どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢なので家族に報復くらいはする~

野菜ばたけ@『祝・聖なれ』二巻制作決定✨

第1話 殺されそうになりました。



「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」

「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」


 王城は、王太子殿下の執務室にて。

 アポなしで訪問してその部屋に通されちょうど席に座ったところで、殿下言われてそう返す。

 

 でも驚くのは当たり前だ。

 だってその『ビクティー・シークランド』というのは、何を隠そう私の名前なんだから。




 私は侯爵令嬢だ。

 しかし家格は高くても、淑女然とはしていない。


 物言いも思考も行動力も、どちらかというと『男前』と称されるし、何なら男性よりも女性の方に人気がある。

 自分で言うのもなんだけど、令嬢としては欠陥品。



 しかしそんな私のいつも通りの不躾な物言いに、この国の王子は今日もとても鷹揚だ。


「ちょっとそれは酷くないか?」

「じゃぁ何アンタ、今目の前に居るこの私がまさか幽霊にでも見えるわけ?」

「そんな訳ないじゃないか」


 私の毒舌じみた軽口にも、彼はいつもの事だと笑って答える。


 彼はこんな私とも、平気で友人付き合いをしてくれる物好きなヤツで、こういう器の大きなところが私は中々気に入っている。


 そんな彼が言ったのだ。


「でも今しがた届いたこの手紙には、そんな事が書いてある」


 と。

 

 まるでゴミかの様にぞんざいに放り投げられたその手紙を見てみれば、封筒の裏には見知った名前が綴られている。


 ――ノトス・シークランド。

 私の父の名前である。



 その署名に、私は「はぁ」と息を吐いた。

 なるほどつまりそういう事か、と。


「ねぇ殿下、聞いてくれる?」

「何?」

「実はさっき王都に返ってくる途中で、馬車が事故に遭ったんだけど」

「おぅ」

「それが車軸が鋭利な何かで切られてたから、間違いなく人為的に起こされた事故でね?」

「おぉぅ」

「そのせいで私、危うく死ぬところだったのよ」

「おぉぉぅ」

「で、その後すぐに馬車を乗り換えてここまで来たのが今って訳」

「おぉぉぉぅ……」


 何かさっきから殿下がオットセイみたいな事になっている。

 それほどまでに、この事実が衝撃的だったんだろうか。

 まぁ私としては「あの父親ならいつかはやる」と思ってたけど。


「そんな目に遭っておいて、今をそれをまるで他人事のような淡々さで話す君にビックリだ」

「何だそっちか」

「君と君のお父上の確執はこれでも知ってるつもりだからな」


 その言葉を聞いた私は少しだけ安堵する。


 その部分を理解してくれているんなら話は早い。

 ……まぁ散々アレコレ愚痴っていたのは私だけど。

 

「なぁビクティー、それってつまり『その事故は全て侯爵たちによって仕組まれたものだった』っていう事だよな?」

「おそらくね。まぁお父様はそういう人よ。自分の都合が悪くなるとすぐに捨てる人なんだから」


 私はそんな父が嫌いだった。


 そもそもが、利益の為なら汚い事にも手を出す父とそういう事を嫌う娘。

 折り合いが良い筈がない。

 それだけじゃなく、私の場合この通り思った事はずけずけと言うタイプだから、猶更父ぶつかった。

 父は男尊女卑主義者なので、一人前にモノを言う私が目障りだというのもあるのだろう。

 


 分かっている、女だてらに政治や経済に興味を持ち造詣も深いような私が、貴族界ではかなり異端だって事は。

 しかもその才が父より秀でてるんだから、面汚しの上にさぞかし邪魔な事だろう。


 その上特に最近は、夜会で「今後の我が国の経済発展について」という話をして意気投合し、それ以降は度々王宮に呼ばれてお茶会という名目で議論したり、簡単な雑用仕事を一部手伝ったり。

 今日みたいに急に訪問しても通されるくらいには、殿下とも仲良くしてる。


「こういう伝手を持ってしまった私の事を、お父様はどうやら『自分を追い立てて女侯爵になろうとしている』と思ってるみたいなのよね。私には全くその気が無いのに」

「一応それ以外にもあるだろう? その……」 

「あぁ、もしかして『殿下と男女の仲なんじゃないか』っていうあの噂? まったくバカらしいわよね、私達は友人なのに」


 そう言いながら「そうか、それならもしかしたら『殿下の妃になって上から物を言えるような立場を手に入れようとしている娘』にも見える訳か、今の私は」と思い直す。


 が、私としては、全くその予定はない。



 気兼ねなく政治・経済の話ができる相手というのはとても貴重だ。

 他の令嬢にはそもそもそんな知識は無いし、こういう私を子息はたいてい敬遠するか馬鹿にする。


 少なくとも殿下ほど、きちんと興味を持って話を聞いて自分の考えを述べてくれる人は居ない。


 だから「そんな相手との間に色恋なんてものを挟んで、万が一にも無くしてしまうのはとても惜しい」と思っているのが実のところだ。

 まぁこれは秘密だけど……と、これはとりあえず置いといて。


「……ねぇ殿下」

「何?」

「とこでその手紙の中身、他にも何か書いてたんじゃない?」


 そう尋ねれば、殿下がちょっと驚いたような顔をした。


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