バニラ味

作:雨龍



 ある時見たバラエティー番組の「ハーゲンダッツ人気投票」が気に入らなかった。

 1位から5位の味を予想するもので、僕はてっきり「バニラ味」が1位になると思っていた。だが結果は意外も意外。

 何とキャラメル味が1位で抹茶が2位、ストロベリーが3位に入り「バニラ味」が4位という結果だったのだ。

 僕はこれが何とも不服だった。確かにキャラメル味は美味かろう。(食ったことないけど)抹茶だって、ストロベリーだって。でもだ、やっぱりそれでも「バニラ味」が1位じゃないといけない。「バニラ味」は絶対不変の1位じゃないといけないのだ。

 僕はテレビの向こうにいる人気投票に参加した人に「ずれてるなぁ………」と呟いてしまった。それはもう本当にずれている。例えるなら「日本人で凄いバッターは誰ですか?」と聞かれ、「王貞治」でも「イチロー」でもなく、「ロッテのぉ、角中?」というくらいずれている。

「バニラ味」はアイス界の王にして英雄、原点にして頂点。絶対的レジャンドであるべきなのだ。

 


 さて、さっきから僕はなぜアイスも溶けるような熱量で「バニラ味」を語っているのか。それは昔食べた「バニラ味」が忘れられないからである。

 僕は結構昔の記憶を覚えている。幼稚園の砂場でスコップを使いたかったけど、それはあの怖い「ちかちゃん」のお気に入りだからやめておこう。という記憶が昨日のことのように思い出せるくらい覚えている。

 まぁそんな昔の記憶がある僕だから、昔食べた (3、4歳かな)の「バニラ味」も覚えていた。

 あれはたしかアピタ・ピアゴの中にあったアイスクリーム屋だったと思う。入口の自動ドアが開くと、もう真ん前にはピンク色のアイスクリーム屋の看板が立っており、二人のお姉さんがアイスクリームを、愛嬌を振りまきながら作っていた。甘いものが大好きだった当時の僕としては黙ってみているわけにはいかない。

 あの時の買い物メンバーと言えば、お母さん、おばあちゃん、そしておばあちゃんに抱っこされる僕。という構成だったと思うから、おばあちゃんにせがめばアイスクリーム屋への潜入はわけなかった。

 そこでおばあちゃんに買ってもらうアイスクリームは、もちろん「バニラ味」。そこに、アピタに来た時だけのスペシャルトッピングで、何やら色とりどりのチョコの味をした粒が「バニラ味」にまぶされている。

 あの目がくりっとした綺麗なお姉さんに手渡されたそのアイスクリームは、一口食べた時には齢3にして天国にいくような心地だった。

「バニラ味」がとても甘く、それでいてさわやかで、そこに「色んな色の粒」がいいざらめ感を出して「バニラ味」を引き立たせている。

 まだまだ色んなお菓子と出会っていなかった当時の僕にとって、あのアイスクリームは甘味の帝王であった。

 その後、齢を重ねるにつれて抹茶、ストロベリー、チョコといったあらゆる味のアイスクリームを知っていったが、やっぱり帝王は「バニラ味」である。別に好きな味だからという事ではないのだ。好きな味ならば僕は抹茶が一番好きだ。でもそういう事じゃない。「バニラ味」は好きとか嫌いとかそういうしがらみを超えたところにある味でないといけないのだ。

 あの日、アピタで食べた最強の「バニラ味」。あれから僕のレジェンドは「バニラ味」なのだ。異論は認めない。

「バニラ味」

 それが一番。絶対不変のみんなが愛する一番。あのバラエティー番組は見なかったことにしよう。

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