第5-1話 空飛ぶ人と青い空

 空を飛ぶ『特別な人達』が写ったライブ配信は、瞬く間に拡散されていった。


「それもこれも帯論さんが変な事をするから、対処が遅れたんだよ」


 300年後の進化と荒廃した世界。

 『普通の人達』を収容し管理した建物が見下ろせる公園で、ベンチに座っている和技は空っぽになったマグカップの容器を見ながら帯論に文句をこぼす。


「俺だって超能力者じゃねぇんだ、空を飛ぶ奴がいるなんて予測できるか」


 この世界の秘密を知る『特別な人達』は、特別だとバレる事をおおやけにしてはならない。

 特別に見える力は、それがプログラムだと知らない者たちにとっては、偏見を作り、そこから力の格差社会が生まれてしまうから。


 偶然とはいえ、ライブ配信という前代未聞の公開と、拡散を防ぎきれなかった事。

 あと、何だかの形で誰かが責任を取らなければの体裁で、和技は3日、帯論は一週間、架空世界のログイン停止という謹慎処分をくらった。


「後悔した所で、何も起こらん。

 そもそも失敗は誰にでもある。

 その失敗をどう活かすかが、真価というやつだ。起死回生、名誉挽回するぞ、和技」

「どうやって」

「まずは、あのとんでもない奴のデータ収集からだな。あの美ボディは非常にけしからん」

「………」


 脱線するのは、いつものことだが、和技も頷いてしまう女性だった。

 10階建ての建物より高い所を飛んでいたので大まかにしか分からなくても、凹凸の形状がしっかりとしたボディに、それを包む布たちはぴったりとくっついて、目のやり場に困る容姿だった。


「目立つ格好で、堂々と空を飛ぶなど、本当の外見じゃあないのは確かだ。

 大方、この前のクラスZ(犯罪に手を出した特別な人達)がやらかしたように、クラスD(プログラムで動くモブ)を改造して乗っ取っているだろう。

 俺らが修復士として撮った記録、それから周囲に設置してある監視カメラを洗いざらい見て探したが、あの美ボディ姉ちゃんの住所、氏名といった個人データは特定できなかった。

 まあ、まだ謹慎期間はあるからな、本当の世界こっちにこもって尻尾をつかんでやる」

「今の所、俺のAI(和技が本当の世界にいる間、代わりに生活してくれている)から送信されるメッセージには、変化は見られないが、もうちょっとで謹慎解除するから、色々、探ってみる」






 そして、架空世界に復帰した和技は青い空を見上げた。


「………」


 300年たった本当の世界に、青空は存在しない。


 毎日、台風並の風が吹き荒れ空を見上げる事すらできないでいた。

 300年の技術を施した服や乗り物があっても容易に出られないし、そもそも荒廃した地に誰も出ようとは思わない。


『300年前には、あったのにな…』


 見上げる先にある青い空は、どこまでも広く、宇宙と繋がっているように見えるほど深く感じ取れた。


 それが偽物であっても


「お兄ちゃん、何、ぼーっとしているの?おいてっちゃうよ」


 架空世界の青空を本物だと疑わない『普通の人達』が羨ましい和技であった。


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