視線の先には

「もうさ、一回言ってみたら?」

 三回。このセリフを吐いた回数。毎放課言ってる気がする。

 なんでかっていうと、目の前のこの男――光留のせいだ。こいつは毎放課私の真ん前の席に座っては大きなため息をこぼしてくる。正直意味わかんない。

「えー、でもさぁ」

 さっきからずっとこの調子だ。この後に絶対、勇気が出ないとか、成功するビジョンが見えないとか言うんだよ。女々しすぎて友達ながら呆れちゃうね。

「最近よく一緒にいるじゃん。いい雰囲気なんじゃないの?」

 飲み終わったいちごオレのストローで光留の見てる方を指しながら言った。そう、いい雰囲気だと思う。あの子と話すようになってからの光留は楽しそうに見える。彼の視線の先、女子の集団の中にいる子。あっちもチラチラ光留を見てきてる。相思相愛ってことじゃないの?

「そういうことじゃねえんだよ。気持ち的な最後の一押しが足りないって言うか」

「知らねぇー……。私にそんなこと言わんといてよ」

 私は光留の横顔を盗み見てみた。顔が悪いってわけじゃない。こないだクラスの子が井上くんってイケメンだよねって話をしてたのを聞いたから、まあいい方なんだろう(その時、私はあまりの衝撃に大きな声が出てしまった)。

 そのクラスの子が、今、光留の眺めている女の子。結構可愛いと思う。けど光留、こんなタイプが好きだったんだと意外に思った。

「さすがに、もうそろそろだよなぁ。あいつにも言うっつったし」

 そう言って光留は立ち上がった。そして天井を見上げてふーっと大きく深呼吸した。勝手に私の心臓の鼓動が早まる。

「今日の帰り、告るわ」

「ん、頑張って」

 私は精一杯のエールを込めて光留の背中を叩いた。光留はちょっとよろめいて、私の方に振り向いた。

 光留は高校生になってから妙に色気づいたせいでゆるくパーマのかかった髪を乱雑にかいた。なんだよ、早く行けっての。

「今日、一緒に帰らん?」

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