第10話 鉄道馬車の中で

 鉄道馬車は、王都に向かって走っています。


「お父さん、凄く強かったんだね!」

「パン生地をこねるのは、力が要るからな」

「?」

「力がとびっきり強ければ、大概の事は出来るぞ」

「僕もパン生地をこねて、強くなる!!」


「ダメよ!ナユタは確り勉強して、お母さんみたいになるのよ!」

「うん!勉強してお母さんみたいに頭が良くて、お父さんみたいに美味しいパンを作れる強い大人になるよ」


「「ナユタぁ!!」」

 お父さんとお母さんに抱き締められました。



 抱き締められて首が動いた拍子に、涙をこらえるアソウギ君が見えました。



「あ、アソウギ君……」

 何か言って慰めないと。

「あんな酷いお父さん、居なくなって良かったね、うちの子供になれば良いよ!」


「ナユタ君のバカァ!!どんなでも私のお父さんだよ!!ナユタ君なんで大嫌い!!!」



 アソウギ君は、後部の列車に駆けって行きました。



「あっ、慰めたつもりなのに……」


「ナユタ謝ってこい!!子供にとって親の悪口は辛いぞ!!」

「悪口言ったつもりじゃ無いよ?」


「どんな親でも、アソウギ君にとっては、唯一の父親なのよ」

「……謝ってくる」


「なんて言って謝る?」

「ん?酷いお父さんって言ってご免」

「ダメだ!それじゃぁ謝った事にならんぞ!」



「ナユタ、何でアソウギ君が怒ったか、しばらく考えてごらん」





 分からない、アソウギ君を働かせて飲んだくれる。

 お金いっぱい貰ったのに、またアソウギ君を働かせる為、仲間と列車強盗までする、どうしようも無い親父だよ、アソウギ君は親父から離れる事で幸せになれるよね?




 待てよ···もしアソウギ君が僕のお父さんの事、美味しいパンは作るけど、お金勘定出来ないバカと言ったら?

 確かに、他の事一切お母さんに任せっきりだけど、本当の事でも僕は腹を立てるよね。




「アソウギく~ん!!」


 後部列車のすみに、アソウギ君は屈み込んで泣いていました。

「アソウギ君!ご免なさい!僕は酷いこと言って!許して下さい!!!」



「良いよ…私のお父さんは、ナユタさんが言うように、どうしようも無い人だから、謝らなくて良いよ」

「それでも、僕はアソウギ君の気持ちも考えず、酷いこと言ってご免なさい!!」


「……ナユタさん、君は良いやつだね!!」

 アソウギ君はまだ涙を流してはいますが、ちょっと笑顔をみせてくれました。

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