悪魔のお仕事と田原くんの近況


 私は思わず聞き返す。

「……面白いの、それ」

「面白いんだよ、やってる当人にとっちゃあ。あえて悪役に転生して、そこから善玉としての逆転劇を楽しむとかな。まあ、悪役で突っ走るってパターンもあるが」

「……ふうん」

「すげえ興味なさそーね、お前」

 うん、まあ、正直……ないかも。あまり……うん……ないかなあ。興味。

 なんていうんだったかしら、そういう系統の小説。ファンタジーのようなRPGのような。

 確かクラスで漫画とかアニメとか特に好きな子がよく持ってきて読んでいたような記憶があるけど。

「『ラノベ』っていうんだ」

 ああそうそう。ラノベって言ってた、確か。思いだせてすっきりした。ありがとう悪魔さん。

 それはそれとして、今の話にはおおいに疑問が出てくるんだけど。

「どんな?」

 転生したら最強の勇者か賢者か魔法使いかって言ったけど、その世界に参加した皆がそうなるのって無理じゃない?

 最強って、一番強い人のことでしょう。同じ強さの人が一杯いるなら、それはどうしたって、最強になれないんじゃないのかしら。

「お前、たまには鋭いことも言うんだな。見直したぞ」

 あ、また目をぴかぴかさせて笑ってる。感じが悪いった。なんだかもう、慣れてきたけど。

「仰るとおり、最強は一人だから最強だ。だからそういう世界の参加者は、一人に限定されてる」

 え? えーと……ということは、希望する一人ずつに、仮想世界を与えてるってこと?

「そういうこと」

 そんなことしたら、ものすごい数の仮想世界を作らなくちゃならなくなるんじゃないの。

「ああ。そりゃもう膨大な数よ。でも作るのは特に苦じゃない。大筋のパターンはそのままで、配置する登場人物の姿かたちとか? 設定とか? そのあたりをちょこちょこっと変えりゃいいだけだし。ていうかな、多くは完コピで全然いける」

 すごい手抜き仕事ね。いいのそれで。

「失礼なこと言うなよ。俺たちはちゃあんと参加者に事前説明してるぜ。他の奴と完全に被ってる世界観だけど、いいかって。で、いいって言った奴しか仮想世界に送り込んでない」

 ふうん。同意がとれているんじゃ仕方ないわね。

 でも、他人と全く同じ世界を渡されて、満足出来るものかしら。

「実際満足してるよ。人間なんてのは、99・9999パーセント独創力持ってないんだから。自分で汗水たらして新しいこと考えるより、すでに出来上がったものを丸呑みするほうがよっぽど楽。ぶっちゃけ、お前もそうだろ? 理想の世界作ってやると言われても、一から全部考えるの面倒くさいなって思うだろ。その世界の歴史、地理、動植物、物理法則、登場人物の生い立ち設定なんか、適当にそっちで整えてくれって思うだろ」

 …………そうね。ぶっちゃけ確かにそう。

 まあ、そもそも私仮想世界に行きたいとは思わないんだけどね。うん。だって空しいじゃない。どの未知本当じゃないと分かっている世界で、別キャラを演じて遊ぶなんて。

「くあー。さすがリア充様は、言うことが違うねえ」

 でも……田原くんどうなんだろう。天使が現実逃避してるって言ってたし。もしかしてこの世界から抜け出そうとして、悪魔の誘いに乗っちゃったりしてないかしら。で、変な仮想世界に送り込まれちゃったりしてないかしら。思いつめやすい子だし。

「ああ、そういう心配ならいらないぜ。あいつ、天使同様俺たちの話にも全く耳を傾けないからな。一人でカスタマイズに没頭し続けてる」

 ち、ちょっと待って、あなた田原くんに会ったの!?

「ああ。直に話をしたのは、俺とは別の悪魔だけどさ。近くを通るたび見には行くのよ。なにしろ人間にしちゃあ、なかなかカスタマイズがうまいからな。生きてるときにあの才能を開花させりゃあ、ひとかどの人間になれたとおもうぜ」

 ああよかった。やけになったりはしてないのね、田原くん。

 それが分かっただけでも大分気が楽になったわ。

 ところで……何を作ってるの、彼は。

「うーん、 一言で表現するなら、折り紙ランドだなあ」

 ……そういえば天使も『折り紙ばかり折っています』って言っていたか。実際折っているだけなのかと思ったら、カスタマイズで作っていたのね。

「いや、お前が想像してるのとはちょっと違う折り紙だな――ちょい待て、画像送ってやるよ」

 その直後画面に現れてきたものに、私は思い切り目を見張る。

 それは――それは、なんというか、巨大な折り紙で作られたお城――いや町だろうか――とにかくそういうものだった。




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