第13話 醜い嫉妬心で彼女を傷つけてしまった~トーマス視点~

翌日、この世の者とは思えない程眩しい笑顔で、俺の側にやって来た。そして再びケーキを食べて欲しいと、差し出して来た。


これ以上この子と関わっては駄目だ!そう思い、甘いものは嫌いだ!と伝え、彼女の元から去る。とにかくこうやってあしらっていれば、いつかは絡んでこなくなるだろう。


そう思っていたのに…


毎日毎日俺に何かしら料理を作って持ってくる。それはそれは可愛い笑顔を振りまいて…そしていつの間にか、彼女が俺の元に来る事を、密かに待ちわびる様になっていた。


駄目だ!俺なんか彼女に愛される訳が無い!そう自分に言い聞かす。でも、どうしても彼女ともっと一緒にいたくて、中々その場を去る事が出来なくなっていた。そしてついに、彼女が作ったサンドウィッチを口にしてしまった。


その瞬間、物凄く嬉しそうに笑ったルシータ嬢。これは反則だ…心臓が口から飛び出るのではないかと思う程、バクバクしている。そして、一気に顔が赤くなるのが分かった。こんな姿をルシータ嬢に見せる訳にはいかない!


そう思い、急いで稽古場へと戻った。その後稽古を終え、帰り支度をしているとジョセフがやって来た。


「トーマス、いい加減ルシータ嬢の気持ちを受け入れてやってもいいんじゃないのか?どう見てもあの子、お前の事が好きだろう!世の中にはお前の様なゴリラを好きになる令嬢もいるんだよ!そもそも、お前の爺さん。お前にそっくりなんだろう?その爺さんだって結婚できたんだからさ」


そう言って俺の肩を叩くジョセフ。確かにルシータ嬢の姿を見ていると、俺に好意があるのは確かだろう。


「お前だってルシータ嬢の事、いいなって思っているんだろう?だったらいい加減、腹くくれよ!男らしくない奴だな!」


そう言ってため息を付くジョセフ。確かに俺はルシータ嬢に好意を抱いている。ジョセフの言う通り、いつまでもルシータ嬢から逃げているのも失礼だよな。でも…


結局決心がつかないまま、中庭へとやって来た。そう、俺は見た目に似合わず、花が好きなのだ。美しい花々を見ていると、心が和む。


あぁ、この花、ルシータ嬢にあげたら喜ぶかもしれない。中庭に来ても、考える事はルシータ嬢の事ばかり。俺は完全にルシータ嬢の虜になっているのだ。


ふとベンチの方に目をやると、そこにいたのはジョンとルシータ嬢だ。2人で仲良く話をしている。楽しそうに話すルシータ嬢。どうしてルシータ嬢は別の男と2人でいるんだ?俺の事が好きなのではなかったのか?


それにしても、あの2人、ああやって並んでいるとお似合いだな…理不尽な怒りと虚しさが俺を襲う。やっぱり俺には、ルシータ嬢とは釣り合わないんだ!クソ!


気持ちを抑えられず、1人稽古場へと戻り、竹刀を振るう。どんなに振るっても、心が晴れない!結局モヤモヤしたまま、屋敷に戻って来た。その日はイライラして、ろくに眠る事が出来なかった。


翌日

ジョンに嬉しそうに何かを渡しているルシータ嬢を目撃した。再び体中から怒りが沸きあがって来る!クソ!どいつもこいつも!イライラしたまま、稽古に励む。そして休憩時間、いつもの様に嬉しそうに俺の元にやって来たルシータ嬢に、あろう事か怒りをぶつけてしまった。


自分でもびっくりする程、醜い感情をルシータ嬢にぶつける。最低だ!止めろ!頭の中では分かっていても、どうしても抑えきれない。結局ルシータ嬢に、“二度と稽古場に来るな”と、物凄く酷い言葉を吐き捨ててしまった。


そしてそのまま、その場を後にする。


「待てよ!トーマス!一体どうしたんだよ!なんであんな酷い事をルシータ嬢に言うんだ。可哀そうだろう!」


俺もルシータ嬢が可哀そうだと思う。でも…


「うるさい!迷惑だから迷惑と言ったまでだ!とにかく俺の事はもう放っておいてくれ!」


そうジョセフに言い放った。


「あの、騎士団長。ちょっとよろしいでしょうか?」


俺達の間に割って入って来たのは、ジョンだ。何だ、俺に文句でもあるのか?お前の可愛いルシータ嬢を傷つけたのだからな…そう思っていたのだが…


「あの…昨日俺とルシータ嬢が一緒にいるの、もしかして見ていたのですか?それなら誤解です!俺はルシータ嬢に騎士団長の情報を教えていただけです!ルシータ嬢が、騎士団長の事をずっと追いかけている姿を見て、協力してあげたくて…」


「でもお前はルシータ嬢に、今朝プレゼントをもらっていたではないか?」


「あれは昨日のお礼ですよ!そもそも、俺には婚約者がいますので!とにかく、ルシータ嬢は団長が大好きなんです!それなのにあんな酷い事を言って!ルシータ嬢、ショックで帰って行きましたよ!とにかく、謝って下さいね!」


そう言って去っていくジョン。俺に関する情報を与えていただけだと…それじゃあ、俺は完全に勘違いをしていたという事か…


「なんだ、お前の勘違いから来る嫉妬かよ!とにかく、早くルシータ嬢に謝れよ!」


そう言って去っていくジョセフ。謝れと言われても…俺はこんなにも酷い事を言ったのだぞ…どの面下げて今更会って謝れと言うんだよ…でも…


明日、もしルシータ嬢が来たら、きちんと謝ろう。そう思っていたのに、翌日もその翌日も、ルシータ嬢が騎士団に来る事は無かった。


「あ~あ、お前があんなにも酷い事を言ったから、ルシータ嬢来なくなっちゃったな…まあ、あんなにも酷い事を言われれば、誰でも来なくなるよな…お前さ、散々令嬢に怯えられて傷つけられたのに、自分に好意を抱いてくれた令嬢の事は平気で傷つけるんだな。最低だな!」


ジョセフの言葉が、胸に突き刺さる。確かに俺は最低だ。あんなにも俺に好意を向けてくれていたのに、俺はそれを踏みにじったんだ…


きっともう二度とルシータ嬢は騎士団に来る事はないだろう…

そしてもう二度と、俺に笑いかけてくれる事も、話しかけてくれる事も無い…


そう思ったら、涙が溢れて来た。泣くな!俺に泣く権利はない!そう、自分から大切な女性を手放したんだ…自業自得以外何者でもない…


どうする事も出来ず、ただただ涙を流すトーマスであった。



~あとがき~

自分で書いていて何ですが、トーマスはかなりヘタレですね…

今後もう少ししっかりして来てくれる事を願っていますが、何分私が書くヒーローたちはヘタレが多いので、期待できないかもです(;^_^A


引き続き、どうぞよろしくお願いいたしますm(__)m

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