密着!? 進級物語24時

作:排球



ここは私立未知道みちみち高等学校、初代校長により『未知の道を切り開いていくことの出来るような人材を』という校歌の現代語訳じみたものをそのまま学校名にしてしまったような校名の、大きくもなくかといって小さいとは言い難い、そんな規模の学校だ。

 眼前にそびえ立つは重厚な扉。材質はステンレス、他の教室がベニヤ扉ばかりの中、ここだけ違うのは『なんか響きが良いから』らしい。

 ネームプレートには『家庭科室』の4文字。

「ふぅ……。コンコン、失礼しまーす」

「おう、朝生か。どうぞー」

 呼吸を整え、腹の奥底より渾身のノック音を捻り出す。声は2度。推奨される回数よりもあえて少なくする。

 何事も肝要なのは主導権、大抵の相手であればこちらへ譲り渡すこの必勝の策を黙殺。。

 扉の先には逞しい髭を備えた齢五十を間近に控えたおっさんの姿が。

 この男こそ我らが未知道高校唯一の家庭科教師にしてクラス担任の西城宝治さいじょうほうじ、通称サイホウ先生だ。

「ま、そこ座れよ」

 目上の人が指示してから座る。完璧なマナーだ。

 清掃の行き届いた床にあぐらを組む。

「……おっかしいなぁ。おじさん隻腕になった覚えはないんだけどなぁ……」

 そういうことだったのか、道理で机の方を指さしていた。

 立ち上がって机の上にあぐらを組む。

「……もういいや。そんでだな、なんで呼ばれたのか大体分かってるんじゃないか?」

「それがですね。この一週間考えに考えまくったんですけど、何一つピンとこなかったんですよね」

「マジかよ」

「ええまぁ。あ、もしかしてアレですか? なんか最近ガラス割りの歴代最多を抜き去ったとかそういうの」

 クラスの友人(一方的)と話している時にそんなことを言われたはずだ。たしか。

「ソレ初耳だわ。どうすんの君?」

「もしかして、言わない方が良かったですか?」

「……なんで呼ばれたのか、大体分かってるんじゃないのか? ヒントは俺の担当教科な」

「巻き戻しって事は窓ガラスの件は不問ですか?」

「ん? 何? カラス? おじさんよく聞こえないなぁ」

「サイホウ先生、流石ッス……!」

「言っとくけどガラスの件、教師の話題になったら即突き出してやるからな」 

「サイホウ先生、流石っス……」

 なんてこった。喉元にナイフ置かれちまった。

「それで、家庭科ですか?」

「そうそう。日々の授業態度とか思い返してさ」

「思いつかないですね……。そういえば先週どんな授業でしたっけ?」

「先週も何も半分以上出席してないんだよお前、そこ見落としちゃう?」

「そうでしたっけ?」

「……あのさ、この前渡した紙、見てない?」

「何ですかソレ……?」

 鳩が豆鉄砲を食ったよう表情のサイホウ先生、目の辺りを抑えた後、天を仰ぐ。

「先生、もしかして目に埃が……。良かったらハンカチ、使います?」

「元凶に慰められても、おじさん虚しくなっちゃうよ……」

 どうやら俺は埃だった。

「…………ここにお前の通知表情報(仮)がある。確定前状態、持ち出し厳禁の貴重品だぞ?」

 そういって投げ渡してくるサイホウ先生。手裏剣みたいにクルクルと回ってかっこいい。あとで教えてもらえないかなぁ。

 手元に収まった通知表、家庭科の所にはキラキラ輝く赤字の『1』。黒に彩られた体育の『3』やその他の『2』が赤字のリッチさをより一層引き立たせる。

「先生、これって……!」

「うん、流石に分かるよね」

「もしかして俺、家庭科の成績がトップだったんですか!?」

「…………うん。まぁ、ある意味、ね」

 トップ、頂点。アイアム――――ナンバー、ワン!!

