シークレット

  カフェ。机の上には二杯のコーヒー。優吾はホット、明日美はアイス。

  優吾、椅子に深く腰かけている。コーヒーに砂糖を入れている

  明日美、入ってくる


明日美 「どうしたの、急に呼び出して」

優吾 「すまない」

明日美 「すまないって、優吾どうかしたの?」

優吾 「僕の秘密を聞いて欲しいんだ」


  明日美、席に座って優吾に向き直る


明日美 「秘密?」

優吾 「ああ。僕という存在が掻き消えてしまってもおかしくないほど重大な秘密さ」

明日美 「そんな重大なことをどうして私に」

優吾 「だって君は僕の唯一の恋人だから。聞いてくれるかい」

明日美 「そんなふうに言われたら聞くしかないじゃない」

優吾 「僕はね、少し見栄っ張りな所があるんだ」

明日美 「そうね」

優吾 「だから、身長を少し高めに見積もって周りに言っていたんだよ」

明日美 「それが秘密?」

優吾 「ああ」

明日美 「ちなみに何センチ高く言っているの?」

優吾 「二センチ」

明日美 「たったの二センチ?」

優吾 「たったのだって!? 二センチなければ百七十センチ台と言えないのに!」

明日美 「そ、そうなのね。じゃあ本当は百六十八センチってこと?」

優吾 「シークレットブーツを履いていればね」

明日美 「……え? そっちの方がよっぽど重大な秘密よ? ちなみにそっちは何センチ?」

優吾 「十五センチ」

明日美 「てことは本当の身長より十七センチも高く言ってるじゃないの」

優吾 「……あとシークレットインソールで五センチ高くしてる」

明日美 「シークレットonシークレットじゃん」

優吾 「ああ、本当の身長は百五十センチということさ」

明日美 「百四十八センチでしょ。足の大きい人だなって思ってたらそういうことだったの。身長くらいどうだっていいじゃない」

優吾 「どうでもいいだって!? じゃあ君だってあの高いヒールをやめてくれよ! あれを履いている時、同じくらいになっちゃうじゃないか」

明日美 「あれは堂々と身長を伸ばしてるから優吾よりは潔いでしょ」

優吾 「何センチだ。あのヒールは何センチだ!」

明日美 「七センチ。元の身長は百六十三センチ」

優吾 「あっ、……」


  二人、気まずそうに沈黙


優吾 「五センチくれない?」

明日美 「あげない」


  再び沈黙


優吾 「あ、明日美も秘密ない?」

明日美 「浮気してること以外ない」

優吾 「そっかぁ」


  再び沈黙


優吾 「いい天気、だね」

明日美 「まあね」

優吾 「ところでさ。……マジで?」

明日美 「何が?」

優吾 「七センチ」

明日美 「嘘、五センチ」

優吾 「じゃあ百六十五センチかぁ……。浮気は?」

明日美 「マジ」

優吾 「まじかぁ」

明日美 「ここのコーヒー美味しいね」

優吾 「ああ。実は――」

明日美 「わかってるよ、優吾がこっそり砂糖入れまくってることくらい」

優吾 「そ、っか」


  優吾・明日美、同時にコーヒーを飲む


  幕

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