第2話 ねぇ殿下、一つお願いがあるんだけど
だけど一体何を驚く事があるんだろう。
父の立場と性格を考えれば、そんなのは一目瞭然なのに。
「だって父は王城での官職なんて持ってないのよ? そんな王城に大した伝手も無い人が、私の死を知らせる為だけにわざわざ届くかも分からない手紙を送る意味が分からないわ」
そう答えれば、彼はやっと観念して苦笑する。
「『もしお茶会の相手をご所望なのでしたら、ビクティーの妹・シリアはビクティーより余程器量が良い娘ですので』だと」
「あぁつまり、私が居なくなった事で空くだろう『殿下の懇意』を、溺愛している頭スッカスカの末娘で埋めたい、と」
納得だ。
父はせっかく手に入れた『殿下の懇意』という如何にも黒い駆け引きに向きそうな肩書をみすみす手放そうとするような人じゃないし、末娘への溺愛ぶりも少し異常なところがある。
多分本気で「アイツが勤められた立場くらい、シリアも得られて当たり前だ」とでも思っているんだろう。
「普段から賄賂が罷り通る世界で生きてるヤツだから、きっと今頃は胸を張って『ビクティーよりも見目の良い娘を献上してやる私は、なんて親切なんだろう!』とか思ってるわね、間違いなく」
思わずそう呟けば、殿下の顔が辟易としたものになる。
殿下、嫌いなのよね。
こういう裏工作も、無用な親切の押し売りも。
「で、どうする予定?」
ちょっとからかい口調でそう聞けば、彼にしては珍しく不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「まるで身分を弁えず、まるで個人を見ていない。そんなものを喜んで受け取ると思われているというだけで、心外すぎて気分が悪い」
やはり領地を腐らせている侯爵だけはあるという事か。
そんな言葉を履いた彼は、実際かなり気分を害しているようだ。
「まぁ夜会でいつも令嬢の濃い化粧とキツイ香水の匂いから逃げている殿下にとっては、我が妹の相手をするのはさぞかし不快で苦行でしょうね」
「全くだ。それにそもそも、お前の
「でも一応あれでもあの子は、殿方から会話面でも人気なのよ? もちろん私みたいに実益的な会話は出来ないけど、相槌の打ち方だけは一品だって」
因みに妹の三種の神器は「えーっ、知りませんでした!」「凄ぉい!」「もっと色々教えてください!」である。
単純な言葉だが、あれで結構男受けは良い。
私がそう説明すると、彼はフンッと鼻を鳴らした。
「やっぱり無駄じゃないか」
そう言うと思ってた。
が、お遊びもこの辺が潮時だろう。
私はコホンッと咳ばらいして、改めて本題へと戻る。
「ねぇ殿下、お願いがあるんですけど」
「言ってみろ」
「お父様にお悔みの言葉と一緒に『葬儀出席の申し出』をしてくれませんか?」
「葬儀? え、君もしかして――」
「えぇ」
彼の問いに、私はニヤリと笑みを浮かべてこう言った。
「お父様には私の葬儀をしてもらうわ!」
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