2-4.ギルドの応接室で秘密のお話をしたけれど

「あらためて自己紹介させてもらう。俺は、ウーマニ統括ギルドマスターで、ここサブレネフのギルド出張所を管轄している。こいつは出張所を管理するサブギルドマスターのイーゴル、そして受付担当のレーニャだ。さて、イーゴル、レーニャ。目で見たこと、あくまでも事実だけを、時系列で話せ。評価は不要だ」


「「は、はい……」」


 ギルマスのミコラさん、腕っ節はともかく、けっこう紳士的に見えたけれど。いや、外向きではソフトでも、内向きではとっても怖い人って居そうだし、そういうパターンだろうか。


 サブマスはガタガタ震えて言葉が出ないので、レーニャさんがボツボツと話していく。


「ふむ、なるほどな。さて、ヤーセミンと言ったか。ここまで、こいつの話した内容で、間違いはないか」


「おおむねその通りです。それで、わたしがこのように個別対応をさせられる件ですが、その理由をお聞かせください」


「うむ、君にはもちろんそれを聞く権利がある。まず、その白い光についてだが、通常、冒険者登録の手続をするとき、そういう現象が起こることはない」


 やっぱり、それはそうだよね。レーニャさんが顔面蒼白にしていたし、相当の珍現象なんだろう。


「そして、確証はないのだが、あれはヤーセミン君の特殊な身分、あるいは特殊な能力を示すことが考えられる」


「特殊な身分、特殊な能力、ですか?」


 はて。そりゃあ、曲がりなりにも教師なんてことやってたから、世間の平均値よりは知能が高いとは思うけど、特殊な能力ってほどでもない。身分に至っては、平民も平民、名字もないほどのド平民だ。


「とんと心当たりがない、という顔だな。そうなると、この線は消えるか。これ以外では、自分の能力を隠して逃走している、非常に強力な魔術師がいるという情報があり、その者が白く強い光を出して、不都合な情報を見せなくするというのだ」


「……あんな、人がいっぱい居る中で、ですか?」


「まあ、お尋ね者が、あんなことはしないよな」


 ミコラさんは苦笑する。これもないと判断しているのだろう。実際、わたしも魔法を使えなくはないけど、隠すほどの能力なんて全くない。


「それでもまあ、白い光という現象があるとなれば、俺としてもその“事実”は記録しておかないといけないし、容易に想像が付く心当たりは潰しておかなきゃならねえ。そういうわけですまねえが、ヤーセミン君のステータスをチェックさせてもらいたい。もちろん、その中身については、ここに居る者以外に漏らすことはないし、記録に取ることもない。ただ、ステータスをチェックしたという事実以上は残すつもりはない」


「その“事実”の中には、事象発生主体であるヤーセミンという人間の情報と、具体的ではないにせよ、ステータス上の特異情報も含まれますか?」


 細かいことだが、とても重要なことだ。


 単に、不可解な現象の原因究明のため、というのなら、協力の余地はある。でも、そこに“ヤーセミンという人間”が紐付けられるとなれば、話は別になる。この先、冒険者ギルドと関わる度に、世間の評判とは関係なく、“あのヤーセミン”と見られる。そんなのは御免だ。


 ミコラさんは沈黙したまま、ぴくりとも動かない。どう答えたものか、思案しているのだろう。レーニャさんは、いろいろ諦めたような感じで、脱力している。もう一人? 知らん。


 どれぐらい時間がたっただろうか。観念したかのように、ミコラさんが声を出す。


「わかった。それじゃ、こうしよう。ステータスをチェックする事実を含めて、記録には一切残さず、また、この三名以外には絶対に漏らさないことを確約する。その上で、開示してもらったステータスに何らかの特異情報が発見された場合は、その取扱いについて、その都度君と交渉する可能性を留保する。どうだろう」


「はい、けっこうです」


 弱気な対応だ。落とし所としては、かなり手前側に着地点を持ってきた。つまり、例の白い光とやらは、それだけヤバい要素を持っているということなのか。


「それじゃ、このロウセキの上に、手のひらをかざしてほしい」


「はい」


 わたしが、ミコラさんがテーブルの上に置いたロウセキの上に手をかざすと、宙に板状のものが出てきて、そこに文字や数字が書かれている。


「うわあ……」


これは、わたしの声。


「「「……」」」


 そして、ギルドの人たちは……声も出ない、というか、この表情は……。


「普通だな」「普通ですな」「普通ですね」


 三人の声が、仲良く、応接室に響く。


……。


………。


…………。


「なんじゃそりゃっ!!」


「そう言われてもな。君も見ればわかると思うが、一般人と比べて、体力やや低め、物理攻撃力低め、魔力ありだがやや低め、魔法攻撃力低め、器用さやや高め、素早さやや低め……正直、冒険者になるには厳しいと思えるステータスだ。まあ、年齢的にも引き留める理由はないけど、無理はしないようにな」


 さっきまでギラついていたミコラさんの眼が、何だか生暖かいものに変わっている。


「ちょっと待ってくださいっ! それなら、あの白い光って、何なんですかっ!」


「何、と言われてもなあ。さっき言ったよな、すぐ分かる心当たりは潰しておく、って。でもよ、君のステータスを見た時点でそういう心当たりってのが、もう無いんだ。だから、まあ、組織人としては、このヘンで幕引きにしたいわけよ。まあ、調べたいなら止めはしないが、君にも別にメリットはないと思うがな」


 ガックリと肩を落とす。いや、うわーこの娘すげーじゃん、という反応を、ちょっとは期待してたんよ。そうすれば、それなりに尊重される立場になって、便宜を図ってくれるような位置を占めて、旅が容易になって、なんてことを、ちょろっと考えていたんよ。


 でも、思いっきり空振ったわ。


 恥ずいとか思う前に、失望というか何というか、ともかく、悪い意味で力が抜けた。


 ちなみに、冒険者登録の手続は、ちゃんと進めてくれた。今回のゴタゴタがあったせいか、レーニャさんが担当になったらしい。いろいろと丁寧に説明はしてくれたけど、その眼には、いきなり災難だったね、というのが透けて見えて。


 まだ午前中だというのに、どっと疲れました。

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