2-14.冒険者パーティー初体験
冒険者ギルドを出てから宿屋でぐっすり休み、体力はすっかり回復。霊力も完全に回復した。
明くる朝、わたしとカールリスさん、それにD級冒険者二人という急造パーティーは、サブレネフからマニエーレヴ方面へと、街道を進んで行く。例の、得体の知れない化け物の正体を探るのが目的だ。
ちなみに、マニエーレヴへ移動しようとする聖職者たちは、サブレネフで待機中。そりゃまあ、何が出てくるかわからん現場に、一般人を護衛連れで連れて行くメリットは何もないからね。
それはいいんだけど、彼らが雇った護衛の冒険者たちも、サブレネフでの護衛も契約に含まれているという理由で、誰も離れられないという。何だよそれ。いや、契約を杓子定規に解釈すれば、それが正しいのかもしれない。でも、状況を把握するために、最低でも一人は送り込もうとするのが、自然なのじゃないかね。
それに加えて、この聖職者連中に対する個人的な好感度も、最低ラインに下がっていた。
宿に戻る前、わたしは町の中心部にある真正教古典派の教会を訪れた。サブレネフ到着当日は、引き留められると面倒臭いと思ってスルーしたけど、すでに冒険者登録をしているから、旅の聖職者ですということで顔を出す方がむしろプラスに働くだろう、という判断もあった。
司祭様にご挨拶してから、地元の信徒と一緒に用具の手入れなどのお手伝いをしていた時に、その連中が、ドカドカと入ってきた。いや、押し入ってきたという方が正しいかもしれない。
「ふん、田舎らしく、狭苦しいくせに、ゴテゴテと悪趣味な飾りばかりつけているのお」
「「「……」」」
暴言を吐きながら、礼拝室を歩く無法な連中に、声も出ない。しかも、何だか臭い。昼間っから酒を飲んでいるらしい。
そんで、この連中、司祭様といろいろ口論していた。それはもう、汚い言葉で。ここは教会だぞ。どうやら、連中の宗派は古典派じゃなくて伝統派らしく、それに基づく教義論争でもしてるのかと思ってたけど、そうじゃないみたい。
一通りわめくだけわめいて満足したのか、そいつらが出て行った後、司祭様に聞いてみたら、まあ、くっだらないことを持ちかけたようで。クソ坊主というのは本当のことだったんだな、と思う。一応、ウソ坊主ではないらしいけれど。
そういうしだいで、その連中の護衛なんかは、頭を下げられても金を積まれても受けるもんか、という気になった。人間的にももちろんのこと、わたしも教会に根を下ろさない旅の聖職者なんて肩書きを使っている身、あんな連中と同一視されるのはすっごい迷惑だし。ギルドからの依頼を受けたのは情報収集までで、それ以上については保留にしてるけど、頼まれても断るつもり。
それはさておき。
パーティーリーダーのカールリスさんはかなりの場数を踏んでいるそうで、いろいろなことを教えてくれる。野営の仕方なんかはもちろん、身の安全を守るための工夫、いざという時に攻め込んだり逃げたりできるための体勢づくり、持ち物の整理、などなど。実績もけっこう多いらしい。ただし、直接戦闘に参加するわけじゃないので、恐らくCランクで打ち止めだろうとのこと。Bランク以上になると、通常の護衛程度では実績にならず、強敵をたたきのめす必要があるらしい。
「まあ、今回のバケモンを退治できれば、考慮されるかもしれねえけどな。でも、一人だけ生き残ってランクアップってのも、何か違う気がするしよ」
なかなか律儀な人らしい。
「それからアンタは、生活魔法が使えるんなら、パーティーでは重宝されるぞ」
冒険者がパーティーを組む場合、メンバーに魔術師を入れることが多い。攻撃魔法とか、防御魔法とか、支援魔法とか、そういう役割があるからだ。
「確かに、戦闘で使うのは、多くの魔力を行使する魔法だ。でも、生活魔法のように、弱い魔法を細かい制御で行使するのとは、根本的に違う。そして、生活魔法に長じた冒険者ってのは、そんなにいねえ。いや、少なくとも、俺は見たことがない」
「そうなんですか?」
