大人の時間

夜になった。大人の時間だと思ってた。

ガキの俺はズカズカと大人の時間に乗り込んだ。外に出たんだ。

夏のギラつく太陽は身を潜めたあともその体温を残していた。はた迷惑だな。

雑踏の声は欠片も聞こえない。耳が寂しい。だけどそれがより夜というものを感じさせた。

自由かって言われたらよく分からないけど、昼間に比べたら俺に突っかかってくるものは明らかに少ない。昼間はあんなに不自由だったけど、今は少し息がしやすい、気がする。

二歳だけ、二センチだけ、大きくなれたように思えた。

俺はどんどん歩いていった。


しかしつまらない。どの店も閉店閉店閉店。そりゃしょうがないが。

汗がじんわりと毛穴から染み出る。Tシャツの首元が変色する。風が質量を持つ。

帰ろうかな。いや、いい。もう少しだけ、高い視界で。

家に帰りたくないわけじゃない。でもなんでだろう、親に言われた通り寝るのが嫌なんだ。だから外に出た。

もっと夜でいたい。

どうして夜を一瞬で消費しなきゃいけないんだ。俺はドラクエの主人公じゃないんだぞ。

誰ともすれ違わないな。そんなもんか。

歩いても刺激がない。ほぼ無臭、かろうじて昨日降った雨の温度のない匂いがするだけだ。そろそろ飽きてきたな。

大人の時間ってなんだろうな。別にそこにいたとしても俺は子供のまんまだった。いつの間にか二センチ縮んで、二歳幼くなってしまっていた。

しょうがない。今日のところは大人の時間から退散する。また来るよ。俺が本当に二歳、二センチ大きくなれたら。

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