十年目
母が死んで十年経ったことを思い出した。
二か月ほど前、母の命日だった。私は、
何度も迎えた命日の中の一日としてその日をやり過ごした。
そして今、母が死んで十年経ったことを思い出した。
私は黄色い自転車が嫌いだった。幼稚園の先生曰く、私は黄色い自転車を見ると泣き出してしまっていたらしい。
あれを見ると母が私を追いかけてきたような気がした。母が私を叱りに来たような気がした。
母は私のことをよく叱った。同級生と喧嘩になった時も、晩御飯の汁物をこぼした時も、大怪我を負いかけた時も、母は私を叱った。
母は私を叱る時、じっと私の瞳を睨みつけた。それがちくちくちくちくと視神経を通って大脳に突き刺さるのだった。
晩年、母は自転車にまたがることすら困難になり、介護用ベッドの上に横たわって、またじっと天井を睨みつけていたのを覚えている。
母が死んで十年経ったことを、スーパーの駐輪場に停めてあった黄色い自転車を見て思い出した。
私は黄色い自転車を見て泣くのをやめた。
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