「武器の整備とか、衣服の手入れとか、食事の準備とか。そういうところで体力や注意力を消耗することが多いんだよ。もし生活魔法を使えたとしても、練度が低いと魔力を消費しちまって、戦闘に支障が出ちまう。それじゃまずいってんで、魔力や集中力を温存するためにも、戦闘以外の場所では魔法を極力使わないようにする。だから、非戦闘要員かつ魔力消費が小さくて済むメンバーって、価値があるぜ」
もっとも、そういう価値を認められる器量がある冒険者に限るけどな、と、付け加える。
まあ、冒険者って、体力勝負の脳筋が多そうだし、後方支援の重要性をあまり認識しない連中もいるだろうね。カールリスさんなんかは、戦闘発生時にも縦横無尽に動いて指示出しをすることができるけど、わたしなら、霊術が有効でない場合、戦力にならないから。
「実際、用便の後始末とか、大変なんだよ。野営するとどうしても、そういうのが溜まるだろ。そうすると、匂いを嗅ぎつけて魔物が寄ってくることがあるんだ。だから、あらかじめ深い穴を掘って、用を足したら水なんかで薄めて、すぐに穴をふさぐ、なんてことをやったりする。<清浄>魔法一発ってのは、すごいありがたいんだよ」
「え? <清浄>魔法なんて、そんなに難しいものじゃないですよ?」
「術式は難しくないかもしれねえけど、使いこなせる冒険者はそんなにいねえんだよ。ただ清潔にしようと思って行使したら、術者の周辺から虫だの何だのが全滅して、数日たったら草木がみんな枯れちまうなんてこともあるしな」
「へ、へえ……実はけっこう、希少価値だったりするんですか?」
「希少とまではいかねえが、<清浄>魔法を使えるような奴なら、町中でいくらでも仕事があるからな。冒険者なんかやらねえんだよ。家事使用人とかな」
なるほど。一つの場所に根を下ろすつもりなら、<清浄>魔法を使ってご飯を食べていけそうなのか。スタニスワフ、ヤン、ヤコブの三体の霊に聞いてみたら、なるほどその視点はなかった、言われてみれば確かに、という反応だった。
ちなみに、<清浄>魔法が使えるんなら、歩いたまま垂れ流してもすぐに対応できて便利だよな、なんて言い出した。乙女の前で何を言い出すんだよ、と思ったけど、最悪の場合には、そういう手もあるのか。
残る二人の冒険者は、一人が片手剣と盾の併用、一人が槍使いという、いかにも戦士ですという出で立ち。どういう経歴なのか気になるけど、冒険者には曰く付きの人が多く、過去を探るのは御法度らしい。ただ、行動パターンが異なるとパーティーとしての連携がうまくいかなくなるから、ある程度の情報を共有しておくということになる。
「Fランクです。持久力はそれなりですが、腕力とか瞬発力とかは、一般人平均よりちょっと下ぐらいです。魔法は、戦闘に使えるレベルではありません。生活魔法だけは得意です」
こう自己紹介したら、ああ、このガキ使えねえな、って顔になった。脳筋タイプね。あ、霊術師であることは、まだナイショにしてる。聞かれたら素直に答えるけどね。
そういう次第で、接点がないこともあって、あまり会話にならない。カールリスさんの話も、恐らくは純粋に初心者向けなんだろう、彼らは興味を示さなかった。別に、雰囲気が悪いとかじゃないし、必要な情報はやり取りしているけど。
そして、何度目かの休憩をしているところで。
「そういやダンナ、そのバケモンってのが出たのは、そろそろかい?」
「ああ、だけど時間的には、まだ早いんだよ。俺たちが襲われたのは夕方だったから、その時間帯が一番高確率だとは思うけど」
その時、背筋にゾクッと悪寒が走る。
「何か来るよっ! みんな、警戒してっ!!」
わたしは思わず、大声を上げていた。
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最初の依頼では会敵しませんでしたが、今度はどうやら物騒な展開になりそうです。
次回は2022年1月12日(水)投稿予定です。8日(土)の更新はお休みさせて頂きます。
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