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

「喜ぶな!逆だ逆、ヤバい方でトップなのお前。ある意味ってとこで察してくれない?」

「そっちですか」

「このままじゃ進級無理かなーって」

「またまた~」

「ところがどっこい、ソレがマジ」

「………………。先生!なんとかなりませんか!!」

「状況理解したからっていきなり暴れ出すんじゃないよ。備品壊したら折角助けてやろうって教師心も萎えちゃうよ」

「え、ここからでも挽回できる手段があるんですか!?」

「担任クラスの生徒だし?そりゃあ持ってきたさ、逆転の策」

「ホントの所はどうなんですか?」

「担当のとこから落伍者出すと評価落ちるんだよ」

「サイホウ先生、俺、先生のそういう所、良いと思います」

「どうせなら女子が落としてくれればなぁ。なんでお前なの?」

「へっへっへっ」

「……はぁ。にしてもなんでお前はここに入れたのかねぇ。大体出席点よ?お前の」

 なんで、なんでかぁ。こういう時はなんて答えようか。鉛筆の出目が冴えてた?なんか違う。うーんうーん唸っていると父ちゃんの金言を思い出す。


『いいか幸也、お前が未知高に入るというのはコアラが人間と一緒に生活するようなもの、正直いって住む世界が違うとしか言い様がない。多分このコロコロ鉛筆が良かったのか、なんで僕は渡したのだろうね? おかげで学費の工面が……。いや、栓なきことだ、お前は気にしなくていい。とにかく、今からおまじないを教えよう。お前が学校で困ったとき、とりあえずこれをするといい』


 ありがとう、父ちゃん。俺、やってみるよ!

 父ちゃんが教えてくれたおまじないを再現する。

 袖の中に反対側の手を突っ込むような仕草、完璧なおまじないだ。半袖だからやりづらい。

「うーん、おじさん、ここの闇を見た気がするよ」

「それで先生。逆転の策って何ですか?」

「ま、出席やら授業内容やらをひっくり返すような実績あれば問題ないって話でな」

 つまりは頑張れって事だな!

「要はこの応募で相応の結果を出せってこった」

「なんですかこれ?」

「そこはスイーツ中心に売り出してる企業でな。そこの商品キャッチコピーを公募中って訳だ」

「なるほど、これで良い感じの結果を出せ、ということですね」

「まぁ、そういうこった」

「へ~、でもなんでこれなんですか?」

「そりゃお前、やんごとなき事情だよ」

 そう言って懐に手を入れるサイホウ先生。

 ……なるほど!

「つまり、先生もおまじないってことですね!」

「おま……?」

 なんということだ、思わぬ仲間の登場にテンション急上昇。。

「わっかりましたともサイホウ先生!不肖この志麻、先生のご期待に必ずや添い遂げて見せましょう。おまじない仲間として……!」

「…………まぁいいや」

「では、早速取りかかろうと思います!失礼します!!」

「じゃ、期限は今週末だから、そこんとこよろしく」

「はい!!」


「と、いうわけで集まってもらったんだ」

「なーにが『と、いうわけで』だよ」

 今は日曜日、日 曜 日。期限のことをすっかり忘れていた。今週は多忙だったのである。うん。『最近出たゲーム面白いよね~』という会話についていく為の調査にかかりきり。

