To do or not to do.
昔、カブトムシが街を闊歩していました。待ち合わせがありましたが、余裕を持って出ていたので、カブトムシは特段急いでいるようではありませんでした。
すると、道の隅の方で大きな荷物を重たそうに運んでいるアリがいるのをカブトムシは見つけました。カブトムシは迷いました。アリを助けるべきだろうか。もちろん助けるべきなのだろうが、余計なお節介だと言われてしまえばそれまで。それに、アリならば近くに仲間がいるかもしれない。しかし、やはり……。
考えているうちに、アリとカブトムシはすれ違ってしまいました。カブトムシは振り向きました。やっぱりアリは重たそうな荷物を持ったまま。
カブトムシはできるだけアリのことを思い出さないように走りました。
あれからどれだけの時間がすぎたでしょうか。カブトムシは、また同じ街を歩いていました。待ち合わせに間に合うかどうかの瀬戸際です。すると向こうから、テントウムシが荷物を持ってやってくるのがカブトムシの目に入りました。同時にこの前の気持ちがふつふつと湧いてきました。
カブトムシは腕時計を一瞥して、テントウムシの元へ駆け寄りました。
「荷物、持ちましょうか」
硬くて、言葉が出づらい、ですが不思議と心地よい違和感をカブトムシは感じました。
カブトムシはそれをひょいと担ぎ、駅まで一緒に歩いていきました。
「ありがとうね」
テントウムシは深くお辞儀をして改札をくぐりました。カブトムシの時計は随分進んでいました。しかし、カブトムシが気分は晴れやかでした。
「私は助けなかったのに」
誰かの声がカブトムシの耳を刺しました。
声がした方――カブトムシの足下には、アリがいました。
アリは足早に改札の奥に消えていきました。
思わず振り返ったカブトムシの眼には、テントウムシの荷物がアリのそれより一回り小さく見えました。
カブトムシはしばらくホームに立ち尽くしていました。空は曇りです。
灰斗がれゑじ 江戸文 灰斗 @jekyll-hyde
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