──そう、纏う

 地下鉄から登る。地上へ上がる。明順応。

 改札を通る。ホームへ入り、黄色いラインの前に立つ。電光掲示板を見る。次にホームを通るのは、特急。ここには止まらない。

 カタンカタン、少し遠くから気配がする。心臓が大きく鳴った。

 まだ来ない。見上げるが降ってくる様子はない。やっぱり直前になんないとダメか。

 ガタンガタン、どんどん近くなる。心臓が胸を強く打ち鳴らす。まだ来ない。

 もう疲れたんだ、勉強。もう楽にしたい。

 光が見えた。助走をつけて黄色いラインを飛び越えた。地面の感覚が消える。でかい壁が身体の横に迫る。

 今。来る。来た! 纏った。記憶の衣。そう、纏う。あ、そうだった。この公式で良かったんだ!

 別のでかい壁が目の前に来た。壁に捕まる。背後を電車が通り過ぎる。強い風圧。こわ。

 良かった、思い出せた。これで今日の小テスト完璧。やっぱり最高だ、『走馬灯勉強法』。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る