 何も悪くない。

 さっき常識人ぶった反応を返したのが加茂かも君。いつも辛気臭い顔をしている心労抱えがちな俺の友達だ。

『たすけて』とメッセージを送れば自宅まで飛んできてくれる親切さは目を見張るものがある。

「で、コイツは誰だよ」

 声のボリューム下げ気味に聞いてくる加茂君。

 三人目の参加者の事だろう、彼と加茂君とでは接点がないからね。友人の友人、一緒にいると気まずい関係になるやつだ。

「彼?俺の友人で、名前はカレイ=ライ=スパイシー君。親しみを込めてカラス君と呼んでくれ」

「はろー、よろしく」

「ど、どうも……」

 どうやら加茂君も例に漏れないようでタジタジだ。

「志麻、ちょっと」

 加茂君の手招き。

「ん、どしたの?」

「なんで滝沢の奴じゃなくてカ……カラス?を選んだんだ?」

 滝沢君とは俺と加茂君共通の友達だ。

 今の集まりが俺を真ん中にした線と線の集いだとすれば、outカラス君in滝沢君なら三角形になる。

「何言ってるんだよ加茂君、滝沢君は大の辛党。ここに連れてきてしまえば大切なスウィーツのキャッチコピーが『辛くない○○』しかでてこないじゃないか!」

「アイツ、辛党なのか……初耳だ」

「あ……」

 ふとした瞬間に顔を出す友達格差。なんかちょっと気まずい。

「ま、まぁとにかくこの面子でやっていこうじゃないか、うん」

「おぅけぃ」

「とりあえず、実物食べてその感想を書いていくか」

「えーっと、そのつもりだったんだけど……予定外の出費がかさんでさぁ。今千円位しか無いんだよね。はは」

「はは……」

 その愛想笑いは心に刺さるよ加茂君。

「しゃきーん、れんたる。トイチでかえす」

「おお、カラス君。もしや君が出してくれるのかい!?」

 トイチってなんだ?まぁいいや。

「乗るな馬鹿、トイチって意味分かんねぇのか?」

 当然とばかりに首を一振り。

「分かんねぇか……そっか……」

「どんまい」

「カラス、お前が元凶だからな?」

「おぅ」

「もういいや、俺が出すから、後で返せよ」

「加茂君……!君はなんて良い奴なんだ!。カラス君、これで俺たち、タダでスイーツ食べ放題だよ」

「バイキング、バイキング」

「タ・ダ、タ・ダ」

「あ と で か え せ よ ?」

「も、勿論さ。なんだよ加茂君、俺が約束を破るとでも思っているのかい!?」

「……」

 何も言わないのは一番心にくるヤツだよ加茂君。

「ほら、さっさと始めるぞ。どこで買えるんだ?」

「加茂君、君は財布だけでなくパシリまで……どこまで尽くす人間なんだ君は……!」

「おいこら言葉のチョイス。……はぁ、で、どこ行けば良いんだよ」

「「さぁ?」」

 カラス君と共に両手を水平に首を右方向に十五度。

 見事なコンビネーションだ。

「さ。さぁ……?」

「だって、一々どこの~とか確認する? 俺はしない」

「みー、とぅー」

「じゃあ、どうやって書くつもりなんだ……?」

「え、適当にスーパーとかで売ってるスイーツ買ってさ、ソレで良くない?スイーツ中心の企業なら、ケーキは確実に売り出してるだろうし」

「ないす、あいでぃあ」

「加茂君、どしたの反応ないよ?」

「いや、なんでここに来たんだろうなって後悔が、な」

「ふーん、まぁいいや。じゃあお願いね、適当にスイーツ……とりあえず一万円分」

「い、いちまんえん、ぶん?」

「だって、まとめ買いした方が楽だし?君も何回も行くの嫌でしょ?」

「……そのかねは?」

「何言ってるんだい加茂君、君がさっき借金でいいって言ったんじゃないか。もう忘れてしまったのかい?加茂君ってばお茶目だなぁ」

「…………は、は、は」

 何やら壊れた機械みたいな音が口から出ている加茂君、油ぎれの歯車みたいなぎこちない動きで立ち上がると、そのまま部屋を出て行った。


「じゃあ、食べていこう書いていこう!!」

「すたーと」

「……」

 加茂君は無言でケーキを食べ始める。

 目はこっちをむいていて怖い。

「さて、俺も食べていこーっと」

 目の前に佇む白と赤に彩られたスポンジのミルフィーユ。先ず一口。うん甘い。

「えーっ、これ甘い以外に書くことある?」

 反応なし。二人ともケーキと向き合っているようだ。

 暫くすると加茂君のペンが動く。『甘い』、終了。

カラス君は顔をしかめて何事かを考えているようだ。

