第9話 トーマス様の事を色々と教えてもらいました

騎士団に通い始めてから、1ヶ月が経った。残念ながら私の料理の腕はあまり上達しないが、それでも毎日一生懸命作っている。ただ、未だにトーマス様は食べてくれないけれど…


それでも諦める訳にはいかない!だってトーマス様が大好きだから!今日もいつもの様に料理人たちに教えてもらいながら、野菜とお肉を挟んだサンドウィッチを作った。と言っても、お肉の味付けは料理長がやってくれたので、私は挟んだだけだ!


それでも私にとっては上出来だ!今日もいつもの様に、ジョセフ様に書いてもらった入場許可証を持って、騎士団へと向かう。


「トーマス様、おはようございます!今日もサンドウィッチを作って来ました。今日こそは食べてくれますか?」


ニコニコ顔でトーマス様の隣に座った。そして、いつもの様にサンドウィッチを差し出した。相変わらず受け取る事をしないトーマス様。う~ん、それなら!


自らサンドウィッチを食べて見せた。もしかしたら、毒でも入っていると思っているのかもしれない。そう思ったのだ。


「ほら、毒など入っていませんわ!もちろん、料理の時はしっかり手を洗っていますし、それに料理長が味付けをしているので、味は確かです!」


だから安心して食べてね!そんな思いで、トーマス様にサンドウィッチを渡した。すると…受け取って食べてくれたのだ!やったわ!やっとトーマス様が食べてくれた。


「美味いな…」


ぼそりとそう言ったトーマス様!やったわ!嬉しくて嬉しくて、天にも昇りそうな気持になった。


その後すぐに騎士団の練習に向かったトーマス様。


「聞いて、レイラ!トーマス様がサンドウィッチを食べてくれたのよ!やったわ!」


「それは良かったわね!それにしても、ルシータの恐ろしいほどのしつこさには、頭が下がるわ…」


呆れ顔のレイラ。恐ろしいほどのしつこさって…まあ、否定はしない。一応か弱い令嬢がいかつい騎士団長を追い回しているのだから、周りは何も言わないが、逆ならきっと大騒ぎになっているものね…


そしてある意味私はきっと、トーマス様にとって迷惑な女なのだろう。自分でも恐ろしい程自己中心的な事をしているという事は理解している。それでも、どうしても諦められない!


たとえしつこくて図々しい女と言われても、後悔だけはしたくないのだ。もちろん、トーマス様が別の女性と恋仲になったら、その時は辛いけれど…本当に辛いけれど身を引く覚悟はある!


でもそれまでは、何でもやりたいのだ!



「それじゃあルシータ、また明日ね」


騎士団の稽古が終わると、レイラは恋人のピーター様と一緒に仲良く帰って行く。親友の幸せそうな姿を見ると嬉しいのだが、やっぱり羨ましくも思う。私もトーマス様と一緒に帰りたいな…そんな事を考えながら歩いていると


「ルシータ嬢、今帰りかい?」


話しかけてきたのは、トーマス様と同じ部隊の騎士団員だ。確かジョン様だったわよね。


「はい、ジョン様も今帰りですか?」


「ああ、そうだよ!そうだ、良かったら騎士団長について色々と教えてあげようか?」


「それ本当ですか?」


「ああ、こっちでお茶をしながら話をしよう!」


そう言って連れてこられたのは、騎士団内にある中庭だ。騎士団の敷地内には、こんなにも素敵なお庭があったのね。


キレイな花々を見ながら、近くにあったベンチに腰を下ろした。


「騎士団長の事だったよね!騎士団長はああ見えて、物凄くシャイなんだよ!それから、意外と花が好きで、よくこの庭にも来ているよ!好きな食べ物は肉類全般。苦手な食べ物は甘い物!趣味は竹刀を振るう事!後、ああ見えて歌劇が好きなんだ、意外だろう?」


「まあ、歌劇がお好きなのですか?」


トーマス様からは全く想像が付かないわ!他にもジョン様がトーマス様について、色々と教えてくれた。結局ジョン様と2時間もこの中庭で話をした。


「ジョン様、今日はありがとうございました!あなた様のお陰で、色々とトーマス様の事を知る事が出来ましたわ!」


「俺は大した事はしていないよ!なんだかいつも一生懸命騎士団長の事を追いかけているルシータ嬢を見ていたら、応援したくなっただけだ!多分、何となく騎士団長もルシータ嬢の事が気になっているみたいだから、諦めずに頑張ってね!」


「はい、本当にありがとうございます!ジョン様!」


気が付いたら騎士団内にも、私の見方が出来ていた。そう思ったら、嬉しくてたまらない。それに、今日はトーマス様の事を色々と知る事が出来たわ!本当にジョン様には感謝しかない。


そうだわ、明日お礼にお菓子を焼いて行こう。と言っても、カップケーキしか作れないけれどね。


美しい夕焼けに照らされながら、ルンルン気分で馬車に乗り込むルシータであった。

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