第4-3話 先輩に おまかせ

『まずはコンビニのトイレに行け。トイレまで盗撮はしてこないだろう。

 鍵を閉めて、そこでログアウト。

 和技の姿に変更した帯論様が入れ替わって、ネット配信中にもかかわらず華麗にバク修復作業をしてみせよう』

「………」


 先輩の指示に従った和技は、不安なまま300年後の世界で、いつも帯論が使用するモニタールームに入った。

 300年後のモニタールームは、6畳ほどの空間に、玉子を縦に割った形をした座り心地の良さそうな椅子が中央に置かれているだけである。

 和技がその椅子に座ると何もない空間から、目の前にウィンドウが現れ『認証中』というメッセージが数秒現れた後、リビングテレビサイズの画面と、それより小さウィンドウが視界いっぱいに現れた。


『2D、3D地図。それから…』


 和技はたくさんあるウィンドウのうち、幾つかのウィンドウに視線を向けて、触れることなく近くに移動させる。

 目の前にある画面は、まるでどこかにカメラを設置しているかのように、和技の姿になった帯論と、数メートル後ろをスマホを向けて歩く困った女子高生の姿を目降ろすことができた。


『モニタールームに着いたようだな。

 オレ様の華麗なる行動とシステムチェックする様子を保存してやるから、和技は修復士として復習するように』


 あちらにもカメラがあるのかのように、帯論の声が届いた。


『自分と同じ姿をしたやつが画面にいるって、いつ見ても違和感あるよな。

 それはそうと大丈夫だろうな?』

『先輩に向かって随分な言葉だな』

『帯論さんの修復士としての腕は信頼しているけれど、も…。

 俺の姿で変な事をして、それがライブ配信されないかだよ』

『任せなさい。奥手な和技ちゃんのために、後ろの可愛い娘と仲良しになり、ワンチャンあるならば、その気にさせちゃおうじゃないか』

『ちょっとまて、何で別方向にいっているんだよ』

『なぁに、大丈夫、大丈夫。特別狩りだろうとも、恋に目覚めれば考えは変わる』

『そうじゃなくて』

『そういうわけで、和技は大船に乗ったつもりで、観戦してなさい』


 和技の目の前に『操作できません』と打ち込まれたウィンドウが現れた。


「…あ、あの野郎」


 ライブ配信に映らない角度にカメラ目線でウィンクする先輩に、和技は怒りにわなわなと震わせながら立ち上がった。

 向こうの世界に行くため、視線をドアに向けるが『ロック中』のウィンドウがすでに現れていた。


「解除、パスワード…あいつの事だから変なのに変えている。何かないか…阻止できる何か」


 和技はウィンドウに視線を向け、どうしようもない先輩を阻止できる方法はないか視線と頭を張り巡らせる。


「…」


 和技の視線が一つの小さなウィンドウに止まり、和技の表情か変わった。


「あ…」


 ただし、先輩の行動を阻止できるものを見つけた喜びではなく、蒼白し緊迫したものに。


『帯論さん、上…』


 和技の演技ではない声を聞き取れたのか、ベテランの勘なのか、画面にいる和技も見上げた。


「まずいな、あれは…」


 上空に一つの姿があった。


「飛んでる『特別な人達』が空を飛んでる」


 『普通の人達』である女子高生は、ライブ配信中のスマホを上空に向けた。


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