 何かを決めたように頷くと、鞄から瓶を取り出し、中身をドンドンドンドンケーキへ垂らしていく。

「あー、カラス君? それは……」

「いっつ、しろっぷ」

「へ、へー。カラス君って甘党だったんだー」

「いぇす」

 カラス君は甘党だったらしい、初耳だ。友達レベルの低さを感じてショック。

「おい志麻。カラスを連れてきたのって……」

「みなまで言うなよ加茂君。まさか引き当てたのが滝沢君以上の地雷だったとは……」

「なんつー言い草だよ」

 見てるこっちが胸焼けしかねないぐらい、並々とかけられたシロップ。

 最早ケーキとは言いたくない代物を口へと運ぶカラス君、『ふぃふてぃ』の一言。

 ……あれでも足りないのか。

「……やっぱりさ、食べずにアイデア考えようか……」

「…………一万円分もさ、大量に買い込んだケーキ、どうすんの?」

「マジどうしようね。返品とか……ハハハ、冗談だって座りなよ加茂君、口から変な音漏れてるよ?後で皆で分けよう。そうしよう」

 機械を飛び越えて糸の切れた人形みたいな動きを始めた加茂君を宥める。

「ゆーのふれんど、くれいじー」

「カラス君?誰のせいで加茂君がこうなってしまったと思っているんだい?」

 無言でこちらを指さしてくるカラス君。まったく、これが文化の違いか……。

 とりあえずケーキは我が家の冷蔵庫に仮置きしておこう。ごめん飲み物たち、ごめん野菜室の面々。



「気を取り直して、じゃんじゃん書いていこう!まずは手始めに……『甘い!旨い!もう一皿!』……なんかしっくりこないな」

「まぁ、インパクトはないな」

「うーん、インパクト……」

 確かにこれでは客の気はひけない。上を向けば皆の目を釘付けにするような魅力、これがない。上にあって、皆の目をひく。……星?

「そうだ!『キラキラ輝く真っ白スポンジ(クリームでも可)』これならどうだ!?」

「なんだかなぁ、大仰すぎないか?」

「何でだよ。インパクトが~て言ったのは加茂君じゃないか!」

「やりすぎなんだよ。勢いが有り余ってて逆にスベってる感じか?」

 足りないと言ったのに今度はやりすぎ。

 全くもう注文の多いことだ。

「しーずん、すぺしゃる」

「シーズン?季節感ってことかい?確かにそっちで特別感を出していくのはアリだよね」

「イチゴのショートに季節感も何もないだろ」

「何言ってるんだよ加茂君、君の目は節穴なのかい?そこにあるじゃないか、頂で真っ赤に煌めく春の象徴が!」

 全く加茂君ときたら何にも分かっていない。

 スイーツの王道たるケーキのそのまた主役、つまりはキング・オブ・スイーツに最も近い存在であるイチゴを無視するだなんて……。

「これを放置するだなんて勿体ない!やっぱりイチゴを前面に出していくべきだよ。『味覚で感じる、爽やかな春の味覚』とか」

「その内容で実際には酸っぱかったら、詐欺呼ばわりされてもオーバーじゃないよな」

「加茂君さぁ。KYって呼ばれない?」

 まるでダムのような加茂君。この場の勢いを的確に、そして躊躇なく潰していく。

「なんだよ今度は何が足りないって言うのさ」

「……新鮮さ?」

「新鮮さぁ?じゃあ新鮮ピチピチだったら良いのかよ。瑞々しさがあれば良いんだね水々しさ。『圧倒的!カロリーの大洪水』はい!これでどう?水だろう?」

「もっとオブラートに包めって……。カロリー云々なんて見て買いたくなるのかよ」

「じゃあ加茂君はいないって言い切れるのかい!?」

「なんでそんなに喧嘩腰なんだよ。落ち着けって」

 元凶にそんなこと言われても落ち着ける訳があるか!

 とは言っても、このままではしょうがないので落ち着く。加茂君め、後で覚えてろよ。

「おう」

「ん?何か思いついたのかいカラス君」

「めいきっと、けいく」

 掲げる紙に記されたのは『make it, cake』。

「成程……、リズム感が良いのは確かに好まれそうだ。ちなみにmake itの意味って?」

「成功する、とかそんなだった筈」

「つまりはゲン担ぎも狙っている、ということかい!?

なんというハイレベルな……これもう最強じゃない?」

 カラス君は次々と『○○ it, cake』シリーズを量産していく。

 一度は恨んだこの人選、またもや株を急上昇中。

「ふーむ」

 はたと筆を止めるカラス君。ここで終わってしまうのか?

