他の男共に絡まれたら…どうするんだよ…」


なぜか真っ赤な顔でブツブツ言っているトーマス様。声が小さすぎてよく聞こえない。


「ルシータちゃん、お取込み中ごめんね。この料理、テーブルに運んでくれる?」


「ごめんなさい、今すぐ運びます!」


いけないわ、今はお仕事中だったのだ。


「それではトーマス様、ジョセフ様、失礼します」


一礼し、急いでお料理を運ぶ。それにしても、目が回る様な忙しさね。でも騎士団員の皆はとても優しい。私がちょこちょこお料理を間違えて持っていても、笑顔で対応してくれる。もちろん、トーマス様とジョセフ様の元にもお料理を運ぶ。


「お待たせしました!」


2人の元に料理を置く。するとトーマス様が


「ありがとう。それと、この前は言い過ぎた…すまなかったな…」


とても小さな声で謝罪してくれたのだ。


「こちらこそ、トーマス様にしつこくしてごめんなさい。でも、やっぱり私はトーマス様が好きです!だから、諦めるつもりはありませんので!」


そうはっきりと告げた。たとえ今は嫌われていたとしても、いつかきっとトーマス様に振り向いてもらえたら嬉しい。それまでは騎士団の食堂でしっかり働き、毎日トーマス様を拝まなくっちゃ!そしてあわよくば、トーマス様と仲良くなれたら嬉しいな!

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