第12話 頼むから俺に絡まないでくれ~トーマス視点~

翌日、いつもの様に騎士団の稽古場で汗を流す。昨日はルシータ嬢のはにかんだほほ笑みが頭から離れず、あまり眠れなかった。クソ!あの殺人的美しさは一体何なんだ!


目を瞑ると、ルシータ嬢の美しい姿が浮かぶのだ!クソ!俺なんかに思われていると知ったら、きっとルシータ嬢は気持ち悪がるだろう!なのにどうして頭から離れないんだ!


イライラした状態で稽古に励む。その時だった。


「副騎士団長が連れているのって、妹のレイラ嬢とルシータ嬢じゃないか!嘘だろ!社交界で有名な2大美女がこんなむさ苦しい騎士団に来るなんて…」


ふと見学席の方を見ると、確かにルシータ嬢の姿が!つい釘付けになってしまう…駄目だ!見るな!目に毒だ!


「お前たち!稽古に集中しろ!」


団員たちにげきを飛ばし、さらに稽古に集中する。そこにやって来たのは、ジョセフだ。


「すまん、あいつらを連れて来ていたら遅くなった!」


そう言って俺に手を合わせるジョセフ。こいつ、一体どういうつもりなんだ!そう怒鳴りたい衝動を必死に抑え、稽古に励んだ。そして休憩時間。美女2人に群がる騎士団員たち。そりゃそうだろう、こんなむさ苦しい所に美しい令嬢が来ているのだから…


チラリとルシータ嬢の方を見ると、何を思ったのかこちらにやって来た。そして


「あの、初めまして!ルシータ・ジョーンズと申します。昨日は革命軍から助けていただき、ありがとうございました!あなた様の勇ましい姿を一目見た瞬間から、私の結婚相手はあなたしかいないと確信いたしました!どうか私と結婚して下さい!」


それはそれは美しい笑顔で、俺に手を差し伸べて来たのだ。

この女は何を言っているのだ…俺とけ…結婚だと!この生きた芸術作品とまで言われているルシータ嬢が、ゴリラ顔の俺と結婚したいだと…


あり得ないだろう。そうだ、きっとからかわれているんだ!それでも美しいルシータ嬢にプ…プロポーズされたのだ。冷静でいられる訳がない。正直なんと返したか覚えていないが、とにかく急いで騎士団の稽古場へと戻った。


胸が物凄くドキドキしている…

クソ、何なんだよ!


稽古が終わると、話しかけてきたのはジョセフだ。


「なんでルシータ嬢の渾身のプロポーズを断ったんだよ!あんなにも美しいルシータ嬢と結婚出来るかもしれないのに!」


「お前はバカか!俺をからかっているに決まっているだろう!そもそも、俺みたいな男に惚れる令嬢などいない!」


そうだ、きっと何かの間違いだ!あんなにも美しい令嬢が、俺と結婚したいなんて…


「まあ、2年前の事があるから、お前が慎重になるのも分かるが、ルシータ嬢はお前をからかって楽しむような令嬢じゃないぞ!それに、真剣にお前に惚れているみたいだし」


「うるさい!お前の様な美しい男に、俺の気持ちが分かるか!とにかく放っておいてくれ!」


そうだ、こいつは物凄くモテる。そんな男に、俺の気持なんかわかる訳がない!



翌日

今日はどうやらルシータ嬢は来ていない様だ…

て、俺は何を残念がっているんだ!別に彼女が来ようが来まいが、俺には関係ない!とにかく稽古に集中しよう!


そして休憩時間に入った。その時だった。


俺の前に現れたのは、小麦粉を頭から被ったのか?と言うくらい、顔も頭も真っ白にしたルシータ嬢が、それはそれは可愛い笑顔を向けて立っていた。そしてバスケットから1つケーキを取り出すと


「トーマス様、おはようございます!今日はカップケーキを作って来ましたの!ぜひ食べて下さい!」


そう言って俺にケーキを渡して来た。固まる俺に


「トーマス様!これは私が今朝手作りしたものですので、ぜひ食べて下さい!」


そう言って、俺の手にケーキを乗せた。一瞬彼女の柔らかい手が、俺に触れた。その瞬間、鼓動が一気に早くなる。でも、髪も顔も真っ白。さらに服も食材でかなり汚れている。


でも、それはそれは可愛い笑顔で俺を見つめているルシータ嬢。正直可愛い以外言葉が見つからない…


おっと、見とれている場合ではないな。すぐに髪と顔が小麦粉で大変な事になっている事を教えた。すると、真っ赤な顔をして俯くルシータ嬢。その姿が、また可愛い…


ルシータ嬢が他の騎士団にもケーキを分け与えた事で、一気にケーキに群がる団員たち。俺は正直甘いものが苦手だが、せっかくだから1口…うん、やっぱり甘いな。でも、それなりに美味い…


その日は急いで帰って行ったルシータ嬢。騎士団の稽古を終え、帰り支度をしている頃、団員たちが話している声が聞こえて来た。


「なあ、今日のルシータ嬢、可愛かったよな!」


「確かに、メチャクチャ可愛かった。それにしても、本当にルシータ嬢は団長の事が好きなのか?」


「バカ、そんな訳ないだろう?きっと賭けでもしているんだよ!だってあの団長だぞ!世界がひっくり返っても、ルシータ嬢が団長を本当に好きになるなんてあり得ないって!」


「それもそうだな!ハハハハハハ」



そうだ、俺は何を勘違いしているんだ…ルシータ嬢が俺を好きになるはずはない。とにかく、ルシータ嬢には極力関わらない様にしよう。後戻りできなくなる前に…

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