「らいどぉん、けいく」

 『ride on, cake』、これはつまり、上のイチゴ視点!!

「そうかその手があったか!素材視点からの謳い文句!例えばそう『呑まれる!?クリームの濁流に』とか!」

「誰向けのだよソレ」

 割り込んできては流れに水を差す。ネガばかりの加茂君に怒りのメーターが振り切れる。

「加茂君、もっと生産的なことは言えないのかい!?割らないと取り出せないような豚の貯金箱以下の役立たず口を求めて君にヘルプコールをしたつもりはないよ!」

「ど、どの口が…………」

 とはいうものの思う所があったのか、黙り込む加茂君。カラス君と二人で見守る。

「『ケーキ、ケーキ、wow』……どうだ?」

 どう、と言われてもなぁ。俺たちの沈黙で察してほしいところだ。

「……ま、まぁ。エイエイオーを狙ったのは伝わるね、うん。いいんじゃないかな」

 ……口出しばかりなので、もう少しレベルの高いものを期待していた、とは言えない。

 カラス君も開いた口をそのままにアホ面を晒している。多分、おんなじことを考えていることだろう。

「あーもういい!黙っとけばいいやとか思ってたけどもう我慢の限界だ」

 微妙な空気から俺たちの言いたいことを悟ってしまったのかキレ始める加茂君。

 なんだなんだ。またダムろうっていうのかい?

「こういう応募って大体郵送って相場が決まってるだろ!何当日にやってんだよ馬鹿届くわけないってわかんねぇのかよ!」

「……え?」



「フゥゥゥ! なんて気持ちいい夏休みなんだ、カラス君!!」

「おぅ、いぇい」

 あの後必死こいて企画の情報を集めたところ、webで送る感じだった。

 ということでなんとか完了、当選こそなかったが俺たちの熱意に感じ入ってくれたのか、サイホウ先生は家庭科を2にしてくれた。

 先生の鏡!

 ついでにサイホウ先生から聞いたことだが、今回の投票、過半数が俺たちの応募だったらしい。あの量で? よほどの過疎企画だったのか……まぁいいや。

 重要なのは過半数が俺、ということ。これ即ち俺≑今回の企画(スイーツ)同然! 俺、ついに概念にまでなっちまうとは……。

「いやぁ、こんなに楽しみがいを感じる夏は初めてだ。何する? 王道の海、味覚のかき氷……うーん、考えるだけで楽しい」

「ふぁっと、りとる、ナウ。ダイエット?」

「ノー! ノーだよカラス君! 言いたいことは確かに分かるけれど、今は楽しむことが先なんだ。エンジョイ、ファースト」

 そう。点数の為、買いに買いまくった一万円分のスイーツ、そしてその膨大なカロリーの全てを三人で、その日の内に食べきらなくてはならなかったのである。

 結果、たった一日で若干のビフォーアフターを披露する 羽目になってしまった。 

「ひとまず楽しむ。ダイエットはまぁどうにかなるでしょ」

「おやぁ、何やら楽しそうな話をしてるじゃないかぁ」

 後ろから楽しげな雰囲気をぶち壊すような怨嗟の声と共に加茂君がやってくる。ダム健在だね。

「加茂君。どうしたんだいそんな死人みたいな顔をして」

「俺、お前、手伝った、あと借金。今度、逆、分かるよな?」

 幽鬼のように千鳥足で近づいてくる加茂君。その手には通知表と紙切れ、デジャヴかな?

「なぁカラス君、いや~な予感が……ていない!?」

 さっきまで対面にいたはずのカラスは幻影? 机の上には『ミーとカモ、のっとふれんど』のメモ書き。

「見てくれよこれぇぇぇ……体育落としちまったんだぁ……勿論助けてくれるよなぁぁぁ?」

「ちなみに内容は?」

「夏休み返上レベルで毎日運動してもらってレポートに書く。ダイエットに丁度良いだろ?」

「はっはっは」

 脱兎の如く逃げ出した。

 

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